就業規則の不利益変更
就業規則の不利益変更
賃金の減額や労働時間の延長など、従業員の労働条件を引き下げることを不利益変更と言います。
特に理由もないのに、会社が一方的に労働条件を不利益変更することはできません。
不利益変更はできない
例えば、取引先に100万円の商品を販売したにもかかわらず、後になって「やっぱり90万円しか支払いません」ということは通用しません。ただし、相手方が同意して「90万円でもいいよ」ということになれば、それで成立します。
不利益変更についても同じで、原則的には認められませんが、相手方となる従業員全員から同意が得られれば、不利益変更は可能になります。
しかし、従業員数が多くなると、従業員全員から同意を得ることは至難の業です。従業員全員の同意がないと不利益変更ができないということになれば、会社は身動きが取れなくなってしまいます。
そこで、過去の判例でも不利益変更が認められる条件というものが存在します。
就業規則の不利益変更
第四銀行事件(最高裁 平成9年2月28日第二小法廷判決)では、就業規則による不利益変更の合理性の有無は、次の7つの要素を総合的に考慮して判断すべきとしています。
そして、合理性が認められると、就業規則の不利益変更が可能になります。
就業規則の変更によって労働者が受ける不利益の程度
従業員が受ける不利益の程度が大きくなると、合理性ありと判断されるハードルも比例して高くなります。
また、例えば、賃金制度を変更する場合に、賃金が増える人もいれば、減る人もいるというケースがあります。
全体として不利益変更になっているかどうかは合理性判断の1つの要素として考慮されますが、この場合でも一部の従業員に不利益が発生するのであれば、不利益を受けていることになります。
使用者側の変更の必要性の内容・程度
変更しなければならない背景にはどのような問題があるのか、具体的な理由が必要です。合理的かどうかは、ケースバイケースで判断されます。
特に、賃金や退職金などの重要な労働条件を不利益変更する場合は、より高いレベルでの必要性が要求されます。
変更後の就業規則の内容自体の相当性
例えば、高年齢者やパートタイマーといった一部のグループだけを対象にして、大きな不利益を与えるような場合は、不公平な取扱いとされ、相当性が認められにくいです。
不利益の緩和を行って、少なくとも、そのグループの半数程度には、やむを得ないものとしてでも受け入れてもらえるよう努力をするべきです。
また、賃金制度を変更する場合は、個々の従業員の賃金総額が下がらないよう調整手当を支給して、3年とか5年の移行期間を設けて、段階的に減額していくような経過措置をとっていれば、相当性は認められやすくなります。
代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
賃金の引下げとは別に労働時間を短縮する、定年を延長する、年次有給休暇の取得促進など、他の労働条件を有利に変更する代償措置をとっているかどうかです。
代償措置をとらないで不利益変更を行う場合は、他の要素で合理性を高める必要があります。
従業員代表や労働組合との交渉の経緯
時間を掛けて、従業員や労働組合に、不利益変更の必要性を説明したり、話し合いを行う必要があります。これを怠っていると合理性はないと判断されます。
まずは、不利益変更をする前に、役員報酬の減額や遊休資産の売却、交際費の削減など、できる限りの努力をしておくことが前提です。いきなり「賃金を切り下げる」と言っても、従業員の理解は得られません。
また、従業員や労働組合との話し合いの中で、代償措置や経過措置をどうするかという話も出てくるでしょう。現在の不利益変更が必要な状況は、第一に会社の責任ですので、従業員に一方的に不利益を押し付けるのではなく、可能な限り、会社も従業員の要望を受け入れる必要があります。
できれば不利益変更について、従業員代表や労働組合の同意を取っておきたいものです。判例でも、同意があればそれが尊重される傾向にあります。
他の労働組合又は他の従業員の対応
他の労働組合又は他の従業員に対しても、十分な説明を行う必要があります。
同種事項に関する我が国社会における一般的状況
不利益変更の内容が、同業他社と比べてどうかということです。
これまでの歴史が各社で異なりますので、参考程度に留めるのが適当でしょう。
まとめ
これらは法律ではなく、あくまでも判例ですので、厳格に考える必要はありませんが、不利益変更をするのであれば、これらの要件を満たすようできる限り努力することが重要です。
(2007/7作成)
(2014/6更新)