労働条件の明示事項の追加

労働条件の明示

労働基準法によって、労働契約を締結する際は、従業員に対して労働条件を明示することが義務付けられています。また、一定の労働条件については、雇用契約書や労働条件通知書を作成して、書面や電子メール等で明示する必要があります。

なお、有期労働契約を更新する場合は、労働契約の締結と同じですので、その都度、労働条件を明示しないといけません。

労働基準法の施行規則が改正されて、2024年4月から、明示する事項が追加されました。

就業の場所

従来は、雇入れ直後の就業場所を記載していれば良かったのですが、改正後は、その変更の範囲が明示事項として追加されました。

将来の転勤、配置転換、出向によって想定される就業場所で、出張、他部門への応援、研修等の一時的な就業場所は含みません。有期労働契約の場合は、その契約期間内で想定される範囲を記載します。

地域や場所を限定しない場合の変更の範囲の記載例は、「本店及び全ての支店、営業所、工場」、「会社の定める事業所」、「全国転勤あり」、「海外転勤あり」のようになります。

地域や場所を限定する場合は、「愛知県内」、「大阪市内、堺市内」、「東京本社、福岡支店、京都支店」のように明示します。テレワークが想定される場合は「従業員の自宅」を追加します。

変更しない場合は「変更なし」と明示、また、将来、「移転先又は新設した事業所」が想定される場合は、そのように記載します。

トラブルを防止することが目的ですので、当事者間で分かる内容になっていれば、記載方法は自由です。就業場所を限定するかどうか本人と話し合って、限定する場合はその範囲を明確にすることが重要です。

従事すべき業務

従来は、雇入れ直後の業務内容を記載していれば良かったのですが、改正後は、その変更の範囲も記載する必要があります。考え方は就業の場所と同じです。

業務を限定しない場合の変更の範囲の記載例は、「会社の定める業務」、「会社の全ての業務」、「全ての業務に配置転換あり」のようになります。

業務を限定する場合は、「介護業務、介護事務」、「運送、運行管理」、「施設・交通警備等の警備業務」、「商品の企画、営業、マーケティング」、「変更なし」のように明示します。

更新上限の有無

従来から、有期労働契約を締結する場合は、契約期間、更新の有無、更新の判断基準を記載する必要がありました。改正によって、更新する場合の上限の有無、上限がある場合は通算契約期間又は更新回数の上限を記載する必要があります。

上限がある場合の記載例は、「契約期間は通算4年を上限とする」、「契約の更新回数は3回までとする」のようになります。有期労働契約を更新する場合は、その都度、明示する必要があります。

また、更新時に、当初の内容から変更して、更新の上限を短縮する場合、更新の上限を新設する場合は、あらかじめ従業員にその理由を説明することが求められます。文書を交付して個別に説明をする方法が基本ですが、複数の従業員が対象になる場合は説明会を開催して同時に説明をする方法でも構いません。

当初の会社の見込みが外れて、更新上限の短縮や新設を行わざるを得ない状況になったはずですので、「プロジェクトが終了することになった」、「予定していた出資が受けられず、事業を縮小することになった」というような理由が存在すると思います。

無期労働契約の申込み

労働契約法によって、有期労働契約を更新して通算契約期間が5年を超える従業員は、無期労働契約の締結を申し込む権利があることが定められています。会社はその申込みを拒否できません。 改正によって、無期労働契約に転換するよう申し込めることを記載する必要があります。

ただし、無期転換を申し込む権利が発生する有期労働契約を締結(更新)する際に記載が求められるもので、例えば、1年ごとに更新を繰り返しているとすると、最初の5年間は記載が不要で、6年目以降に記載が必要になります。したがって、その有期労働契約を締結する前に、無期転換の制度について、従業員に説明をすることになります。

記載例は、「本契約期間中に会社に対して、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の締結を申し込むことにより、本契約期間の末日の翌日(○年○月○日)から、無期労働契約に転換することができる」のようになります。

従業員が6年目に無期転換を申し込まなかったときは、7年目以降も更新の都度、無期転換の申込みに関する事項を記載しないといけません。

無期転換後の労働条件

改正によって、上の無期転換の申込みに関する事項の記載と同時に、無期労働契約に転換した場合の労働条件を明示する必要があります。明示する労働条件は、労働契約の締結時に求められる明示事項と同じです。

労働契約法によって、有期労働契約の通算契約期間が5年を超える従業員が申し込んで、無期労働契約に転換した後の労働条件は、契約期間を除いて、原則として同一の労働条件を引き継ぐことになっています。ただし、「別段の定め」をしたときは、その内容(労働条件)が適用されます。

無期労働契約に転換した後も労働条件を変更しない場合の記載例は、「無期労働契約に転換した場合の労働条件は、本契約と同一の内容とする(契約期間は除く)」のようになります。

労働条件を変更する場合は、「無期労働契約に転換した場合の労働条件は、別紙のとおりとする」と記載して、別紙(これが「別段の定め」となります)で、具体的な労働条件を明示します。雇用契約書等と同じ形式で明示したり、変更する内容を明示する方法でも差し支えありません。

なお、「別段の定め」で労働条件を引き下げたり、無期転換を申し込んだ従業員を解雇(雇止め)したりすることは、無期転換の申込みを抑制して、法律の趣旨を実質的に失わせることになりますので、認められません。裁判等によって救済の対象になります。

労働条件を引き上げて、それに見合った職務の範囲や責任の程度に変更することは問題ないです。例えば、正社員として雇用することを前提として、正社員と同様の処遇(労働条件)を提示することも考えられます。

改正のタイミング

改正によって、労働条件の明示事項を追加する義務が生じるのは、2024年4月1日以降に締結又は更新をする労働契約が対象になります。

したがって、例えば、2024年4月1日が入社日(契約の開始日)であったとしても、同年3月1日に労働契約を締結する場合は、対象外になります。前倒しで法改正の内容を取り入れることは望ましいです。

また、既に在籍している従業員については、改めて労働条件を明示する必要はありませんが、確認のために、就業場所や業務内容の変更の範囲を明示することは望ましいです。

(2024/7作成)