労働条件の不利益変更の方法|就業規則の規定例
労働条件の不利益変更の方法
- 会社から従業員全体に支給する賃金の総額は維持して、手当の支給額の配分方法(割合)を変更しようと思っています。不利益変更に該当しますか?
- 賃金(手当)が減額される従業員にとっては、不利益変更に該当します。労働条件を変更する場合は、原則的には本人の同意が必要です。
労働条件の不利益変更の方法
労働契約法(第8条)によって、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」と規定されています。
労使間で合意したときは、賃金や労働時間等の労働条件を変更できることになっています。つまり、会社が労働条件を変更しようとする場合は、従業員から個別に同意を得る必要があります。
賃金が増額される者については、同意を得ることは容易です。しかし、会社から、「あなたの賃金を来月から10%減額したい」と言っても、従業員から同意を得ることは難しいです。同意が得られなかった者については、原則的には、労働条件を変更する(賃金を減額する)ことはできません。
また、労働契約法(第9条)によって、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」と規定されています。
従業員から同意を得ないで、会社が一方的に就業規則を変更して、労働条件を不利益に変更することはできません。原則的には、従業員の同意が必要で、個別に労働条件を変更する場合(第8条)と同じです。
ただし、労働契約法には続きがあって、第10条によって、次の事項を総合的に考慮して、合理的であると認められる場合は、就業規則の不利益変更が可能になることが定められています。
- 労働者の受ける不利益の程度
- 労働条件の変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合等との交渉の状況
- その他の就業規則の変更に係る事情
この要件をクリアすれば、就業規則の不利益変更に同意しなかった者についても、変更後の就業規則を適用して、労働条件を変更する(賃金を減額する)ことができます。
原則に従って、労働条件を変更する場合は、従業員から同意を得ることを第一に考えて進めるべきですが、反対する従業員が現れることも考えられます。そのため、就業規則の不利益変更で対応することを想定して、労働契約法(第10条)の要件をクリアできるように、事前に検討することが望ましいです。
例えば、手当の支給額の配分方法(割合)を変更しようとする場合は、次の事項について、合理的であると説明できるように準備をすることが考えられます。
- 従業員ごとにいくらの減額になるのか
- 手当の支給額の配分方法(割合)を変更する理由
- 変更後の配分方法(割合)は適正か
- 説明会や労使委員会の開催
- 減額を猶予する経過措置を設けるか
- その他の事情
就業規則の不利益変更をする場合に、考慮する事項として、労働契約法で列挙されている内容は抽象的で、客観的な判断が難しいです。ご相談のケースは、支給総額を維持するということですので、従業員が受ける不利益の程度は大きくないと考えられます。比較的、不利益変更は認められやすいです。
しかし、人件費の削減を目的とする場合など、全体的に従業員に不利益が及ぶ変更については、不利益の程度が大きくなりますので、各要件を明確にクリアすることが求められます。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。