私生活上の非行と懲戒処分

私生活上の非行と懲戒処分

会社の金品を横領したり、上司を暴行したり、社内で職場の秩序を乱す言動があったときは、会社は懲戒解雇などの懲戒処分を行うことができます。

一方、社外で傷害事件を起こしたり、通勤電車で痴漢をしたり、といった私生活上の非行についても、会社は懲戒処分を行うことができるのでしょうか?

裁判での考え方と判断基準

社員の私生活上の言動は、本来、会社とは関係のないことですので、会社が干渉することはできません。

したがって、原則的には、社員の私生活上の非行に対して、例えば、社員が傷害事件を起こしたとしても、それを直接の理由として、会社が懲戒処分を行うことはできません。

しかし、企業経営に悪影響が及ぶような事態が生じたときは、会社として見過ごすことはできません。

そこで、裁判例では、業務に関係のない私生活上の言動であっても、会社の社会的評価を低下させたり、業務の円滑な運営に支障が生じたりする場合は、懲戒処分の対象とすることができると判断しています。

ただし、懲戒処分の重さは、処分の対象となった行為及び悪影響の程度に応じたものでないといけません。つまり、その行為の性質や情状、会社の業種や規模、その社員の地位や職種等を総合的に考慮して決定するべきとされています。

なお、業務の阻害や取引の停止などの具体的な不利益が生じていなくても構いません。そして、社員の行為によって企業経営に重大な悪影響を及ぼすものであれば、懲戒解雇も認められます。

私生活上の非行に関する裁判例

社員が私生活で問題を起こしたときは、会社としてどう対処すれば良いのか判断に迷うことが多いと思います。そこで、裁判になったケースを取り上げて、どのように判断したかを紹介します。

住居侵入

まずは、私生活上の非行と懲戒処分に関して、最高裁まで争われた代表的な事件です。

これは、社員が酒に酔って深夜に他人の住居に入り込み、住居侵入罪で逮捕され、それが噂となって広まってしまい、会社が「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」に該当することを理由に懲戒解雇を行いました。

これについて裁判所は、刑罰が罰金2,500円で軽いこと、職務上指導的な地位にないこと、等の事情から、会社の体面を著しく汚したとまでは言えないとして、懲戒解雇は無効と判断しました。

暴行・傷害

公務執行妨害罪や傷害罪により、執行猶予が付いた有期刑の判決を受けたことを理由として懲戒解雇をしたケースがいくつかありますが、それぞれ有効と判断しています。

また、酒に酔い模造刀を持って他人の家のベランダによじ登り、逃走の際に家の人を負傷させ、住居侵入罪、傷害罪、銃刀法違反に問われ、罰金10万円に処せられたケースでは、懲戒解雇を有効と判断しました。

なお、酒に酔った上での喧嘩については、解雇無効と判断している裁判例が多いです。

性犯罪

強姦罪などの性犯罪については、逮捕されたものは告訴を取下げ起訴猶予になったケースであっても、懲戒解雇は有効と判断しています。

痴漢

鉄道会社の社員が電車内で痴漢行為を繰り返したことを理由として懲戒解雇を行ったケースでは、業務内容が鉄道会社であったことから、報道等の形で公にならなかったとしても、会社の社会的評価を低下させる恐れがあるとして懲戒解雇は有効と判断しました。

最近では痴漢の冤罪が増えているようですので、有罪を前提とした拙速な判断は避けるべきです。そして、有罪が確定した場合は、痴漢の経緯や反省の程度、指導的な地位にあるかどうか、社会的な信用の低下などを慎重に検討する必要があります。

判断が難しい場合は、合意退職や諭旨退職も検討すると良いでしょう。

窃盗

新聞社の印刷工が路上に放置された自転車を横領して、起訴猶予となったケースでは、会社に損害を与える恐れがなく、社員の地位などに照らして、懲戒解雇は無効と判断しました。

飲酒運転

運送会社の運転手が業務終了後に飲酒運転で検挙されたケース、バスの運転手が休日に酒酔い運転で検挙されたケースについては、業種の内容を考慮して懲戒解雇を有効と判断しました。

また、タクシーの運転手が勤務時間外に職場の後輩に飲酒運転をけしかけ、同乗して人身事故を起こしたケースでも、社会的評価を低下する恐れがあるものとして懲戒解雇を有効と判断しました。

しかし、直接自動車の運転に関係しない業種では、昭和48年の判決ですが、飲酒運転により死亡事故を起こして禁固10ヶ月、執行猶予3年の刑が確定したケースについて、会社の職場秩序や社会的地位、信用に対する重大な侵害をもたらしたとは言えないとして、懲戒解雇を無効としたものがあります。

今の世間の認識とかけ離れていますが、今でも「飲酒運転で検挙=解雇有効」とは認められにくいのが、裁判での実情です。

道路交通法違反

道路交通法違反で、罰金で済む程度のものは解雇無効と判断されています。

交通事故についても、悪質なものでなければ同様に考えられると思われます。

社内不倫

社内不倫については、セクハラに該当するケースは解雇が有効と認められたものが多いです。

セクハラに該当しないものでは、妻子のあるバス運転手と女性乗務員が情交関係になり女性乗務員が中絶し退職したケース、女子短大の講師が婚外子を出産した上に別れ話を校内にまで持ち込んだケース、女子学生を誘惑した大学助教授のケース、では業種や職種が考慮され解雇が有効と判断されています。

しかし、上と同様に、妻子のあるバス運転手と乗務員の情交関係が問題となった別のケースでは解雇が無効とされていて、判断が分かれています。職場にどのような悪影響が生じたのか、社会的評価にどの程度の影響があったのかが問題になります。

私生活上の非行まとめ

ここに挙げたものと同種の非行であっても、諸事情を総合的に考慮して判断されますので、個々の事情により判断が異なる場合があります。ご注意ください。

ただし、私生活で刑事事件を起こして罰金刑に留まったものは、懲戒解雇は無効と判断されたケースが多いので、一応の目安になるかと思います。そのような場合は出勤停止などの軽い懲戒処分を検討することになるでしょう。

(2012/12作成)
(2014/5更新)