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明治生命事件 事件の概要

昭和30年代の話です。

外務職員については、勤務上の拘束がなく、能率給のみの給与体系が採られていたのですが、会社が外勤職員の業務を管理するために、就業規則で、勤務時間を1日実働8時間として、遅刻や早退等で勤務を離れる場合は所定の手続を要することを定めて、固定的給与を取り入れた給与体系を採用しました。

しかし、実際には、就業規則で定めたにもかかわらず、訪問先の都合によって、夕方や夜間、日曜、祭日にも勧誘、集金を行うのが普通で、割増賃金(時間外勤務手当、休日勤務手当、深夜勤務手当)は支払われていませんでした。

給与の内、能率給と言われている超過奨励金、集金奨励金、募集旅費、集金旅費は、募集、集金の成績に比例して毎月金額が変動して支給され、勤務手当と交通費補助は、募集、集金の成績に関係なく毎月一定額が支給されていました。

また、給料、出勤手当、功労加俸、地区主任手当は、資格を有する者に対して、資格に応じた金額が支給されていました。これらの受給資格となる係長、係長補、主任等の地位は、過去3ヶ月間の成績によって昇格、格下げをするもので、それに応じて給料、出勤手当、功労加俸、地区主任手当の金額も変動していました。なお、係長、係長補、主任等の地位は、単に給与の階級を定めたもので、それらの地位が異なっても職務内容は全く同じでした。

そして、外務職員がストライキを行ったため、会社は勤務手当等の給与を減額しました。

これに対して、外務職員が勤務手当等の減額は違法と主張して、それらの支払を求めて会社を提訴しました。

明治生命事件 判決の概要

労働協約等に定めがない場合に、ストライキによって削減できる固定給は、勤務時間に応じて支払われる性質のものでなければならない。これは支給金額が固定しているというだけでは不十分で、また、勤務時間の長短に関係なく、完成された仕事量に比例して支払われるものであってはならない。

給与の内、勤務手当と交通費補助は、労働の対価として支給されるものではなく、職員に対する生活補助費として支給されるものであるから、これらの給与は、職員が勤務しなかったからといって、その時間に応じた金額を当然に減額できるものでない。

次に、会社における勤務時間拘束の制度は、業務を管理する手段として設けられたものであって、給料、出勤手当、功労加俸、地区主任手当の額を決定する絶対的基準として設けられたものではない。

そして、係長、係長補、主任等の資格は給与の級別に過ぎず、かつ、その者の過去の成績によって資格が決定されるものであるから、給料、出勤手当、功労加俸、地区主任手当は、仕事の成果によって決定されるものと言える。

また、一定の資格にいる間は、その期間中の募集、集金の成果と関係なく支給されており、過去の仕事の成果に対して支払われるものを、給与の平均化を図る目的で、その期間に分割して支給されるものと認められる。

したがって、給料、出勤手当、功労加俸、地区主任手当は、従業員の勤務時間の長短を基準として決定された面が全然ないとは言えないにしても、その実質は、むしろ、ストライキの行われた以前の従業員の募集、集金の成果に比例して決定されたものであって、ストライキによって減額できるものではない。

典型的な一般労働者も、日常の仕事の成績を考慮して、昇格、格下げが行われ、これに伴って給与が増減されている。しかし、この場合は、資格が給与の級別ではなく、職務の内容に関するものである。仕事の成績が給与の額に影響を及ぼすからといって、両者の間にある給与決定上の本質的相違を無視することはできない。

解説−賃金の全額支払の原則

従業員がストライキを行って、各項目の給与を減額できるかどうか争われた裁判例です。就業規則や労働協約に給与を減額する規定がない場合は、勤務時間に応じて支給されている給与でなければ減額できないことが最初に示されています。

そして、勤務手当と交通費補助は、労働の対価として支給されるものではなく、生活補助費として支給されるものであるため、勤務しなかったからといって減額できるものではない。

次に、給料、地区主任手当、功労加俸、出勤手当は、従業員の成績に応じて決定されるものであって、過去の仕事量に比例して決定された報酬を、所得の安定、給与の平均化を図る趣旨で分割支給されたものとして、これらも減額できるものではないと判断しました。

勤務時間の長短に関係なく、仕事の成果に応じて自動的に給与の額が決定される場合は、あくまでも仕事の成果が基準になりますので、不就業の時間分の給与を減額することはできません。

また、この会社では、時間外勤務をしても時間外勤務手当を支払っていなかったり、勤務時間の管理が適正に行われていなかったりして、就業規則どおりの取扱いが行われていなかったことも見過ごせません。

人事考課を行って、昇給をしたり、役職の配置をしたりしている一般的な会社では、就業規則(賃金規程)で、遅刻や欠勤をした時間分の賃金を(どの手当を減額するのか具体的に明らかにして)減額することを定めていれば、通常は減額が認められます。

しかし、通勤手当や家族手当などを減額することは、従業員の理解が得られにくいので、法律的には可能としても、割増賃金の算定基礎に入れない手当は減額しない方が良いと思います。