有給休暇の時季変更権【国鉄郡山工場(賃金カット)事件】

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国鉄郡山工場(賃金カット)事件 事件の概要

会社の郡山工場に所属する従業員が、年次有給休暇の取得を申し出て、休暇を取得しました。

その後、従業員は、会社の郡山工場以外の場所で争議行為に参加するために、年次有給休暇を取得していたことが判明しました。

争議行為を目的としていたことを理由にして、会社は年次有給休暇の取得を取り消して、当日は欠勤したものとして、賃金をカットしました。

これに対して従業員が、年次有給休暇は有効であると主張して、賃金の支払いを求めて、会社を提訴しました。

国鉄郡山工場(賃金カット)事件 判決の概要

労働基準法第39条第1項第2項の要件を満たした従業員は、各項で定められた日数の年次有給休暇の権利を取得し、会社はこれを与える義務を負う。

年次有給休暇の権利を行使する際は、労働基準法によって、従業員が休暇の時季を「請求」して、労働基準法第39条第5項但書の事由が存在する場合は、会社は他の時季に変更できることが規定されている。

第39条第5項には「請求」と記載されているが、この「請求」は、休暇の時季を対象とする文言であって、休暇の時季の「指定」と同じ趣旨である。

従業員が休暇の時季を具体的に指定したときは、第39条第5項但書の事由が存在し、かつ、これを理由として会社が時季変更権を行使しなければ、年次有給休暇が成立し、その労働日の就労義務が消滅する。

つまり、会社による時季変更権の行使を解除条件とするもので、年次有給休暇の成立要件として、従業員が指定(請求)した休暇に対して、会社が「承認する」という考えが入り込む余地はない。

事実上行われている年次有給休暇の「承認」又は「不承認」は、法律上は、「時季変更権を行使しない」又は「時季変更権を行使する」という会社の意思表示と考えられる。

また、年次有給休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは従業員の自由で、会社が干渉することは許されない。

ただし、いわゆる「一斉休暇闘争」の場合については、言及を要する。

一斉休暇闘争を、業務の正常な運営を阻害することを目的として、従業員が一斉に年次有給休暇を届け出て事業場を放棄するものと考えると、実質は同盟罷業(ストライキ)と同じである。

したがって、形式上は年次有給休暇としても、本来の年次有給休暇の権利の行使ではないから、これに対する会社の時季変更権の行使もあり得ない。そして、一斉休暇の形で同盟罷業(ストライキ)をした従業員について、賃金の請求権は発生しない。

しかし、この考え方は、その従業員が所属する事業場で、一斉休暇闘争が行われた場合に当てはまるもので、休暇中の従業員が他の事業場で争議行為に参加したかどうかは、年次有給休暇の成立には影響しない。

なぜなら、従業員が年次有給休暇の時季を指定したときは、会社が時季変更権を行使しない限り、指定した時季に年次有給休暇が成立するのであって、労働基準法第39条第5項但書の「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するかどうかの判断は、その従業員が所属する事業場を基準とするからである。

本件においては、従業員が指定した休暇の時季に対して、会社は時季変更権を行使しなかった。また、諸般の事情を考慮しても、従業員が指定した時季に年次有給休暇を取得したことによって、事業の正常な運営を妨げることはなかったと考えられる。

したがって、従業員が他の事業場で争議行為に参加したとしても、その事実は年次有給休暇の成立に影響しない。

解説−有給休暇の時季変更権

年次有給休暇を取得して、従業員が所属する事業場とは別の事業場(同じ会社)で争議行為に参加したことが判明したため、会社は年次有給休暇を取り消して欠勤扱いとして、賃金をカットしました。それで、裁判になったケースです。

従業員が同盟罷業(ストライキ)を行った場合は、ノーワーク・ノーペイの原則によって、無給で処理をすることになります。

また、年次有給休暇の利用目的は、従業員の自由ですので、会社が干渉することは許されません。しかし、争議行為を目的とする場合は別です。

業務の正常な運営を阻害することを目的として、従業員が一斉に年次有給休暇を請求する場合があります。一斉休暇闘争と呼ばれますが、形式上は年次有給休暇としても、実態は同盟罷業(ストライキ)と同じですので、年次有給休暇は無効、無給扱いになります。

仮に、年次有給休暇が有効として、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当すれば、会社は時季変更権を行使することができ、従業員は応じる義務があります。反対に、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当しなければ、そのまま年次有給休暇を取得することになります。

どちらの場合も会社にダメージはなく、平常時の処理として、争議行為(抗議行為)にはなり得ません。つまり、年次有給休暇と同盟罷業(ストライキ)が両立することはありません。

そして、裁判になったケースでは、年次有給休暇を取得して、本人が所属する事業場とは別の事業場(同じ会社)で争議行為に参加しました。

労働基準法第39条第5項によって、次のように規定されています。

「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」

従業員が年次有給休暇の時季を指定して、会社が時季変更権を行使しなければ、従業員が指定した時季に年次有給休暇が成立します。

そして、裁判によって、「事業の正常な運営を妨げる場合」の「事業」とは、従業員が所属する事業場を基準とすることが示されました。

従業員が所属する事業場の業務の正常な運営を阻害する目的は認められませんでしたので、一斉休暇闘争には当てはまらない。つまり、年次有給休暇は有効であると判断されました。

「有給休暇の時季変更権」に関して、次のような裁判例があります。
「弘前電報電話局事件(会社の配慮-違法)」
「横手統制電話中継所事件(会社の配慮-違法)」
「電電公社関東電気通信局事件(会社の配慮-適法)」
「高知郵便局事件(時季変更のタイミング)」
「此花電報電話局事件(当日の請求と時季変更)」
「時事通信社事件(長期休暇)」
「国鉄郡山工場事件(争議行為)」
「道立夕張南高校事件(一斉休暇闘争)」
「新潟鉄道郵便局事件(事業の正常な運営を妨げる場合)
「千葉中郵便局事件(欠員の発生)」
「中原郵便局事件(欠員の発生)