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香港上海銀行事件 事件の概要

就業規則には、退職金は「支給時の退職金協定による」と規定されていました。同時に、会社と労働組合の間で退職金協定が締結されていたのですが、一時的に失効し、その後、従来より減額する内容で新しい退職金協定が締結されました。

そして、その退職金協定が失効している期間中に、従業員が退職しました。

会社は、新しい退職金協定を失効期間中にさかのぼって適用し、退職金を従来より減額して支給しました。

これに対して従業員は、退職金協定が失効していたとしても、退職金協定は就業規則の一部として労働基準監督署に届け出られており、依然として有効であると主張して、新旧退職金協定の差額の支払いを求めて会社を提訴しました。

香港上海銀行事件 判決の概要

労働契約上は、従業員の退職日に退職金を支払うと取り決められていて、一方、就業規則には、退職金は「支給時の退職金協定による」と定められている。

従業員が退職した時点では、退職金協定は失効していて、これに代わる退職金協定は締結されていないので、退職金を支給する根拠となる退職金協定は存在していなかった。

しかし、労働契約上は退職時に退職金の支給額が確定しているべきで、就業規則の規定は会社に退職金の支払義務があることを前提として、その支給額の算定は退職金協定に基づいて行うという趣旨と考えられる。

退職金協定が締結されておらず、退職時にその支給額が確定しないからといって、具体的な退職金の請求権も発生しないというのは相当でない。労働契約や就業規則等により、退職時にその支給額が確定されなければならない。

ところで、会社は、労働基準法第89条第1項に基づいて、退職金協定の協定書の写しを添付した就業規則変更届を労働基準監督署に届け出ている。つまり、退職金協定で定められた退職金の支給基準は、就業規則に取り入れられて就業規則の一部となっている。

そして、就業規則は、労働条件を統一的、画一的に定めるものとして、本来有効期間の定めのないものであり、労働協約が失効して空白となる労働契約の内容を補充する機能も持っている。

就業規則に取り入れられて就業規則の一部となっている退職金協定は、有効期間満了により失効したとしても効力を失わない。したがって、退職金の支給額は、従前の退職金協定により決定されるべきである。

また、退職金協定は失効したが、それに伴って就業規則が変更された事実は認められないので、従前の就業規則で定められた退職金の支給基準が適用される。

解説−就業規則の作成と届出

労働契約で退職金を支払うことを約束し、就業規則には「支給時の退職金協定による」と規定されていたのですが、退職金協定が更新されないまま失効し、失効している期間中に退職した従業員の退職金の支給額がどうなるのか争われた裁判例です。

就業規則は退職金を支払うことを前提として、その支給額については退職金協定で定めるという仕組みで、退職金協定は就業規則の一部となっていました。

就業規則では退職金を支給することになっていますので、退職金協定が失効したとしても、それを理由にして退職金を支給しなくても良いということにはなりません。退職金の支給義務は残ります。

次に、退職金の支給額は、古い退職金協定か新しい(減額された)退職金協定か、どちらが適用されるのかが争点になります。

この点については、退職時に退職金の支給額が確定されているべきという考えから、古い退職金協定が適用されると判断しています。従業員が退職した時点では、新しい退職金協定は締結されていませんし、当然、それに伴って就業規則の変更届も提出されていません。

また、就業規則には有効期間がないため、その一部と位置付けられた古い退職金協定をそのまま適用することが合理的と考えられています。

以上の考え方については、退職金に限りません。就業規則や労働協約を変更したときに、例えば、さかのぼって懲戒処分を行ったり、さかのぼって賃金を減額したり、さかのぼって従業員に不利益を与えることは許されません。