就業規則の作成と届出【日本貿易振興会事件】
なるほど労働基準法 > 就業規則 > 就業規則の作成と届出
日本貿易振興会事件 事件の概要
会社の就業規則には退職金規程が付属していて、従業員が退職した場合は退職金が支給されること、従業員が死亡した場合は遺族に退職金が支給されることが規定されていて、その遺族の範囲と順位についても定められていました。
そして、従業員が死亡したのですが、就業規則(退職金規程)で定められている範囲内の遺族がいなかったため、誰にも退職金が支給されませんでした。
就業規則(退職金規程)で定められている遺族の範囲と順位が、民法で定められている相続人の範囲と順位とは異なっていたため、民法上の相続人が会社に対して退職金を支払うよう求めて提訴しました。
日本貿易振興会事件 判決の概要
会社の就業規則(退職金規程)には、従業員が死亡した場合は遺族に退職金を支給することが定められており、その遺族(受給権者)の範囲と順位については、次のように定めてられていた。
- 従業員が死亡した場合の退職金は、第一順位として内縁の配偶者を含む配偶者に支給され、配偶者がいる場合は子には支給されない。
- 直系血族の間でも親等の近い父母が孫より先順位となり、嫡出子と非嫡出子が平等に扱われ、父母と養父母については養方が実方に優先する。
- 死亡した者の収入によって生計を維持していたかどうかによって、順位が異なる。
このように、就業規則(退職金規程)で定められている遺族(受給権者)の範囲と順位は、民法で定められている相続人の順位を決定する方法とは異なった定め方となっている。
これは、従業員の収入で扶養されていた遺族の生活保障を目的とした規定で、民法とは別の立場で定めたものであり、遺族(受給権者)は、相続人としてではなく、就業規則(退職金規程)に基づいて、退職金を受給する権利を取得するものと考えられる。
そうすると、退職金の受給権は相続財産には当たらず、遺族(受給権者)が存在しない場合は、他の民法上の相続人による相続の対象とならない。
解説−就業規則の作成と届出
従業員が死亡した場合の退職金は、相続財産には当たらず、就業規則(退職金規程)で定められている遺族(受給権者)に受給する権利があることが示されました。
したがって、民法上の相続人がいたとしても、就業規則(退職金規程)に規定する遺族(受給権者)がいない場合は、退職金は相続の対象にならないと判断されました。
民法上の相続は、次の順位で定められています。配偶者は常に相続人となり、相続人となった人と共に相続人になります。
- 死亡した人の子供
- 死亡した人の直系尊属(父母や祖父母など)
- 死亡した人の兄弟姉妹
また、労働基準法(施行規則)では、遺族補償を受ける者は、次の順位で定められています。
- 配偶者
- 子、父母、孫、祖父母で、従業員が生計を維持していた者
- 子、父母、孫、祖父母
- 兄弟姉妹
なお、父母については、養父母を先にして実父母を後にすることが定められています。
就業規則(退職金規程)では、労働基準法(施行規則)で定められている範囲と順位に合わせている会社が多いと思います。
労働基準法第89条でも就業規則に記載しなければならない事項として、第3号の2に「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」と定められています。
就業規則が曖昧な書き方になっていると、トラブルの原因になります。従業員が死亡した場合に退職金を支給する遺族の範囲と順位について、就業規則(退職金規程)で明確に規定しておく必要があります。
退職金は高額になりますので、特に注意が必要ですが、最後の月に未支給の賃金が残る場合がありますので、その取り扱いについても就業規則(賃金規程)で定めておくべきです。