休業補償【神奈川都市交通事件】

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神奈川都市交通事件 事件の概要

タクシーの乗務員として勤務していた従業員が、平成7年9月27日に、乗務中に自動車に衝突され、頚椎捻挫等の傷害を負いました。

この交通事故により、従業員は休職をして、労災保険法による休業補償給付を受けていました。

しかし、その後、平成11年11月2日付けで、労働基準監督署により、同年8月31日に症状が固定したとして、同年9月1日以降の療養補償給付と休業補償給付を支給しないこと、及び、同年7月16日から同年8月31日までの休業補償給付は、通院した日のみを療養のため休業する日として、これら以外の日については支給しないこと、が決定されました。

一方、タクシー会社の就業規則には、疾病休職を命じられた者については、会社の指定する医師が治ゆしたと診断した場合に復職を命じるという規定がありました。会社の指定医の診断結果により、従業員は数日間の試乗勤務を経て、平成12年4月16日からタクシー乗務員として復職しました。

そして、休職期間中は無給であったため、従業員がタクシー会社に対して、労災保険法の休業補償給付が支給されなくなった平成11年7月16日から平成12年4月15日までの期間について、雇用契約に基づく賃金の支払を求めました。

また、予備的に、労働基準法第26条に基づく休業手当、又は、労働基準法第76条第1項に基づく休業補償の支払を求めました。

神奈川都市交通事件 判決の概要

従業員は、タクシー乗務員として採用されたことが明らかで、会社は、事務職への配置転換の申し入れを受け入れる義務はない。したがって、債務の本旨に従った履行の提供とは言えないため、雇用契約に基づく賃金を請求することはできない。

次に、従業員が、労働基準法第76条に定める休業補償と同一の事由について、労災保険法による休業補償給付を受けるべき場合においては、会社は、労働基準法第84条により、休業補償をする義務が免れる。

すなわち、労災保険法第14条により、休業補償給付が行われない休業日の最初の3日分を除いて、会社は、労働基準法第76条に基づく休業補償をする義務が免責される。したがって、会社は、労働基準法第84条により、労働基準法第76条に基づく休業補償義務を免れる。

また、従業員は選択的に、労働基準法第26条に基づく休業手当を請求しているが、就業規則の規定に従って、会社が指定する医師の診断を受けさせて、試乗勤務を行って、平成12年4月16日から復職することになった。

このように、平成12年4月15日まで、タクシー乗務の復職を認めなかったことには正当な理由がある。したがって、本件の休業は、使用者の責めに帰すべき事由によるものではないため、従業員は休業手当を請求することができない。

解説−休業補償

この従業員は、タクシー乗務員として職種を限定して採用されたことが明らかで、その場合は事務職に配置転換をする義務はない、つまり、賃金も支払う義務はないと判断しました。

次に、労働基準法では、従業員が業務上負傷し、疾病にかかり、又は死亡した場合、会社の過失の有無にかかわらず、会社は従業員に対して災害補償をすることが義務付けられています。

一方、労災保険法では、従業員が業務上負傷し、疾病にかかり、又は死亡した場合、従業員は休業補償給付等の保険給付を受けられることが定められています。

両者の関係については、労働基準法第84条において、労災保険法の給付が行われるべき場合は、会社は労働基準法上の補償責任を免れることが規定されています。

この判決において、労災保険法による休業補償給付が不支給となったときは、会社は労働基準法上の休業補償(災害補償)の責任が免れることが示されました。

なお、この事件の業務災害は会社に過失がないケースでしたが、もし、会社に過失があった場合は、賃金の請求権は認められますので、同じような結果にはなりません。