代替休暇(改正労働基準法)

代替休暇(改正労働基準法)

1ヶ月に60時間を超える時間外労働を行った場合の割増賃金率が、125%から150%に引き上げられました

これと併せて、引き上げられた割増賃金率に対応する割増賃金の支払に代えて、代替休暇を与えることが認められています。

この代替休暇制度は複雑なため、制度を導入する場合は事前の準備が欠かせません。

なお、割増賃金率の引上げは中小企業には当分の間は適用されませんので、代替休暇制度も中小企業には適用されません。

労使協定の締結

代替休暇の制度を設ける場合は、労使協定を締結する必要があります。労使協定で定める内容は次のとおりです。

1.代替休暇の時間数の具体的な算定方法

1ヶ月に60時間を超えた場合の割増賃金率である150%と、通常の割増賃金率の125%の差の25%分に相当する部分の割増賃金が、代替休暇の対象となります。

例えば、時間外労働を1ヶ月に76時間行った場合で考えてみしょう。

60時間を超える16時間分の割増賃金率は150%となりますが、25%分の割増賃金の支払に代えて代替休暇を与えることができます。

このときの代替休暇の時間は、16時間×0.25(=150%−125%)=4時間となり、4時間の代替休暇を与えれば、25%分の割増賃金の支払が不要になります。

なお、代替休暇を取得した場合でも、従来の125%(76時間)分の割増賃金の支払義務はあります。代替休暇として与えることができるのは、今回引き上げられた25%に相当する部分だけです。

2.代替休暇の単位

代替休暇の単位は1日又は半日のいずれかとされています。「1日」は1日の所定労働時間を言います。

「半日」は1日の所定労働時間の2分の1とされていますが、厳密に1日の所定労働時間の2分の1でなくても構いません。昼休憩の前後の例えば、午前の3.5時間と午後の4.5時間をそれぞれ半日とすることも認められています。

その場合は労使協定で、「半日」の定義を定めておく必要があります。

3.代替休暇を与えることができる期間

代替休暇を与えることができる期間は、1ヶ月の時間外労働が60時間を超えた月の末日の翌日から2ヶ月以内とされています。

例えば、3月16日から4月15日の賃金計算期間の時間外労働が60時間を超えた場合は、4月16日から6月15日が代替休暇の取得の期限になります。

また、2ヶ月連続して時間外労働が60時間を超えた場合は前後の代替休暇を合算して取得することも可能です。その場合も期限は同じです。

4.代替休暇の取得日の決定方法

代替休暇の取得を社員に義務付けることはできません。代替休暇は個々の社員の意思により取得するものとされていますので、代替休暇の取得の意向を社員に確認する必要があります。

意向の確認については取得する意向があるかないか程度で良いとされ、実際の取得日や取得単位を確認することまでは求められていません。

しかし、代替休暇を取得できる期間が限られていますので、実務上は早い段階で取得日や取得単位を決めることが望ましいです。

例えば、賃金計算の締切日から5日以内に代替休暇を取得するかどうかを社員に確認し、取得の意向がある場合は取得日を決定するというように、取得日等の決定方法について協定しておきましょう。

5.割増賃金の支払日

代替休暇を取得した場合はその分の割増賃金の支払が不要になりますが、予定どおり取得されなかった場合など、1ヶ月に60時間を超える時間外労働に対する割増賃金をいつ支払うのかが問題になります。

割増賃金の支払日は代替休暇取得の意向に応じて、次のようになります。

実務上の手続きとしては、@代替休暇取得の意向確認→A実際の取得の確認→B取得しなかった場合は引上げ分の割増賃金の支払、と管理の手間が掛かりそうです。

時間単位の年次有給休暇との組合せ

通常のケースで言うと、代替休暇の最小単位である半日は、1ヶ月の時間外労働76時間に相当しますが、76時間に満たないケースも生じます。

そこで、76時間に満たない端数の時間に、同時に法改正が行われた時間単位の年次有給休暇を組み合わせて、半日又は1日の代替休暇を与えることができます。

例えば、半日を4時間としていて、代替休暇の時間数が3時間になったとします。

このときに、時間単位の年次有給休暇を1時間プラスして半日の代替休暇を取得する、若しくは、5時間プラスして1日の代替休暇を取得することができます。なお、年次有給休暇も社員が請求して消化するものですので、会社が強制することはできません。

就業規則への記載

代替休暇制度を導入する場合は、労働基準法第89条第2号の「賃金の決定、計算及び支払の方法」、第1号の「休暇」として就業規則に記載する必要があります

規定例は次のとおりです。

第○項 法定労働時間を超えて勤務した時間が1ヶ月に60時間を超えたときは、労使協定で定めるところにより、代替休暇を与えることがある。この代替休暇は時間単位の年次有給休暇と併せて1日又は半日の休暇とすることができる。

第○項 前項の代替休暇を取得したときは、代替休暇の対象となった時間外勤務時間数に対する加算分の時間外勤務手当は支給しない。

代替休暇制度を導入しない場合は、就業規則に規定する必要はありません。

代替休暇制度導入の不安

代替休暇を取得しなかった場合は、150%の割増賃金率で計算した割増賃金を支払う必要があります。また、通常の年次有給休暇を取得したとしても、代替休暇を取得したことにはなりません。

同じ休むのなら代替休暇を取得するよりも、通常の年次有給休暇を取得した方が賃金が増えるため、企業の思惑どおり社員が代替休暇を取得するのかどうか心配されます。

(2011/12作成)
(2014/5更新)