就業規則の著作権

就業規則の著作権

  • 就業規則の著作権は会社にあることを明示したいのですが、可能でしょうか?
  • 可能としても、特に就業規則に限定して明示する必要はないと思います。

就業規則の著作権

著作権については、著作権法で定められています。著作権法によって、著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義付けられています。

著作権の保護を受けるためには、著作物に該当する必要があります。著作権法(第10条)によって、言語の著作物として、「小説、脚本、論文、講演」等が例示されています。

また、著作権法(第13条)によって、「次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない」と規定されていて、次の事項が挙げられています。

  1. 憲法その他の法令
  2. 国、地方公共団体、独立行政法人が発する告示、訓令、通達等
  3. 裁判所の判決、決定、命令等
  4. 1.〜3.の翻訳物や編集物で、国、地方公共団体、独立行政法人が作成するもの

これらの著作物は国民に広く知らせる必要がありますので、誰もが自由に利用できるようにするために、著作権は生じないことになっています。

1.〜4.は、前提として「著作物」に該当するけれども、必要性があるため、著作権がないという構成になっています。就業規則は、表現方法でいうと「憲法その他の法令」に近いと思います。同様に考えると、就業規則も「著作物」に該当することになります。

就業規則が著作物と認められると、会社は、複製、譲渡、貸与、改変等を禁止できるようになって、会社に無断で行ったときは、著作権の侵害になります。そして、会社は著作権を侵害した者に対して、損害賠償を請求したり、侵害行為の差止めを請求したりできます。

ただし、著作権法では、私的に使用するための複製は自由に行えることになっています。仮に、従業員が会社に無断で就業規則を複製したとしても、損害額を算出することは困難です。会社に就業規則の著作権があることを明示、周知しても、会社にとってメリットは余りないように思います。

反対に、会社に就業規則の著作権があることを明示することによって、就業規則の周知義務が疎かにならないか心配です。就業規則の利用を制限し過ぎて、従業員が見たいと思ったときに見られる状態になっていないと、会社は周知義務を果たしていないことになります。

著作権は、「就業規則の著作権は会社にある」と明示することによって、発生するものではありません。そのような明示の有無に関係なく、著作物を創作(就業規則を作成)した時点で自動的に発生します。

また、私は就業規則の専門家として、就業規則に関するトラブル事例を収集して研究していますが、就業規則の著作権に関してトラブルになったという事例は聞いたことがありません。

関連するトラブルとしては、退職した従業員から、「会社のホームページに掲載している○○の記事は私が書いたものだから削除して欲しい」と言われたケースがありました。

自分が作成した記事だから自分に著作権があると主張しているのでしょう。しかし、職務を行う上で作成した著作物については、特別な事情がない限り、会社が著作者となります。

そのことを明らかにするために、就業規則に、従業員が創作した著作物の著作権は会社に帰属することを記載しておくと良いでしょう。そうすれば、著作物全般が対象になりますので、就業規則もそれに含まれることになります。


執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。

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