賞与の支給日在籍要件【京都新聞社事件】

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京都新聞社事件 事件の概要

就業規則には、会社は正社員に対して、毎年6月に前年10月1日から当年3月31日までを計算期間とする夏季賞与を支給し、毎年12月に当年4月1日から当年9月30日までを計算期間とする年末賞与を支給する旨が規定されていました。

この就業規則の規定は、嘱託規程によって、嘱託にも準用することになっていました。また、嘱託規程には、嘱託の契約期間は1年間とし、60歳に達した月の末日を期限とする旨が規定されていました。

そして、会社には、次の慣行が存在していました。

  1. 賞与は支給日に在籍している正社員と嘱託に支給する。
  2. ただし、支給日までに定年退職した者、死亡退職した者については、例外的に賞与を支給する。

正社員として勤務していた者が定年退職して、引き続き、嘱託として勤務することになりました。その後、60歳に達したため、11月末日に契約期間の満了により退職しました。

会社は翌月の12月に賞与を支給したのですが、既に退職して支給日に在籍していなかった嘱託には賞与を支給しませんでした。

これに対して、嘱託として勤務していた者が、賞与の支払を求めて会社を提訴しました。

なお、現在の定年年齢は60歳以上とすることが義務付けられていますが、この裁判が行われた当時の定年年齢は55歳以上とすることが義務付けられていました。

また、当時のこの会社では定年年齢を57歳として、その後は嘱託として再雇用し、60歳まで雇用を継続することが就業規則で定められていました。

京都新聞社事件 判決の概要

賞与の受給権の取得について、賞与の支給日に在籍することを要件とする慣行は、不合理なものではない。

嘱託がその存在を認識してこれに従う意思があったかどうかにかかわらず、事実たる慣習として有効である。

したがって、嘱託の契約期間満了により会社を退職した後に支給された賞与については、受給権はない。

解説−賞与の支給日在籍要件

賞与の支給対象期間は勤務していたけれども、賞与の支給日に既に退職した嘱託に、賞与を支給しなくてトラブルになったケースです。

会社には、賞与の支給日に在籍していない者には支給しないという慣行、例外的に定年退職した者と死亡退職した者には賞与の支給日に在籍していなくても支給するという慣行がありました。

正社員が定年退職したときは賞与を支給していたのですが、嘱託が契約期間満了により退職したときは賞与を支給しないという取扱いになっていました。

特にこの嘱託は11月末日に退職して、数日後の12月4日に賞与が支給されていましたので、余計に納得できなかったと想像できます。

しかし、裁判所は、慣行は合理的なもので、事実たる慣習として効力があること、つまり、賞与を支給しなかったことは有効と判断しました。

このようなトラブルが繰り返されてきて、今の就業規則(賃金規程)の多くは、賞与の支給日に在籍している者に限って支給することを明確に規定していると思います。

このような規定は有効ですし、従業員の納得性を高めるためにも必要な規定です。就業規則(賃金規程)に規定していれば、就業規則を示して説明しやすいです。就業規則に規定していないと、会社も従業員もそれぞれが都合の良いように考えてトラブルになりやすいです。

もちろん、既に退職していても、支給対象期間に渡って勤務した者には賞与を支給するのであれば、そのように規定することも可能です。