就業規則の作成と届出【RGBアドベンチャー事件(エーシーシープロダクション製作スタジオ事件)】

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RGBアドベンチャー事件(エーシーシープロダクション製作スタジオ事件) 事件の概要

香港のアニメーションの製作スタジオに在籍していた従業員が、1回目と2回目は観光ビザ、3回目は就労ビザで来日して、日本のアニメーションの製作スタジオでキャラクターのデザインを作成しました。

1回目と2回目の来日中、会社は各月ごとに給料支払明細書を従業員に交付して、基本給として月額12万円を支払っていました。その際は、雇用保険料や所得税は控除していませんでした。また、タイムカード等による勤務管理はしていませんでした。

3回目の来日以降、会社は基本給として月額24万円を支払って、雇用保険料や所得税を控除して、タイムカード等による勤務管理を行うようになりました。

会社は、従業員が作成したキャラクターのデザインを使用したアニメーション作品を日本国内のテーマパークで上映しました。従業員の氏名がアニメーション作品に著作者として表示されなかったことから、会社と意見が対立して、従業員は退職しました。

退職した従業員が、著作権及び著作者人格権が侵害されたと主張して、アニメーション作品の頒布や展示等の差止めと損害賠償の支払いを求めて、会社を提訴しました。

RGBアドベンチャー事件(エーシーシープロダクション製作スタジオ事件) 判決の概要

著作権法第15条第1項によって、法人等の発意に基づいて法人等の業務に従事する者が職務の遂行として著作物を作成して、法人等の名義で公表したときは、法人等がその著作物の著作者となることが規定されている。

この規定によって、法人等が著作者となるためには、著作物を作成した者が「法人等の業務に従事する者」であることを要する。法人等と雇用関係にある者が、これに該当することは明らかである。

雇用関係の有無が争われている場合に、「法人等の業務に従事する者」に該当するかどうかは、法人等と著作物を作成した者の関係の実態を見て、

具体的な事情としては、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等を総合的に考慮して、判断するべきである。

これを本件に照らし合わせると、従業員は1回目の来日から会社のオフィスで作業をして、会社から給料支払明細書を受領した上で、基本給の支払を受けていた。しかも、従業員は、会社が企画したアニメーション作品に使用することを伝えられて、キャラクターのデザインを作成した。

これらの事実は、従業員が会社の指揮監督下で労務を提供して、その対価として金銭の支払を受けていたことをうかがわせるものである。

しかし、原審は、従業員の在留資格の種類、雇用契約書の有無、雇用保険料や所得税の控除といった形式的な事情を根拠として、上記のような実質的な事情を考慮していない。

また、従業員が会社のオフィスにいた際に、作業内容や方法について、会社が指揮監督をしていたかどうかを確定しないまま、1回目と2回目の来日中の雇用関係の存在を否定した。

原判決は、著作権法第15条第1項の「法人等の業務に従事する者」の解釈を誤ったと言わざるを得ない。

解説−就業規則の作成と届出

著作物(キャラクターのデザイン)を作成した者が著作権は自身にあると主張して、その帰属について争われた裁判例です。

職務上作成する著作物の著作者については、著作権法第15条によって、次のように規定されています。

「法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。」

  1. 会社の発案によって作成した
  2. 会社の業務に従事する者である
  3. 職務上で作成した著作物である
  4. 会社の名義で公表した
  5. 契約書や就業規則に別段の定めがない

この5つの要件を満たしている場合は、会社が著作者になります。

この裁判では、「2.会社の業務に従事する者」に該当するかどうかがポイントになりました。会社と雇用関係がある従業員の関係においては、これに該当することは明らかです。

稀に、退職した従業員が、「私が作成したホームページの商品説明の文章は削除して欲しい」などと言ってくることがありますが、著作権は作成した本人ではなく会社にありますので、退職者の要望に応じる義務はありません。

しかし、この裁判例がそうですが、雇用関係があるのかどうか曖昧な場合は、著作権の帰属も曖昧になってしまいます。3回目の来日以降は雇用関係が明らかでしたが、1回目と2回目の来日中は雇用関係があったのか曖昧でした。

裁判所は、「会社の業務に従事する者」に該当するかどうかは、在留資格の種類、雇用契約書の有無、雇用保険料や所得税の控除の有無といった形式だけで判断するものではない。実態に基づいて判断するべきで、会社の指揮監督下で労務を提供していたかどうか、会社が支払った金銭が労務提供の対価であったかどうか、具体的には、業務態様、指揮監督の有無、対価の額や支払方法といった事情を総合的に考慮して判断することを示しました。

つまり、雇用契約を締結していなくても、「会社の業務に従事する者」に該当する可能性があります。

最高裁判所は、原審がこのような具体的な事情、実態を考慮していないことを理由に、差し戻しました。

そして、差し戻された高等裁判所は、会社が作業に必要な場所や画材等を調達したり、会社の指示に従って図画を作成したり、著作物の出来高とは無関係に毎月一定額の基本給が支払われていたことから、会社の指揮監督下で労務を提供して、その対価として賃金が支払われていたことを認めて、「会社の業務に従事する者」に該当すると判断しました。

したがって、著作者は会社となって、従業員の主張は認められませんでした。

著作権の帰属に関するトラブルを防止するために、会社が雇用する従業員以外の者に著作物の作成を委託・依頼する場合は、契約書を作成して著作権の帰属に関する条項を設けることが重要です。

また、普通の従業員は、仕事で作成した著作物の著作権は本人ではなく、会社にあることを知りませんので、就業規則に著作権は会社に属することを記載しておけば、従業員から問い合わせがあったときに説明しやすいと思います。