就業規則の作成と届出【国鉄中国支社事件】
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国鉄中国支社事件 事件の概要
従業員が公務執行妨害罪で起訴されて、懲役6ヶ月・執行猶予2年の有罪判決が確定しました。
従業員の行為は、就業規則に規定している「著しく不都合な行いのあったとき」に該当するとして、会社は従業員を解雇(国鉄は職員を免職)しました。
これに対して従業員が、雇用関係が存続することの確認等を求めて、会社(国鉄)を提訴しました。
なお、従業員は当時、別の暴力行為等処罰に関する法律違反で起訴されて、休職中でした。
また、公務執行妨害罪で起訴されて有罪判決が確定するまでの7年5ヶ月の間に、従業員は戒告処分を3回、減給処分を2回受けていました。
国鉄中国支社事件 判決の概要
会社が従業員に対して行う懲戒処分は、企業秩序を維持して、企業の円滑な運営を可能とするために行う一種の制裁罰である。従業員は雇用されることによって、企業秩序を維持する義務を負う。
通常は、従業員の職場内又は職務に関係する行為を規制することによって、企業秩序が維持される。しかし、従業員の職場外における職務に関係のない行為であっても、企業秩序に影響するものであれば、規制の対象となる。
また、企業の社会的な評価が低下すると、企業の円滑な運営に支障をきたす恐れがある。そのため、職場外の職務に関係ない行為であっても、社会的な評価が低下する恐れがある場合は、規制の対象とすることができる。
そして、国鉄のように公共性がある法人は、清廉潔白であることが社会から要請、期待されているから、職場外の職務に関係ない行為に対しても、一般企業の従業員と比較して、より広い、かつ、より厳しい規制をすることが許される。
ところで、就業規則には懲戒事由を定めているが、「その他著しく不都合な行いのあったとき」という規定は、「従業員としての品位を傷付け又は信用を失うべき非行のあったとき」という規定があることから、単に職場内又は職務に関係する行為のみを対象としていないことは明らかである。
「著しく不都合な行いのあったとき」には、社会的な評価を低下する恐れがある職場外の職務に関係ない行為も含むと考えられる。また、この規定は、業務を阻害する等の具体的な結果を要求するものではない。
従業員の行為は職場外の職務に関係ないものであるが、公務執行中の警察官に暴行を加えたもので、著しく不都合な行為であることは明らかである。また、国鉄の職員の行為として相応しくないもので、国鉄の社会的な評価を低下させる恐れがあると認められる。
したがって、従業員の行為は、就業規則の免職(解雇)の事由に該当する。
解説−就業規則の作成と届出
会社は職場の秩序を維持して、組織を円滑に運営する必要がありますので、一定のルールを定めて、違反した従業員に対して懲戒処分を行うことが認められています。
一般的に懲戒処分は、業務命令違反、機密漏えい、横領など、職場内の言動や職務に関連する言動を対象として行います。
プライベートの時間をどのように過ごすかは本人の自由ですので、会社が制限することは原則的には不可能です。
もちろん、プライベートの時間(勤務時間外)に企業機密を漏えいすることは許されませんが、この場合は、職務に関連する行為ですので、会社は懲戒処分の対象とすることができます。
そして、この裁判は、職務とは関係がない従業員のプライベートの行為(私生活上の犯罪行為)を理由として、解雇や懲戒処分が行えるかどうか争われたものです。なお、この会社(国鉄)の就業規則には、懲戒の種類の1つとして免職(解雇)が規定されていました。
会社の信用を失墜する行為があった場合は、組織運営に支障が生じることも考えられます。例えば、「犯罪者がいる会社から物を購入したくない」、「痴漢で捕まった従業員とは一緒に仕事ができない」と考える人もいます。
そのため、プライベート(私生活上)の行為であっても、組織運営に支障が生じる恐れがある場合は、会社は規制できることが判決で示されました。つまり、それを理由として、解雇や懲戒処分が行えるということです。
ただし、就業規則に、解雇の事由や懲戒の事由を定めておく必要があります。労働基準法(第89条)によって、会社が就業規則を作成するときは、次の事項を記載することが義務付けられています。
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
- 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
なお、懲戒の事由として規定する場合は、次のような内容が考えられます。
- 会社の信用を失墜させたとき
- 犯罪事実が明白なとき
犯罪行為については、過去の裁判例を参考にすると、性犯罪を除いて罰金刑に留まるケースでは解雇は認められにくいです。勤務時間外の飲酒運転が発覚した場合も、通常は解雇理由とすることは難しいです。
ただし、犯罪行為も信用失墜行為も、それぞれの会社の事情(規模、業種、従業員の地位など)がありますので、個別のケースごとに判断されます。
また、就業規則の規定の仕方によって、不都合が生じるケースがあります。この裁判では、公務執行妨害罪の判決が確定するまで7年以上掛かっています。例えば、「有罪判決を受けたとき」と規定していると、その間は解雇が困難になります。
解雇の事由や懲戒の事由は、できる限り具体的に定めておくことが望ましいですが、想定外の出来事が起きる可能性があります。そのような場合に備えて、就業規則には、「前各号に準ずる行為のあったとき」というような包括的な規定を設けておくことも大事です。