時間単位の年次有給休暇(改正労働基準法)
時間単位の年次有給休暇(改正労働基準法)
これまで年次有給休暇は、1日又は半日単位での取得しか認められていませんでした。
これが労働基準法の改正により、労使協定を締結すれば、年次有給休暇を時間単位で取得できるようになりました。
なお、この改正は中小会社にも適用されます。
中小会社とは
中小会社に該当するかどうかは、「業種」、「資本金の額」、「社員数」によって判断されます。それぞれの業種で、次の「資本金の額」又は「社員数」の一方でも満たしていれば中小会社になります。
業種 | 資本金の額 | 社員数 |
---|---|---|
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他 | 3億円以下 | 300人以下 |
例えば、サービス業で資本金が1億円(5,000万円超)であっても、社員数が80人(100人以下)であれば中小会社になります。
また、中小会社の判断は、事業場単位ではなく、会社(法人)単位で判断されます。
労使協定の締結が必要
時間単位で年次有給休暇を付与する場合は、労使協定を締結することが条件になっています。労使協定は労使の一方でも拒否すれば締結されませんので、時間単位の年次有給休暇制度は、それぞれの会社の判断で設けないこともできます。
導入する場合に、労使協定で定める事項は次のとおりです。
1.時間単位の年次有給休暇制度の適用範囲
例えば、一斉に作業を行うことが必要とされる職場(工場のラインやパートタイマー等)で、時間単位で年次有給休暇を取得されると、事業の正常な運営を妨げることが考えられます。
このため、労使協定で時間単位の年次有給休暇制度を適用する社員の範囲を定めることとされています。
ただし、一部を対象外とする場合は、「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られます。育児を行う社員に限るなど、取得目的により制限をすることはできません。
2.時間単位の年次有給休暇の日数
時間単位で取得できる年次有給休暇の日数を定めることになっています。
年次有給休暇は1日単位で取得することが原則ですので、これを妨げることのないよう、時間単位で取得できる日数は5日以内とされています。
3.時間単位の年次有給休暇の1日の時間数
時間単位の年次有給休暇は1時間が最小単位となっています。分単位の取得は認められません。
1日の所定労働時間が8時間の会社では8時間で分かりやすいのですが、例えば、7時間30分としている会社はどうなるのでしょうか。
通達によると、1時間に満たない端数の時間は時間単位に繰り上げることとされています。
したがって、7時間30分としている会社では、1日8時間で計算することになります。8時間×5日=40時間分になります。7時間30分×5日=37.5時間(38時間)ということにはなりません。
4.1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数
時間単位の年次有給休暇は1時間単位での取得を想定していますが、2時間や3時間を取得の単位とすることができます。
社員にとっては1時間単位での取得が利用しやすいと思いますが、業務の都合で2時間や3時間での取得としたい場合は、労使協定でその時間を定める必要があります。
禁止事項
労使協定において、
- 時間単位の年次有給休暇を取得できる(できない)時間帯を定めること
- 所定労働時間の中途の取得を制限すること
- 1日に取得できる時間単位の年次有給休暇の時間数を制限すること等を定めること
は禁止されています。これらを定めることはできません。
労使協定がない場合
時間単位の年次有給休暇制度を導入する場合は労使協定を締結することが条件となっていますが、労使協定を締結していない状態で時間単位の年次有給休暇を取得した場合はどうなるのでしょうか。
これについては法的な年次有給休暇とならず、時間単位で取得したとしても、年次有給休暇の残日数は変わらないとされています。
つまり、5日分の時間単位の年次有給休暇を取得したとしても年次有給休暇は消化されないで、5日分がそのまま残るということです。
時間単位の年次有給休暇と時期変更権との関係
労働基準法により、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」と定められています。
時間単位の年次有給休暇についてもこの規定が適用されます。
しかし、
- 社員が時間単位の年次有給休暇を請求したときに会社が1日単位の年次有給休暇に変更すること
- 逆に1日単位の年次有給休暇を請求したときに会社が時間単位の年次有給休暇に変更すること
は認められないとされています。
つまり、社員が請求した年次有給休暇そのものについて、時季変更ができるかどうかを判断しないといけません。ただし、社員と話し合った上で、社員の意思により変更する場合は問題ありません。
時間単位の年次有給休暇の取得時に支払われる賃金
年次有給休暇を取得したときの賃金については、「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」又は「平均賃金」で支払うことが就業規則で定められていると思います。
時間単位の年次有給休暇を取得したときも、1日単位で取得したときと同様に取り扱うことになります。
時間単位の年次有給休暇の繰越し
当年度に取得されなかった年次有給休暇の残日数・時間数は、翌年度に繰り越されます。
しかし、時間単位の年次有給休暇を全く利用しなかった場合でも、10日にはなりません。前年度から繰越しがあった場合は、前年度からの繰越し分も含めて5日以内とされています。
半日単位年次有給休暇の取扱い
年次有給休暇の半日単位の付与については、従来どおりの取扱いで変更はありません。
つまり、会社が半日単位の付与を認めるのであれば、就業規則に規定することで半日単位の付与ができるようになります。
計画的付与との関係
年次有給休暇のうち5日を超える部分を計画的付与として、労使協定を締結すれば会社が指定した時季に年次有給休暇を取得させることができますが、時間単位の年次有給休暇についてはこの計画的付与はできないものとされています。
時間単位の年次有給休暇は社員の請求が前提となります。
就業規則への記載
時間単位の年次有給休暇制度を導入する場合、これは労働基準法第89条第1号の「休暇」として時間単位の年次有給休暇に関する事項を就業規則に記載する必要があります。
規定例は次のとおりです。
第○項 時間単位の年次有給休暇に関する労使協定を締結した場合は、労使協定で定めるところにより、5日(繰越し分も含む)を限度として、時間単位で年次有給休暇を取得することができる。
時間単位の年次有給休暇制度の導入は慎重に
時間単位の年次有給休暇は社員にとって都合の良い制度になっています。そのため場合によっては、毎週月曜日の朝1時間に年次有給休暇を請求するなど、職場の秩序を乱してしまう恐れがあります。
社員からは時間単位の年次有給休暇の要望が出ると思いますが、制度の導入は慎重に行う必要があります。
(2011/12作成)
(2014/5更新)