労働条件の明示【千代田工業事件】
千代田工業事件 事件の概要
会社は、求人票の雇用期間の欄に「常用」(期間の定めなし)と記載して、公共職業安定所(ハローワーク)に求人の申込みをしました。それに応募してきた求職者を採用しましたが、会社が作成した契約書の雇用期間の欄は具体的に記載していませんでした。
その後、会社が期間の定めのある内容で契約書を作成し直して、従業員は契約書に署名捺印しました。会社は契約書に基づいて、契約期間の満了によって、従業員を雇止めしました。
これに対して従業員が、雇止めは無効であると主張して、会社を提訴しました。
千代田工業事件 判決の概要
職業安定法は、公共職業安定所に求人の申込みをする企業に対し、その業務内容、賃金、労働時間等の労働条件を明示することを義務付けている。
その趣旨は、積極的には、求人企業に労働条件の提示を義務付けることによって、公共職業安定所を利用する求職者が、他の求人の労働条件と比較して応募先を選択できるようにするためである。消極的には、求人企業が現実の労働条件と異なる好条件をちらつかせて雇用契約を締結し、それを信じた労働者を想定外の悪条件で労働させることを防止し、職業の安定を図ろうとするものである。
このような求人票の真実性、重要性、公共性等から、求職者は求人票に記載している労働条件が雇用契約の内容になると考えるし、求人企業も求人票に記載した労働条件が雇用契約の内容になることを前提としている。
したがって、求人票に記載している労働条件は、当事者間でこれと異なる合意をするなど、特段の事情がない限り、雇用契約の内容になると考えられる。
これを本件に照らし合わせると、会社は、求人票の雇用期間の欄に「常用」と記載しながら、契約書の雇用期間の欄に具体的に記載しなかった。
会社は有期雇用の特別職とするつもりであったとしても、雇用契約の締結時にその意思を従業員に表示して、雇用期間について合意をする等の特段の事情がない限り、求人票に記載している労働条件に基づいて、期間の定めのない常用従業員であることが雇用契約の内容となる。
その後、従業員は、労働条件を変更する旨の明示はなかったと主張する。契約書による合意は、無期雇用から有期雇用に変更するものであるが、労使間の合意に基づくものであるから、明示の有無は問題にならない。
また、会社が、無期雇用の常用従業員の地位が解消されることを明示しなかったとしても、それは合意による当然の効果であって、現に従業員は、新たに雇用期間を設定することを認識していたので、会社が労働条件の明示義務を怠ったことにはならない。
なお、契約書の「6ヶ月ごとに契約する特別職の用紙にサインする」という記載から、従業員は雇用期間を設定することを認識していたとしても、それは6ヶ月ごとに更新されると期待・理解したと推認される。しかし、従業員がそのように期待・理解していたことを理由として、契約書による合意が無効になることはない。
従業員が契約書に署名捺印したことによって、無期雇用契約から有期雇用契約に変更したと考えられる。
本件は、期間の定めのある雇用契約を反覆更新していた事案ではなく、会社において、期間の定めのある特別職は、契約期間の満了後に更新される者がいたけれども、大部分が更新されることなく雇用契約を終了していた。
また、従業員が長期雇用を希望していることについて、会社が認識していたとしても、それはあくまで希望に過ぎず、会社が承諾したり、更新を期待できる状況にあったと認められる証拠もないことから、その他の事情を考慮しても、雇用契約の更新の拒否は権利の濫用に当たらない。
解説-労働条件の明示
会社が公共職業安定所(ハローワーク)に提出した求人票の労働条件と実際の労働条件が異なる場合に、労働条件はどうなるのか争われた裁判例です。
職業安定法(第5条の3)によって、次のように規定されています。
求人者は求人の申込みに当たり公共職業安定所、特定地方公共団体又は職業紹介事業者に対し、労働者供給を受けようとする者はあらかじめ労働者供給事業者に対し、それぞれ、求職者又は供給される労働者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
求人企業が公共職業安定所(ハローワーク)等に求人の申込みをするときは、業務内容、賃金、労働時間等の労働条件を明示することが義務付けられています。
求職者は求人票に記載している労働条件を比較して、応募先を決定します。求人企業もその前提で採用活動を行いますので、原則的には、求人票に記載している労働条件で労働契約が成立します。
ただし、個別に異なる労働条件とすることについて、当事者間で話し合って合意した場合に限って、合意した内容で労働契約が成立することが示されました。
この会社では無期雇用で募集していて、雇用契約の期間を具体的に定めていませんでしたので、当初は無期雇用で労働契約が成立していました。
そのまま進んでいれば単純な話ですが、その後、労使間で有期雇用に変更した契約書を締結して、会社が契約期間の満了によって雇止めをしたことから、後の契約書の有効性が問題となりました。
結果的には、個別の合意を優先するものとして、契約書は有効、つまり、雇止めは有効という判断になりました。契約書が重要ということです。
ところで、労働基準法(第15条)によって、従業員を雇い入れるときは、労働条件を明示することが義務付けられています。また、書面を交付して明示しなければならない事項として、「労働契約の期間に関する事項」が定められています。
会社が求人票と異なる内容で雇用契約書を作成して、本人が同意(署名)していれば、雇用契約書の労働条件が適用されます。
なお、職業安定法(第5条の3)によって、実際に採用するときに、求人票に記載した労働条件(業務内容、賃金、労働時間等)から変更するときは、本人に変更する事項を書面(本人が希望する場合は電子メール等)で明示することが義務付けられています。

