高度専門職の解雇

能力不足を理由とする解雇

労働契約法によって、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、解雇は無効と判断されます。

能力不足を理由として解雇することは、不可能ではありませんが、解雇が有効と認められるためには、過去の裁判例でも厳しい条件が求められています。

能力不足だけを理由にして、会社がいきなり解雇をしても、認められる可能性はほぼありません。特に、新卒採用した者や長期間雇用してきた中堅社員を解雇することは難しいです。

能力不足の事実を明らかにする

会社が「能力不足だ」と主張しても、本人の自己評価と隔たりのあるケースが少なくありません。また、このような場合にトラブルに発展しやすいです。

労働契約法にも“客観的に”と規定されているとおり、会社による“主観的な”評価だけでは不十分です。

能力不足によって、会社に損害が発生したり、業務に支障が生じたりして、雇用を継続できないほど著しく能力が劣っていることを、会社が客観的に明らかにしないといけません。その際は、著しく能力が劣っていることが求められ、平均的な水準に達していないという程度では認められません。

指導や教育訓練を行う

解雇されると普通の従業員は収入源が絶たれます。解雇は最後の手段として、会社は解雇を回避するよう努力する義務があると考えられています。

その一環として、能力不足の従業員に対して、会社は指導や教育訓練を行ったり、研修を受講させたりして、能力の向上を促す必要があります。このような指導や教育訓練を行って、能力が向上すれば解雇理由が解消し、会社にとっても本人にとっても喜ばしいことです。

しかし、会社が繰り返し指導や教育訓練を行っても、本人が反抗的な態度を取る等して、能力が向上・改善する見込みがないと判断されると、解雇が認められやすくなります。

配置転換を実施する

通常、従業員を採用する場合は、将来的に配置転換もあり得ることを前提にしています。現在の部署や職務では適格性がないとしても、別の部署や職務では適格性があるかもしれません。

解雇を回避するために、配置転換の余地がある場合は、配置転換を実施する必要があります。また、例えば、課長から部長に昇進させたけれども、部長として期待する成果を発揮できないことが判明したときは、解雇ではなく、降格を実施することになります。

そして、配置転換をした部署でも指導や教育訓練を行って、それでも能力不足が明らかで、向上・改善する見込みがないと判断されると、解雇が有効と認められます。

高度専門職の解雇

高額の賃金を支払って中途採用したにもかかわらず、能力不足で賃金に見合った働きをしていない者については、通常とは異なる基準で解雇の正当性が判断されます。例えば、次のような者です。

このような者は職務や地位を限定して、即戦力として採用していることから、配置転換や降格は予定されていません。また、高度の専門能力や管理能力を持っているから採用したので、指導や教育訓練も予定されていません。

このような者については、新卒採用した者や長期間雇用してきた中堅社員と比べて、解雇を回避する義務が緩やかになり、能力不足を理由とする解雇が認められやすくなります。

つまり、職務や地位を特定して中途採用した場合は、その職務や地位に要求された能力があるかどうか、要求された業務を履行していたかどうか、が解雇の正当性を判断する基準になります。

ただし、職務や地位を限定して採用したとしても、賃金が高額でない場合は、解雇が認められやすくなることはありません。高い能力を期待していれば賃金も高額になるはずですが、賃金が低額になると、それに応じて会社が求めるレベルも低くなり、能力不足を理由とする解雇は認められにくくなります。

解雇トラブルの防止

求める条件を明示する

高額の賃金を支払うことを約束して中途採用しても、求める条件が漠然としているとトラブルになります。具体的に求める内容や目標(一定の業務の履行、専門能力、販売成績、売上金額、成果など)、及び、その期限を設定する必要があります。

また、採用する際はそれを本人に明示して、期限までに達成できなかった場合は退職してもらうことについて、同意をもらっておくべきです。目標を数値化していれば、期限が近くなったときに達成できそうかどうか本人も自覚できます。

採用試験を見直す

具体的に求める内容や目標を明確にすれば、どのような人材が適格か、また、採用の可否を判定する基準も明確になります。その判定を正しく行うために、採用試験の内容を見直せば、適任者でない者を間違って採用する可能性を減らせます。

雇用契約書で限定する

雇用契約書や労働条件通知書に、配置転換をしないこと、地位を限定すること、を記載していれば、会社の人事権(配置転換の自由)が制約される代わりに、配置転換を検討しなくても良いようになります。

期間を定めて雇用する

求める内容や目標を具体的に設定できない場合は、3年以内の期間を定めて雇用する方法も考えられます。契約期間満了によって雇止めすること、会社と本人の双方が希望した場合に限り、雇用契約を更新、又は、無期雇用に転換すること、とすれば解雇トラブルを防止できます。

退職勧奨

高度専門職については、会社による一方的な解雇が認められやすいとしても、裁判になると面倒ですし、判決を予測することは困難です。

会社は解雇を言い渡す前に、まずは退職勧奨を実施するべきです。本人が退職勧奨に応じて、退職届を提出してもらうか、合意文書を作成すれば、会社が強要等をしない限り、後になって不当解雇と訴えられることはありません。

会社が退職勧奨をする際は、応じてもらえれば、再就職をするための期間として半年分の賃金を支払うこと(金額はその都度の状況によります)、再就職支援サービスを利用できるようにすること等を約束します。もし、応じてもらえない場合はそのような支払いをしないで解雇すること、また、資料を示して正当な解雇理由があることを説明します。

ところで、外資系企業では成果を出せない従業員は直ぐに解雇をするイメージがあるかもしれませんが、外資系企業では応じなければ損だと思わせるぐらいの条件を提示して、退職勧奨で解決しているケースが多いです。

(2021/4作成)