就業規則の作成と届出【三菱自動車工業事件】

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三菱自動車工業(執行役員退職金)事件 事件の概要

会社に雇用されていた従業員が、執行役員に就任することになりました。これに伴って、一旦、会社を退職して、従業員としての退職金を受け取りました。

その後、執行役員を4年間務めて、退任することになりました。会社には内規として執行役員退職慰労金規則があったのですが、業績の悪化により、退職慰労金は支払われませんでした。

これに対して執行役員を退任した者が、執行役員退職慰労金規則に基づいて、退職慰労金を支払うよう求めて、会社を提訴しました。

三菱自動車工業(執行役員退職金)事件 判決の概要

次のような事実関係が認められる。

  1. 取締役の人数が多いため、取締役会で経営判断を迅速に行えないことから、会社は取締役の人数を36名から10名に減らした。また、経営判断の迅速化、業務執行の責任と権限の明確化等を目的として、執行役員の制度を導入し、事業分野、機能分野ごとに、32名の執行役員を任命した。
  2. 執行役員は、前は取締役が就いていた地位に就任し、報酬額等の待遇も前の取締役と同等の待遇が保障されていた。また、執行役員規則によれば、従業員が執行役員に就任する場合は、一旦、退職して、取締役会の委任によって執行役員に就任することになっていた。
    執行役員に就任する際に、従業員としての退職金を受け取ったが、その退職金額と執行役員在任中に得た報酬の総額との合計額は、退職慰労金が支給されなかったとしても、仮に、執行役員に就任することなく部長職(従業員の最高職)を4年間務めた場合の給与の総額とその場合の退職金額との合計額を、約3000万円上回るものであった。
  3. 執行役員退職慰労金規則は、代表取締役の決裁で作成・改定される内規であり、実際にも頻繁に改定されていたが、その内容が執行役員に開示されたことはなかった。また、執行役員退職慰労金規則は、退任する執行役員に退職慰労金を支給する場合に適用するものと定められており、これを必ず支給するとか、一定の要件の下に支給するといった規定はなかった。
  4. 会社が退職慰労金を支給しなかった(これに合わせて退職慰労金規則を改定した)のは、関連会社で不祥事が明らかになったため、会社の業績が悪化し、資金が枯渇して経営破たんの危機に直面したことによる。そのため、退職慰労金の支給を見送ると共に、取締役と執行役員の報酬を30%から50%削減し、従業員の給与も5%から10%削減する措置が講じられた。

以上のような事実関係を総合すると、退職慰労金は功労報償的な性格が強く、執行役員が退任する都度、代表取締役の裁量的な判断により支給してきたものと認められる。会社が退任する執行役員に退職慰労金を支給するという合意や事実たる慣習があったとは言えないし、他に退職慰労金を支給しなければならない根拠も見当たらない。

したがって、執行役員は、会社に対して退職慰労金の支払を請求することはできない。

解説−就業規則の作成と届出

執行役員を退任した者が、退職慰労金規則に基づいて、退職慰労金の支払を求めた裁判です。

会社における事実関係を総合的に考慮して、この裁判では、退職慰労金は功労報償的な性格が強く、執行役員が退任する都度、代表取締役の裁量で支給してきたものと判断して、執行役員の請求を認めませんでした。

労働基準法第11条では、「労働の対償」として支払うものを「賃金」と定義していますが、この会社の退職慰労金は功労報償的な性格が強いと判断しました。

賃金の後払い(労働の対償)的な性格が強ければ、労働基準法上の賃金として支払うよう請求できますが、功労報償的な性格が強ければ、会社が功労を評価して決めることになります。

また、労働基準法第89条第3号の2では、退職金の取決めをする場合は、適用範囲等を就業規則に記載することを義務付けています。

この会社では、退職金の取決めはしていない(退職金を支払う約束やルールはない)という立場です。退職慰労金規則は内規であって就業規則ではないから、執行役員に周知していないし、労働基準監督署にも届け出ていませんので、会社の考えは一貫しています。

就業規則として定めていれば、就業規則に基づいて処理することが義務付けられますし、不利益変更も困難になります。

労働基準法で義務付けられている内容は別ですが、それを上回る待遇をするときに、約束はできないけれども目安があった方が良いようなケースがあります。そのような場合は、就業規則として位置付けないで、内規としておくのが良いでしょう。