提出書類を提出しない従業員の対応|就業規則の規定例

提出書類を提出しない従業員の対応

  • 就業規則に採用時の提出書類を定めていますが、提出しない従業員を解雇できますか?
  • 個別の状況によりますが、その書類の必要性や提出しない理由等を考慮して、解雇が有効と認められる可能性はあります。

提出書類を提出しない従業員の対応

就業規則を見ると、「採用時の提出書類」として、誓約書、源泉徴収票、雇用保険被保険者証、雇用契約書、身元保証書等を列挙して、提出する義務があることを定めていると思います。

この規定に関する違反行為としては、次の2通りがあります。

  1. 書類を提出しない
  2. 虚偽の記載をして、書類を提出した

「1.書類を提出しない」場合は、その書類を提出させることに十分な必要性があって、その書類の提出が採用の条件になっていることを本人に説明していたかどうかがポイントになります。

例えば、業務に必要な資格証明書が考えられます。その資格を有していないことが分かっていれば、採用しなかったという場合は、解雇(本採用の拒否)は有効と認められます。

採用の条件としている場合は、採用面接の際に資格の有無を確認しているはずですので、虚偽の回答をしていたことになります。

一方、雇用保険被保険者証を提出しないという理由で解雇をしても、認められません。業務上の必要性の程度が大きく異なります。

身元保証書についても、考え方は同じです。業務で高額の商品や現金を取り扱う場合は、盗難や紛失など、万一のことを考えると、提出を求める必要性は高いと思われます。

また、採用面接の際に、身元保証書を提出することの必要性について、本人に説明をして、採用の条件になっていることを伝えていれば、解雇(本採用の拒否)は有効と認められやすいです。

本人に悪意がなくて、短期間で身元保証人を見付けられない場合がありますので、提出期限を延長したり、入社日を遅らせたりして、慎重に対応することが望ましいです。

「2.虚偽の記載をして、書類を提出した」場合は、「その事実を知っていたなら採用しなかった」と言えるほどの重大な内容かどうかがポイントになります。

試用期間中ではなく、数年後に虚偽の記載が発覚するケースがあります。入社をして数年間、問題が生じることもなく、業務を遂行してきた場合は、必要性が高くない(重要なことではない)と判断されて、解雇は認められにくくなります。不審な点があったときは、試用期間中に確認をするべきです。

また、労働基準法によって、就業規則に記載しなければならない事項として、「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」が挙げられています。

試用期間中の本採用の拒否=解雇ですので、就業規則を作成するときは、試用期間の項目で、「提出書類を提出しないとき」「提出書類に虚偽の記載をしたとき」は、本採用をしないといった規定を設けるべきです。

このような記載がないと、本採用を拒否(解雇)したときに、「解雇事由として定められていない」「根拠がない」と主張される恐れがあります。

実際に解雇するかどうかは別にして、就業規則に解雇事由(本採用の拒否)を記載しておけば、提出しない従業員に対して指導がしやすくなります。

また、採用時の提出書類について、提出期限が曖昧な就業規則が多いです。「速やかに」「遅滞なく」となっていると、個人によってその期間の解釈が異なりますので、意見が対立しやすいです。

「入社日まで」「入社日から2週間以内に」など、作成する就業規則には、具体的な期限を記載しておいた方が分かりやすいと思います。ルールとして決まっていることを、従業員に説明しやすいです。

ところで、個人番号(マイナンバー)制度が導入されましたので、これに関する届出についても、就業規則に記載していると思います。

しかし、個人番号(マイナンバー)の取得は任意ですので、個人番号(マイナンバー)を提出しないことを理由に解雇や不利益な取扱いをすることは許されません。


執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。

採用について