就業規則の作成と届出【大同メタル工業事件】
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大同メタル工業事件 事件の概要
指名手配中の連合赤軍の幹部をかくまったという犯人蔵匿罪の嫌疑で、従業員が逮捕、勾留されました。従業員が逮捕されたことがテレビや新聞等で報道され、中には会社名を報じたものもありました。その後、従業員は嫌疑不十分として不起訴処分になりました。
会社の就業規則の懲戒解雇の事由として、「故意または重大な過失によって会社の信用を失墜したとき」が定められていましたが、会社は普通解雇の事由の「その他前各号に準ずる程度の事由あるとき」に該当するものとして、従業員を普通解雇しました。
これに対して従業員が、懲戒解雇の事由に基づいて行われた普通解雇は無効であると主張して、雇用関係が存在することの確認を求めて、会社を提訴しました。
大同メタル工業事件 判決の概要
会社による解雇の意思表示は懲戒解雇ではなく、普通解雇として行ったものであり、これを前提として解雇が有効であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。
名古屋高裁(原審)
会社の就業規則には、普通解雇の事由として「その他前各号に準ずる程度の事由あるとき」とする一般条項があり、前各号には、心身の障害や老衰により業務に堪えられないとき、事業経営上やむを得ない都合のあるとき、といった規定を置いている。
各規定の趣旨や内容から推測すると、一般条項の趣旨は、前各号には直接該当しないが、従業員の行動が、職場の秩序や規律の維持、企業の円滑な運営上、解雇してもやむを得ないと認められる程度の不適格性があれば解雇できることを定めたものと考えられる。
本件においては、従業員は、連合赤軍の一員又は支援者として、極めて密接な関係を持っていた。また、会社では、職場の規律や秩序を乱し、生産を阻害する恐れのある活動を行っていた。
そして、従業員が犯人蔵匿の容疑によって逮捕、勾留されたこと、及び、会社の従業員であること、がテレビや新聞等で報道され、会社の信用や社会的評価にある程度の影響を及ぼした。
これらの点について、従業員は、報道による会社の信用失墜や悪影響の責任は、不起訴処分となった以上、報道機関に向けられるべきであると主張するが、不起訴処分は証拠不充分を理由とするもので、従業員が連合赤軍の幹部をかくまったという事実を否定するものではない。これを前提とする報道による会社への悪影響の責任の一端は従業員にもある。
従業員の勤務成績が良好でなかった事実を総合すると、今後、職場の規律や秩序を維持し、企業の円滑な運営を期待するためには、従業員との雇用関係を解消するのはやむを得ないと認められる。
解説−就業規則の作成と届出
犯罪行為により、会社の信用を失墜させた従業員がいて、就業規則には懲戒解雇の事由として、信用失墜行為が規定されていたのですが、会社は懲戒解雇ではなく、普通解雇としました。普通解雇が有効か無効か争われた裁判例です。
労働基準法(第89条)によって、就業規則に必ず記載しなければならない事項として、「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」が定められています。
従業員が、就業規則に記載された「解雇の事由」に該当する行為をしたときは、会社は就業規則に基づいて、その従業員を解雇することができます。反対に言うと、就業規則で定めている「解雇の事由」に該当しない場合は、会社は解雇することができません。
したがって、就業規則を作成するときは、「解雇の事由」として想定される事項を漏れなく列挙することが重要になります。
しかし、全ての解雇事由を具体的に列挙しようとしても、想定外の事態が起こることもあり得ます。そのような場合にも対応できるように、解雇事由の最後に、「その他会社の従業員として適格性がないとき」といった抽象的な規定を設けることが多いです。一般条項と呼ばれます。
この会社でも、具体的な普通解雇の事由を列挙した上で、最後に「その他前各号に準ずる程度の事由あるとき」という一般条項を設けていました。
裁判所は、具体的に列挙した普通解雇の事由と同程度の不適格性があり、解雇してもやむを得ないと認められる場合は解雇することができる。つまり、一般条項は有効であることを示しました。
なお、労働契約法(第16条)によって、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されています。
就業規則の解雇事由に一般条項を設けている場合は、結局は、この規定が基準になります。有効と判断できれば、就業規則の一般条項を根拠にして、解雇できます。
しかし、就業規則の解雇事由に一般条項がない場合は、根拠となる規定がありませんので、解雇できません。想定外の場合にも対応できるように、就業規則の解雇事由には、必ず、一般条項を設けるようにしてください。