退職勧奨の仕方

解雇と退職の違い

解雇と退職は、会社を辞めることは同じなのですが、どちらに該当するかによって法律的な意味合いが全く異なります。

「解雇」は会社側から一方的に労働契約を解約することを言い、「退職」は解雇以外によって労働契約を解約することを言います。

そして、解雇の場合は、解雇予告を行うことが労働基準法で義務付けられています。

また、労働契約法により、解雇が適正と認められるためには、正当な理由が必要とされています。

解雇無効と退職無効の申し立て

解雇無効の申立て

「解雇は無効だ!」と主張されて、裁判で「解雇無効」と判断されると、解雇を行った時点から解雇無効の判断が下された時点までの間の賃金を支払わされることになります。また、解雇が無効となると、その社員を会社に復帰させないといけません。

解雇のハードルは高くて、裁判所はなかなか解雇を有効とは認めません。裁判に持ち込まれた事案では、会社側が勝訴するのは2〜3割と言われています。

退職無効の申立て

一方、「退職は無効だ!」と訴えられても、社員が退職届を提出していれば、退職の意思があったものとして、会社が強要や詐欺的な行為をしていない限り、退職の効力が覆ることはありません。

退職届が重要な証拠になります。

退職勧奨による退職

能力がなくて雇い続けられない、プライベートで問題行動が発覚した、協調性がなくて仕事に支障が出ている等、正当な解雇理由になるかどうか微妙なケースがあります。

基本的には、会社が指導や教育、話合いを行って正していくのが正論なのですが、繰り返し指導等を行っても改善されない場合があります。そのような場合は、解雇無効と判断されるリスクを避けて、話し合いで退職してもらうのが賢明です。

会社から本人に「辞めた方が良いのではないか?」と退職するよう勧めることを退職勧奨と言います。社員がこれに応じると、合意による「退職」となり、「解雇」には当たりませんので、解雇に関するトラブルを防止できます。

退職勧奨の合意を得る方法

賃金補償

会社は退職するよう勧めるだけで、退職勧奨に応じるかどうかは社員本人の意思によります。社員は退職勧奨に応じる義務はありません。

退職勧奨を行うことになった事情にもよりますが、会社から退職勧奨を行って、社員が「はい、退職します」と簡単に応じるケースは少ないでしょう。

したがって、社員の合意を得やすくするために、退職勧奨を行う際は再就職のための繋ぎとして数ヶ月分の賃金の支払を約束するケースが一般的です。金額は退職勧奨を行うことになった事情や年齢(再就職の難易)等によります。

退職届があれば後々のトラブルを防止できますので、「退職届を提出してくれたら再就職までの繋ぎとして○ヶ月分の賃金を支払う」と持ち掛けると良いでしょう。

その他の補償

退職勧奨を行うときに、上のような賃金補償が必要といった決まりはありません。次に挙げている項目も義務付けられているものではなく、個別の交渉によります。

退職勧奨と失業給付

自己都合で退職する場合の失業給付は、ハローワークに離職票を提出して7日間の待期期間があって、その後に3ヶ月の給付制限期間が付きます。この後の日に対して失業給付が支給されます。

一方、退職勧奨に応じて退職する場合は、7日間の待期期間のみで、3ヶ月の給付制限期間は付きません。自己都合退職の場合より3ヶ月早く受給することができます。

この場合は、離職票に離職理由の欄がありますので、退職勧奨にチェックします。ただし、入社して6ヶ月未満の場合は失業給付を受給できません。

また、退職勧奨の実績があると、雇入れ関係の助成金(個々の助成金で条件が異なります)がもらえなくなる場合がありますので注意して下さい。

無効となる退職勧奨

社員が退職を拒否しているにもかかわらず、繰り返し退職勧奨を続けたり、退職に追い込むよう執拗に迫ったりすると、退職を強要したとして慰謝料の支払が命じられることもあります。また、そのような状況で出された退職届は無効になります。

また、女性であることや労働組合員であること、婚姻、妊娠、出産などの差別的な理由で退職勧奨をすることは、法令に違反する行為となります。

更に、退職勧奨を拒否した者に対して、嫌がらせ目的の異動を命じたり、根拠のない懲戒処分を行ったり、給与を減額したりすることも許されません。

退職確認書

退職届の有無が重要なポイントになると説明しましたが、「退職には応じるけれども、退職届は出したくない」と言う社員がたまにいます。

会社から退職するよう言われたのに、「一身上の都合により退職する」と書きたくないと思っているのかもしれません。そのときは、「会社の退職勧奨に応じて退職する」と事実のまま退職届に書いても構いません。退職届として有効です。

また、退職届自体を出したくないという場合は、確認書でも、覚書でも、名称は何でも構いません。「平成○年○月○日に退職する」と退職に応じることを示す署名をもらえれば、証拠として有効に使えます。

なお、話合いの場では納得していても、後日になって「納得したけど撤回したい」と考えが変わることがあります。その場で直ぐに署名をもらえるよう、退職届や退職確認書をあらかじめ準備しておくことをお勧めします。

(2011/5作成)
(2014/6更新)