異動(配置転換・転勤)|就業規則の規定例
異動(配置転換や転勤)
- 従業員に事務職から工場勤務に配置転換及び転勤の内示をしたところ、「応じたくない」と本人に拒否されました。会社はどうすれば良いでしょうか?
- 就業規則に異動(配置転換や転勤)を命じる規定があって、本人に特別な事情がなければ、会社は異動を命じることができます。
異動(配置転換や転勤)
労働基準法や労働契約法では、転勤及び配置転換に関する規定はありません。ただし、出向については、労働契約法(第14条)で、次のように規定されています。
会社が出向を命令できる場合に、出向命令の必要性や対象者の選定等の事情に照らして、権利を濫用したものと認められる場合は、出向命令は無効になることが定められています。転勤及び配置転換の場合も、基本的な考え方はこれと同じです。
この規定には、ポイントが2点あります。まずは、出向、転勤、配置転換を命令できる根拠があるかどうかです。
就業規則に、「会社は業務の都合により必要がある場合は、配置転換、転勤又は出向を命じることがある」といった規定があれば、配置転換、転勤、出向を命令できる根拠になります。
就業規則は従業員に共通する労働条件を定めたもので、労働契約の内容として効力があります。採用時に特別な約束をしていない限り、従業員は就業規則の内容に同意したものとみなされます。
したがって、就業規則の規定を根拠にして、配置転換、転勤、出向を命令(強制)することができます。
しかし、採用時に、就業場所や従事する業務内容を限定することを約束して採用した者については、就業規則の規定より、個別に約束した内容の方が優先されますので、配置転換、転勤、出向を命令(強制)することはできません。
その場合は、会社から説得をして、本人から同意を得る必要があります。拒否された場合は、従業員の主張が認められます。
また、労働基準法の施行規則が改正されて、2024年4月以降は、就業場所及び“その変更の範囲“、従事する業務内容及び“その変更の範囲“を明示することが義務付けられています。あらかじめ明示した変更の範囲内の転勤や配置転換は命じることができます。
次に、配置転換、転勤、出向を命令することができる場合は、その命令が権利の濫用に当たるかどうかがポイントになります。
- 嫌がらせや職場から排除することが目的で、業務上の必要性がない場合
- 家族を介護する必要があって、従業員に著しい負担を強いることになる場合
過去の裁判例から、このような場合は権利の濫用に当たるものとして、配置転換、転勤、出向の命令を拒否できると判断される可能性が高いです。
家族の介護等については、プライベートのことで会社が把握していないケースがありますので、正式な辞令を出す前に、会社はそのような事情がないか確認をするべきです。
上のような権利の濫用に該当しなければ、会社は配置転換、転勤、出向を命令できます。
そして、配置転換や転勤等を拒否された場合の対応としては、家族の介護など、応じられない事情があるのかどうか、従業員が拒否する理由を確認してください。
特別な事情がなければ、これまでの慣行、配置転換や転勤等の必要性、拒否されると組織運営が停滞すること、法律的に会社は配置転換や転勤等を命令(強制)できること、解雇もあり得ること等について、丁寧に説明をすることが重要です。
それでも拒否をする場合は、個々のケースによりますが、退職勧奨や普通解雇を検討して対応するケースが多いと思います。
懲戒解雇は、従業員のこれまでの功労を無にするほどの重大な違反行為であることが求められますので、懲戒解雇は無効と判断される可能性が比較的高くなります。
なお、配置転換や転勤等に伴って、会社が一方的に、賃金を減額することはできません。配置転換や転勤等と賃金は、それぞれ独立したものと考えらますので、賃金を減額する場合は、本人から同意を得る必要があります。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。