解雇トラブル

反抗的な態度を取ったり、仕事ができなかったりすると、経営者は解雇したいと思うかもしれません。

しかし、従業員にとっては、解雇されると生活の糧を失うことになりますので、簡単に受け入れられるものではありません。

大した理由もないのに解雇をすると、トラブルになってしまいます。解雇トラブルを防止するためには、どうしたら良いのかお伝えします。

解雇が無効と判断されると

従業員を解雇してトラブルになって、その解雇が無効と判断されると、大変なことになります。

解雇が無効ということは、その従業員はずっと在籍していたことになります。そうなると、会社は、解雇した時点から解雇無効と判断された時点までの期間の賃金を支払わないといけません。

本来は、ずっと会社に在籍していたけれども、会社の間違った判断によって勤務できなかった、 勤務したものとして賃金を受け取る権利がある(会社に落ち度があり、その責任として賃金を支払う義務がある)、ということになります。

場合によっては、解雇して1年以上経ってから判断が下されることがありますので、数百万円の支払を義務付けられるケースもよくあります。

解雇を安易に考えていると痛い目にあいます。

解雇の条件

解雇が有効と認められるためには、いくつかの条件があります。

  1. 法律で解雇が禁止されている事項に該当しないこと
  2. 解雇予告を行うこと
  3. 就業規則の解雇事由に該当すること
  4. 解雇に正当な理由があること
  5. 解雇の手順を守ること

の全部を満たしてないといけません。1つずつ詳しく見てみましょう。

(1)法律で解雇が禁止されている事項に該当しないこと

労働基準法を始めとして、法律で解雇が禁止されているケースがあります。

育児介護休業法、男女雇用機会均等法、労働組合法などにも解雇を禁止する規定があります。禁止されている事項に該当して、解雇をしても、その解雇は無効になります。

解雇が法律で禁止される

  1. 【労働基準法第19条】業務上のケガや病気によって休業する期間及びその後の30日間
  2. 【労働基準法第19条】労働基準法第65条の産前産後休業の期間及びその後の30日間
  3. 【労働基準法第3条】従業員の国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇
  4. 【労働基準法第104条】労働基準法違反や安全衛生法違反の事実を、従業員が労働基準監督署等に申告したことを理由とする解雇
  5. 【育児介護休業法第10条】育児休業・介護休業の申出をし、又は育児休業・介護休業をしたことを理由とする解雇
  6. 【雇用機会均等法第8条第1項】女性であることを理由とする解雇
  7. 【雇用機会均等法第8条第2項】女性従業員が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを理由とする解雇
  8. 【労働組合法第7条】従業員が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し又は結成しようとしたこと、労働組合の正当な行為をしたこと、を理由とする解雇

労働基準法第19条(解雇制限)や労働基準法第3条(国籍、信条等を理由とする解雇)の違反については、解雇が無効になるだけでなく、労働基準法違反として6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金も科されます。

まとめ

労働基準法などの法律で、解雇が禁止される期間や解雇理由として認められないものがあります。これらに該当する解雇は無効になります。

(2)解雇予告を行うこと

解雇予告とは

労働基準法第20条で、解雇するときは、解雇予告を行うことが義務付けられています。解雇予告は、次のいずれかの方法で行います。

  1. 「解雇の予告」
    少なくとも30日以上前に解雇の予告(通告)をする
  2. 「解雇予告手当の支払い」
    解雇の予告をしないときは、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払う
  3. 若しくは、1.と2.を足して30日分以上

例えば、6月30日付けで解雇する場合は、少なくとも5月31日には解雇の予告をする必要があります。

若しくは、6月10日(解雇日の20日前)に解雇予告をして、10日分の平均賃金を支払えば(1.と2.を足して30日以上)、6月30日付けで解雇できるようになります。

なお、平均賃金とは、過去3ヶ月の間に支払った賃金の総額を、その期間の暦日数で割った金額のことを言います。

解雇予告が不要なケース

例えば、横領した従業員については、「どうして、こんな奴に解雇予告手当を支払わないといけないのだ!」と思われることでしょう。労働基準法第20条には続きがあって、

  1. 天災事変その他やむを得ない理由があって事業を継続できなくなったとき
  2. 従業員の不都合な言動によって解雇するとき

は、解雇の予告や解雇予告手当の支払はしなくても構いません。

ただし、このときは労働基準監督署から「解雇予告の除外認定」を受けないといけません。この「解雇予告の除外認定」を受けないで(解雇の予告や解雇予告手当の支払をしないで)解雇すると、労働基準法違反になります。

2.の場合の「解雇予告の除外認定」を受けることができる事例として、次のようなケースが例示されています。

これらは例示されているもので、このような重大で悪質な行為については、解雇予告の除外認定を申請すれば認められます。個別の事案については、最寄りの労働基準監督署にお問い合わせ下さい。

解雇予告が不要な従業員

更に、解雇予告には続きがあって、労働基準法第21条で、解雇予告が不要な従業員について定められています。

  1. 試用期間中の者で入社日から14日以内の者
  2. 2ヶ月以内の期間雇用者(契約を更新している場合は不可)

試用期間中であっても、入社日から暦日で15日目以降になると解雇予告の手続きが義務付けられます。試用期間中は解雇予告はいらないと思っている方もいるようですが、それは間違いです。

まとめ

解雇するときは労働基準法により、解雇予告が必要です。ただし、例外的に次の場合は解雇予告は不要です。

  1. 天災事変その他やむを得ない理由があって事業を継続できないとき
  2. 従業員の不都合な言動によって解雇するとき
  3. 試用期間中の従業員で、入社日から14日以内の者を解雇するとき
  4. 2ヶ月以内の期間雇用契約を結んでいる従業員を解雇するとき

なお、1.2.については労働基準監督署の解雇予告除外認定が必要です。

(3)就業規則の解雇事由に該当すること

従業員が10人以上いる場合は労働基準法により、就業規則を作成して労働基準監督署に届け出ることが義務付けられています。

そして、就業規則に必ず記載しないといけない事項の1つに、「解雇の事由」が定められています。

解雇事由の列挙

就業規則には、「こんなことがあったときは解雇します」と解雇の事由(理由となる事実)を具体的に列挙するのですが、解雇をスムーズに行うためには、解雇事由を整備しておくことが大切です。

そこで、従業員が何か問題を起こしたときに、就業規則の解雇事由に該当すれば問題ないのですが、解雇事由に該当するものがないのに解雇すると、その解雇は「無効」と判断されます。

なぜかと言うと、就業規則で具体的な解雇事由を定めたということは、裏を返せば「これに該当しない場合は解雇しません」と言ってることと同じと解釈されるからです。

したがいまして、解雇事由の最後の条項に「その他前各号に準ずる事由があるとき」と包括的な規定を設けるのが一般的です。これによって、具体的に当てはまる規定がなくても、同程度の違反行為であれば解雇できるようになります。

ただし、想定される解雇事由をできるだけたくさん列挙することが望ましいです。特に懲戒解雇の場合は、列挙した事由以外の理由で解雇を行っても無効と判断されます。

運用に際してのポイント

もう1つ大事なことは、処分が公平なことです。例えば、無断欠勤が多いという理由でAさんを解雇したい場合で考えてみましょう。

以前にも、無断欠勤がAさんと同じぐらい多かったBさんがいたけれども、Bさんは勤務成績が優秀だったので、無断欠勤を黙認して解雇しなかったとします。そのような事実があったとすると、Aさんの解雇は認められない可能性が高いです。

日頃から何かあったときは、就業規則に基づいて運用することが重要です。就業規則を大切にしていれば、就業規則は後で役に立ってくれます。

就業規則がない会社

従業員が10人以上いるにもかかわらず就業規則がない会社や、10人未満で就業規則の作成義務がない会社はどうなるのでしょうか。

その場合でも解雇はできないことはありませんが、基準がありませんのでトラブルになる可能性が高くなります。

最終的には裁判所の判断に委ねられますが、裁判では労働者保護が優先されるケースが多く、会社に対して厳しい判断が下されるのが一般的です。

解雇だけでなく、何か問題が起きたときに最初にあたるのが就業規則で、就業規則で取扱いが明確になっていれば問題が起こりにくくなります。

就業規則がない場合は、10人以上の会社はもちろん、10人未満の会社も、就業規則を作るようお勧めいたします。

労働条件の明示

従業員を採用する際は、雇用契約書等によって、賃金や労働時間その他の労働条件を明示することが、労働基準法で義務付けられています。

この労働条件の中には「退職や解雇の事由、定年年齢、退職手続き等」も含まれています。したがって、10人未満の会社も「解雇の事由」については考えないといません。そして、雇用契約書に示しておきましょう。

まとめ

就業規則で定めている解雇事由に該当しない解雇は認められません。

(4)解雇に正当な理由があること

労働契約法第16条により、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」ことが定められています。

要するに、解雇する場合は、それなりの理由が必要ということです。

懲戒解雇と普通解雇

解雇は、懲戒解雇と普通解雇に分けられます。

懲戒解雇は、従業員が重大な違反行為(懲戒解雇事由に該当する言動)を行ったときに、制裁として解雇するものです。

一方、普通解雇は制裁として行う解雇ではなく、やむを得ない事情が発生して雇用を継続することが不可能なときにする解雇を言います。

懲戒解雇と普通解雇に分けて、正当な理由をみてみましょう。

懲戒解雇の事例

懲戒解雇は懲戒処分の極刑で、退職金を不支給としたり、一部減額したりするケースが一般的です。

したがって、懲戒解雇が認められるためには、これまでの功績を無にするほどの重大な理由が必要とされています。懲戒解雇の事由として認められるのは、

  1. 経歴詐称
  2. 企業機密の漏洩
  3. 会社の金品の無断持ち出し
  4. 窃盗、横領、傷害等
  5. 長期の無断欠勤
  6. 取引先からの金品の受取
  7. セクハラ
  8. ・・・など

があります。

普通解雇の事例

普通解雇の例として、就業規則で定められているものは、

  1. 精神又は身体の障害
  2. 勤務成績の不良
  3. 職務の怠慢
  4. 協調性の欠如
  5. ・・・など

があります。

懲戒解雇については理解しやすいと思いますが、普通解雇については程度の問題で、どの程度なら解雇して良いのか具体的な基準がありません。

最終的には、その解雇に合理的な理由があるかどうか、裁判所の判断によるのですが、判例から基準といったものを引き出すのは困難です。

例えば、トラック運転手が茶髪にして解雇された事件では、解雇無効と判断されました。しかし、これが葬儀屋さんだったらどうでしょうか?認められるかもしれません。つまり、個別の事例ごとに結果が異なります。

まとめ

誰もが納得できるような正当な理由のない解雇は認められません。

(5)解雇の手順を守ること

例えば、横領などの懲戒解雇の事由に該当する言動があったときは、解雇しても問題はありません。ただし、勘違いがあるといけませんので、解雇をする前に、必ず、本人に言い分がないか確認しないといけません。

解雇でよくトラブルになるのが、「何の理由もないのに、いきなり解雇された」というものです。会社にとっては解雇するだけの十分な理由があると思っているのに、本人がそれに気付いていないケースです。

いきなり解雇すると

会社と本人とで意見が食い違いやすいのは次のようなケースです。

  1. 「遅刻や無断欠勤が多過ぎる!」
  2. 「販売成績が悪過ぎる!」
  3. 「業務命令にも従わず協調性が無さ過ぎる!」など

このような行為が繰り返し行われたとしても、いきなり解雇をしてはいけません。会社から注意していなければ、そのような行為は黙認されていたと判断されて、解雇も無効になってしまいます。

解雇の手順

このようなケースで解雇するときは、繰り返し注意しておくことが必要です。手順は次のとおりです。

  1. まずは、何度か口頭で注意や指導をします。このときに、本人の言い分を聞いて下さい。同時に、会社の考えを理解させます。
  2. それでも改まらないようであれば、始末書を提出させて様子を見ます。これを2,3回繰り返します。こういう記録を書面(始末書)で残しておくことで、万一、裁判等になったときに、会社は繰り返し指導を行っていたという証拠になります。
  3. それでも改まらないようであれば、減給や出勤停止などの重い懲戒処分を行います。その際は、注意を促すだけではなく、改善されなければ解雇もありえる旨を懲戒処分通知書に記載します。
  4. また様子を見て、それでも改まらない場合に、やっと解雇が可能になります。

自分のことを問題社員だと思っている人は余りいません。注意されなければ、本人は気付きません。このような手順を踏まないで解雇されると、「何の理由もなく、突然解雇された」と思うのが普通かもしれません。

この手順どおりに進めて解雇しようとすると、相当な時間がかかって面倒です。しかし、解雇というのは、従業員にとっては極刑ですので、細心の注意が必要です。会社を守るためにも、解雇を行うときは、このような手順が必要であることを理解しておいて下さい。

注意

口頭でも解雇は成立しますので、手順を踏む前は、腹が立っても、「クビだ!」「辞めろ!」「明日から来なくてよい!」と解雇を匂わすようなことは、言わないよう注意してください。

これを言ってしまうと、「その解雇は無効なので、さかのぼって給料を支払え!」「職場復帰を認めろ!」「慰謝料をよこせ!」などの要求が出てくるかもしれません。そうなると、会社の立場が悪くなります。

(2003/9作成)
(2014/6更新)