休憩時間の自由利用【住友化学工業事件】

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住友化学工業事件 事件の概要

就業規則には、1日につき1時間(12時から13時まで)の休憩時間を与えることが規定されていたのですが、会社は操炉班の従業員に対して、休憩時間中も炉を監視できる場所に留まることを命じていました。

休憩時間中は炉を監視できる場所に留まっていれば、喫煙したり、雑談したりすることは許されていましたが、炉の監視は2名以上で行うことになっていて、従業員が現場から離れる場合は、予め上司や同僚に伝えて調整することになっていました。

これに対して従業員が、休憩時間を与えられなかったことを理由として、休憩時間に対する賃金相当額の損害賠償と慰謝料の支払いを求めて、会社を提訴しました。

住友化学工業事件 判決の概要

原審の判断は、正当として是認することができる。

名古屋高裁(原審)

事実関係を見ると、休憩時間としていた12時から13時までの1時間については、会社は従業員に通常の作業をさせないよう配慮していた。

しかし、操炉班の勤務実態を見ると、12時から13時までの1時間を含めて、会社が主張する非実働時間の3.5時間については、事実上は休息できたとしても、それはいわゆる手待時間と考えられる。

つまり、就業規則で定める1時間の休憩時間が、その趣旨に沿って完全に与えられていたとは認められない。

操炉班の従業員は、休憩時間が明確に指定されていなかった上、休憩時間とする時間帯においても、会社の指揮下に置かれて身体的な自由を半ば拘束された状態にあった。

したがって、会社が操炉班の従業員に与えた休憩時間は不完全であり、休憩を与える債務の不完全な履行であったと考えられる。

そこで、従業員の損害賠償の請求について検討すると、従業員は就業規則に定める1時間の休憩時間を完全な形で与えられず、会社の指揮下に置かれて身体的な自由を半ば拘束され、身体上及び精神上の不利益を受けたと認められる。

しかし、従業員が主張するように、1時間の勤務に対応する賃金相当額の損害を受けたと認めることはできない。

休憩時間は、労働契約で定められた8時間勤務の中の1時間であり、従業員がこの時間を他の勤務に振り替えて稼働することはできないし、半ば拘束状態にあったとしても、その時間は通常の業務に従事していない。

したがって、従業員が受けた身体上及び精神上の不利益は、1時間の勤務に対応する賃金相当額と見積もることはできない。債務不履行を理由とする賃金相当額の損害賠償の請求については、認められない。

しかし、慰謝料の請求については、休憩時間が債務の本旨に従って付与されず、従業員の身体的な自由が侵害されたと認められる以上、従業員が精神的な損害を受けたことは明らかである。

そして、操炉現場における職場環境を見ると、

その他諸般の事情を総合的に考慮すると、従業員が受けた精神的な損害を金銭に換算すると、その額は30万円が相当と認められる。

解説−休憩時間の自由利用

休憩時間も炉を監視するよう命じられた従業員が、適正に休憩時間を与えられなかったとして、トラブルになったケースです。

労働基準法(第34条第3項)によって、「使用者は、第一項の休憩時間を自由に利用させなければならない」と規定されています。この規定によって、従業員は、休憩時間を自由に利用できることが保障されています。

会社が自由な利用を禁止したり、不当に制限したりした場合は、労働基準法違反になります。また、その場合は、債務不履行として、従業員は会社に対して損害賠償を請求することができます。

休憩時間は、肉体的及び精神的な疲労を回復することを目的として設けられた制度です。会社の指揮下から離れて、自由に過ごせることが条件になっていますので、従業員に待機させて、作業に従事していないというだけでは(いわゆる「手待ち時間」は)、適正に休憩を与えたことにはなりません。

この会社では、休憩時間中も従業員に炉を監視できる場所に留まることを命じていました。その時間については、裁判所は、手待ち時間であることは認めたのですが、炉の監視で通常の業務とは異なること等を理由にして、賃金相当額の損害賠償の請求は認めませんでした。

ただし、従業員は身体的な自由を拘束されて、精神的な損害を受けたことを理由として、慰謝料の請求(30万円の支払い)は認めました。

ところで、この裁判では、債務不履行(適正に休憩時間を与えなかったこと)を理由とする賃金相当額の損害賠償の請求は否定されましたが、個人的には、労働時間であったと主張して休憩時間に対する賃金の支払いを求めたとすると、認められた可能性があったのではないかと思いました。