モデル就業規則の注意点
モデル就業規則の注意点
- モデル就業規則を利用しようと思っていますが、注意点はありますか?
- 会社の考えを的確に反映した就業規則にすることが重要です。それが難しい場合は、モデル就業規則の利用は考え直した方が良いと思います。
厚生労働省(労働基準監督署)のモデル就業規則
厚生労働省(労働基準監督署)からモデル就業規則が公開されています。
労働基準監督署の主な仕事は、会社に労働基準法を遵守させることです。労働基準法(第89条)によって、従業員数が10人以上の会社は、就業規則を作成して、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられています。
就業規則を作成していない会社に、これを遵守させようとしても、何もない所から就業規則を作成することは難しいので、手掛かりや切掛けとして、モデル就業規則を公開・提供しています。
また、 全日本トラック協会など、所属する会員企業に向けて、モデル就業規則を提供している業界団体もあります。
専門家の社会保険労務士に就業規則の作成を依頼すると、普通は20万円が相場です。就業規則の価値を実感したことがない会社にとっては高額ですので、依頼を躊躇することがあります。
そのような会社に対して、「無料なら自分で作成するだろう」と思って提供しているのでしょう。しかし、その後が大事です。その就業規則でトラブルが生じたときは、会社の自己責任です。
社会保険労務士事務所のモデル就業規則
厚生労働省(労働基準監督署)の他にも、ホームページ上にモデル就業規則を無料で公開している社会保険労務士事務所があります。
その社会保険労務士事務所の業務一覧の中に、“就業規則の作成”の項目があります。当然、この「“就業規則の作成”を依頼して出来上がった就業規則」と「無料で公開しているモデル就業規則」は全く別物でしょう。
20万円で作成した就業規則には、それなりの価値がないと依頼者に納得してもらえません。逆に言うと、無料のモデル就業規則は、それなりの価値しかないということではないでしょうか。
モデル就業規則の注意点
例えば、次のような質問をされたら、どうでしょうか?
- 休職期間を1年間と設定して、会社の業務に支障は生じませんか?
※労働基準法には休職に関する規定がありませんので、休職期間を3ヶ月にしたり、休職制度を設けない方法も可能です。 - インターネット上に、上司・同僚・顧客・取引先の悪口を発信している従業員がいたらどうしますか?
※就業規則に禁止事項として定めて、注意や懲戒処分ができるようにするべきではないでしょうか? - 通勤手当を不正に受給している従業員がいたときは、どのように対応したいですか?
※根拠を示して、不正に受け取った通勤手当は返還させられるように、就業規則に明確に規定した方が良いと思います。 - 年次有給休暇は、いつまでに届け出てもらいたいですか?
※労働基準法上は前日までに届け出ていれば認めないといけませんが、1週間前に届け出るよう“お願い”をすることは可能です。業務の調整や代替要員の確保が容易になります。
このように具体的に質問をされると、会社の考えを答えられると思います。社会保険労務士がいれば、相談をしながら会社の考えが固まってくることもあります。
一例として、厚生労働省(労働基準監督署)のモデル就業規則では、休職期間について、次のように記載されています。
労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。
- 業務外の傷病による欠勤が _ か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき --- _ 年以内
- 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき --- 必要な期間
休職制度を設けること、休職期間は年単位とすることが前提になっています。上で説明したとおり、休職期間を3ヶ月にしたり、休職制度を設けない方法も可能です。
モデル就業規則を利用する場合は、あるべき姿を模索しながら作り上げないといけません。反射的に穴埋めをして作成すると、会社の考えとは違ったものが出来上がってしまいます。
例えば、小規模企業で休職期間を2年間と設定して、半年が経過したときに、周囲の従業員が疲弊して、このままでは業務が回らないと気付くことがあります。
休職期間を2年間と設定した場合は、会社は就業規則に記載しているとおり対応することが義務付けられます。一度作成した就業規則を不利益に変更すること、労働条件を引き下げることは簡単ではありません。原則的には、従業員から同意を得る必要があります。
モデル就業規則を利用する場合は、1つ1つの規定に対して、自問自答しながら決定しないといけません。しかし、自問自答が行き過ぎて、会社にとって都合が良いように、法律に違反する内容に書き換えてしまうケースがあります。当然、法律に違反する規定は認められません。
行政書士や税理士が作成した就業規則
モデル就業規則とは少し違いますが、無料で就業規則を作成している行政書士や税理士がいるようです。仮に労働基準法の知識があったとしても、労働関係の判例まで勉強している方はいないと思います。
就業規則は、とりあえず形になったら良いというものではありません。将来のリスクを見通して作成しないと、会社の立場が弱くなってしまいます。
専門家でなければ多種多様なリスクに気付くことは難しいと思います。就業規則の作成は、労働法の専門家である社会保険労務士に依頼するようお勧めいたします。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。