秋北バス事件(就業規則の法的性質)

秋北バス事件 事件の概要

問題が起きたのは昭和30年代の話です。当時、この会社では、主任以上の従業員には定年制が適用されていませんでした。

この取扱いを改めるために、会社は就業規則を変更して、主任以上の従業員にも定年制を適用することにして、主任以上の従業員の定年年齢を55歳と定めました。

この就業規則の変更に伴って、55歳以上の従業員が定年制の対象となったため、会社は対象となった従業員に解雇を通知しました。

これに対して、解雇された従業員が、本人が同意していない就業規則の変更には拘束されないと主張して、解雇の無効を訴えて提訴しました。

秋北バス事件 判決の概要(最高裁 昭和43年12月25日判決)

労働条件は本来、従業員と会社が、お互いに対等の立場で決定するべきものである。

しかし、多数の従業員がいる会社においては、労働条件は会社が統一的かつ画一的に決定して、従業員はこれに従わざるを得ないのが実情である。

この労働条件を定めた就業規則は、社会的規範としての性質だけではなく、その内容が合理的なものである場合は、事実たる慣習が成立しているものとして、法的規範としての性質が認められる。

つまり、従業員は就業規則の存在や内容を知っているかどうかは関係なく、また、これに対して個別に同意を与えたかどうかも関係なく、その適用を受けるものである。

そして、就業規則の作成又は変更によって、会社が従業員の既得の権利を奪ったり、一方的に従業員に不利益な労働条件を課したりすることは、原則として許されない。

しかし、労働条件の集合的処理、特に、その統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質から言って、その就業規則の内容が合理的なものである場合は、個々の従業員が同意していないとしても、その適用を拒否することはできない。

そして、定年制は、人事の刷新、経営の改善、組織運営の適正化のために行われるものであって、一般的に不合理な制度と言うことはできない。

本件就業規則についても、新たに設けられた55歳という定年年齢は、産業界の実情に照らして、また、一般職の従業員の定年年齢が50歳と定められていることから言っても、低過ぎるとは言えない。

しかも、本件就業規則の内容は、定年に達したことによって自動的に退職する「定年退職」制を定めたものではなく、定年に達したことを理由として解雇する「定年解雇」制を定めたものであって、労働基準法第20条の解雇制限の適用を受けるものである。

さらに、本件就業規則には、十分とは言えないとしても、再雇用の規定が設けられていて、不利益を緩和する措置が取られている。

しかも、会社からこの従業員に対して、解雇した後に引き続き嘱託として再雇用をする意思表示がされていた。また、この従業員を含めた中堅幹部で組織する輪心会の会員の多くは、後進に道を譲るためにやむを得ないものとして、本件就業規則の内容を認めている。

以上の事実を総合すると、本件就業規則の内容は不合理なものと言うことはできない。また、会社がこのような規定を設けたことについて、信義則違反や権利濫用と認めることもできない。

したがって、従業員は、本件就業規則の適用を拒否することはできない。

秋北バス事件 解説

就業規則の内容が合理的と認められる場合は、民法第92条による事実たる慣習が成立しているものとして、就業規則に法的規範としての性質を認めています。

法的規範というのは、法律と同じように位置付けられるということです。つまり、法律は、本人がその存在や内容を知らなくても適用されますし、本人が適用を拒否しても強制的に適用されます。

そして、就業規則を作成したり、変更したりして、従業員に一方的に不利益を課すことは原則としてできないけれども、就業規則の内容が合理的と認められる場合は、個々の従業員が同意しなかったとしても、その適用を拒否することはできないとしました。

この裁判では、定年制を定めた就業規則の内容は合理的なものとして、会社が定めた就業規則の有効性を認めました。

なお、就業規則の内容が合理的かどうかが重要な問題になりますが、この裁判では具体的にどのような内容を考慮するのかということまでは明らかにされませんでした。

就業規則に関する代表的な裁判例