損害賠償の請求|就業規則の規定例
従業員に損害賠償を請求できますか?
- 従業員が会社に損害を与えたときは、会社は本人に損害賠償を請求できますか?また、損害賠償について、就業規則に記載しておいた方が良いでしょうか?
- 原則的には、会社から従業員に対して、損害賠償を請求できます。また、損害賠償の取扱いについて、思い違いが生じないように、就業規則に記載しておいた方が良いです。
損害賠償の請求
従業員が会社に損害を与えたときは、原則的には、会社は従業員に対して、損害賠償を請求できます。
しかし、事業を行う上で、一定の割合で発生することが想定される軽微な損害については、従業員に損害賠償を請求することは難しいです。事業によって利益を得ているのは会社ですので、あらかじめ見込まれる損害については、会社が負担するべきと考えられています。
例えば、飲食店のアルバイトが不注意でグラスや皿を割ったような場合です。一定の割合で損害が発生することを想定して事業を計画して、従業員の賃金を決定することが求められます。
また、そのような場合に罰金を設定することは、労働基準法(第16条)の「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」で禁止されている行為に該当します。
別のケースで、従業員が社有車を運転中に自損事故を起こすような場合があります。社有車については、車両保険に加入して損害を分散できますが、それは会社が行うことであって、従業員はできません。会社が車両保険に加入しないで、その責任を従業員に押し付けることはできません。
様々な考え方があって、従業員に損害賠償を請求することが難しいケースがありますが、横領など、従業員が故意に損害を生じさせた場合は、本人に損害の全額を請求できます。
また、飲酒運転や犯罪行為が原因で事故が発生して、会社に損害が生じた場合も、本人の責任が重大ですので、同様に考えられます。
故意ではなく、従業員が通常の注意を払っていて、過失で会社に損害を与えた場合に、本人に賠償させられるのは、過去の裁判例によると、過失(不注意)の程度等によって、損害額の2割から3割程度が上限とされています。
そうであったとしても、故意に損害を発生させた場合は、損害の全額を請求できますので、損害賠償の取扱いについて、就業規則に規定しておくべきです。
損害賠償に関する就業規則の規定
就業規則には、従業員に損害賠償を請求することに加えて、関連するトラブル(思い違い)を防止するために、次の内容も記載しておくと良いでしょう。
- 従業員が損害を賠償したとしても、懲戒処分は免れない
- 従業員が退職したとしても、損害賠償の責任は免れない
- 従業員が損害を賠償できないときは、身元保証人に請求することがある(身元保証人を付けている場合)
なお、民法が改正されて、身元保証人を付けていても、身元保証書に具体的な上限額を記載していない場合は無効になります。
つまり、「本人が会社に損害を与えた場合は、1,000万円を上限として損害を賠償します」にように上限額を記載していないと、身元保証人に損害賠償を請求することはできません。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。