在宅勤務制度の導入
在宅勤務のメリット
「在宅勤務」という言葉は昔からありましたが、近年では、インターネットによる通信環境の変化やパソコンの普及により、自宅で行える業務の範囲が拡大しています。
在宅勤務制度の導入により、会社は、育児や介護など私生活の事情で退職を考えている社員を引き留めやすくなります。
また、多様な働き方を用意することで、通常の勤務が困難な優秀な人材を確保しやすくなります。
一方、社員にとっては私生活を充実させながら働くことができます。
また、通勤時間が掛かりませんし、通勤による肉体的・精神的負担を軽減できます。会社においては通勤費用を削減できます。
例えば、育児休業をして1年後に職場に復帰すると、環境の変化が激しくて戸惑ってしまうことがあります。しかし、在宅勤務で仕事を続けていると職場復帰がスムーズに進みやすいです。
更に、在宅勤務にすると、仕事の生産性や効率が向上すると言われています。
在宅勤務とは
「在宅勤務」とは、情報通信機器を用いて自宅で業務を行う勤務形態を言います。
在宅勤務は自宅で仕事を行いますので、どうしても勤務時間と日常生活が混在してしまいます。このため、勤務時間の取り扱い等、通常の勤務とは異なる労務管理が必要になります。
在宅勤務と法律の適用
在宅勤務の場合でも、労働基準法、労働契約法、労働安全衛生法、労災保険法、最低賃金法等の法律は適用されます。
採用時に労働条件を明示することが労働基準法で義務付けられていますが、その1つとして「就業場所」が定められています。したがって、在宅勤務を行う場合は、就業場所として社員の自宅を明示しないといけません。ただし、これは当初から在宅勤務を前提に採用した社員だけで、後から在宅勤務に変更する場合は明示する義務はありません。
また、労働安全衛生法が適用されますので、在宅勤務を行う社員にも健康診断を実施する必要があります。
そして、業務が原因で生じたケガや病気は、労災保険の対象となります。当然ですが、私的行為によるケガや病気は労災保険の対象にはなりません。健康保険を使うことになります。
在宅勤務と事業場外のみなし労働時間制
在宅勤務は、勤務時間と日常生活が混在しますので、通常は労働時間を算定することが難しく、「事業場外のみなし労働時間制」を適用し、所定労働時間勤務したものとみなすのが一般的です。
ただし、在宅勤務で、事業場外のみなし労働時間制を適用するためには、次の3つの条件を全て満たしている必要があります。
- 業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること
- 情報通信機器が、会社の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
- 業務が、随時会社からの具体的な指示に基づいて行われていないこと
なお、光回線やADSLが常時接続されていても、社員が自由に情報通信機器から離れられる場合や情報通信機器の切断を認めている場合は、Aの「常時通信可能な状態」には該当しません。
会社からの具体的な指示に即応できるよう待機することを求めていると該当します。
また、業務の目的、目標、期限等の基本的事項の指示やこれらの変更の指示は、Bの「具体的な指示」には当たりません。
深夜勤務、休日勤務
事業場外のみなし労働時間制を適用している場合であっても、現実に深夜や休日に勤務したときは深夜勤務手当、休日勤務手当を支払わないといけません。
放置していると問題になりますので、深夜勤務や休日勤務を行う場合は、事前の許可を要することを義務付けるよう就業規則に規定しておく必要があります。
そのように就業規則に規定しているにもかかわらず、事前の許可を得ないで、社員が勝手に深夜勤務や休日勤務を行った場合はどうなるのでしょうか。
次の条件を全て満たしている場合は、労働基準法上の労働時間には該当しません。つまり、深夜勤務手当や休日勤務手当は、支払わなくても構いません。
- 深夜勤務や休日勤務を命じていない
- 深夜や休日に勤務しなければ対応できないような、過大な業務量を与えたり、切迫した期限を設定したりしていない
- 深夜や休日に勤務したことを会社が知り得なかった(深夜や休日にメールが送信されていない等)
なお、深夜勤務や休日勤務に上限時間を設定したり、実績どおりに申告しないよう社員に働き掛けたりしていると認められませんので注意して下さい。
会社は勤務時間を把握するために、業務に従事した時間の報告を社員に義務付けて、業務内容や業務量を調整することが望ましいです。
在宅勤務の導入
在宅勤務の導入は、社員の協力がなければ実現できません。業務の実態を勘案して、労使間で協議をして、社員の意向を踏まえながら進めるべきでしょう。
事前に取り決める内容としては、対象となる業務、対象者の範囲、人事評価の方法、賃金、通信費や情報通信機器等の費用負担、連絡方法、社員教育等があります。
特に、人事評価の方法をどうするかという会社の不安が多く、これをクリアできるかどうかが導入のポイントになりそうです。
また、在宅勤務は自律的に業務を遂行することが求められますので、実際に在宅勤務をする際は、会社として認めて良いかどうか個人ごとに検討して、本人から同意を得るべきでしょう。
(2014/3作成)
(2014/5更新)