中小企業の割増賃金率(改正労働基準法)

中小企業の割増賃金率(改正労働基準法)

労働基準法の改正

法定労働時間(1週40時間又は1日8時間)を超えて勤務をしたときは、超えた時間に対して、125%の時間外勤務手当(割増賃金)を支払うことが義務付けられています。

労働基準法が改正されて、法定労働時間を超えた時間外労働の時間が、1ヶ月に60時間を超えたときは、超えた時間に対する割増賃金率が150%に引き上げられました。

この法改正は、大企業に対しては2010年4月から既に適用されていますが、中小企業に対しては適用が猶予されていました。しかし、働き方改革関連法の成立によって、13年間の猶予期間が終了して、中小企業にも2023年4月1日から適用されることになりました。

例えば、1ヶ月に80時間の時間外労働をしたときは、「60時間×125%」+「20時間×150%」の時間外勤務手当を支払わないといけません。

休日勤務手当との関係

労働基準法によって、原則として、1週間に少なくとも1日は休日(法定休日)を与えることが義務付けられています。1週間に1日も休日を与えられなかった場合は、法定休日に勤務した時間に対して、135%の休日勤務手当を支払うことが義務付けられています。

この法定休日労働の時間は、時間外労働の時間にはカウントしません。例えば、日曜日を法定休日としている場合は、日曜日の労働時間については(1日8時間を超えても)、150%の時間外勤務手当の支払い対象にはなりません。しかし、日曜日以外の法定外休日の労働時間は、150%の時間外勤務手当の支払い対象になります。

したがって、今後は、法定休日の特定方法が重要になります。

週休二日制の場合、休日に出勤したとしても、もう一方の休日に休んでいれば、法定休日に勤務したことにはなりません。両方の休日に出勤したときは、1週間で見て後の休日が法定休日になります。

例えば、日曜日から土曜日までを1週間の単位として、同一週の日曜日と土曜日の両方の休日に出勤したときは、土曜日が法定休日として、135%の休日勤務手当の支払い対象になります。

原則的には上のとおりですが、就業規則に、「日曜日を法定休日とする」と規定していれば、それが有効になります(土曜日の出勤の有無は影響しません)。日曜日の労働時間は時間外労働の時間にはカウントしませんので、時間外労働の時間の増加を抑制できます。

しかし、1ヶ月の時間外労働の時間が60時間を超えることがなければ、125%の時間外勤務手当の支払いで済みますので、会社としては、法定休日は特定しない方がコストを抑えられます。

深夜勤務手当との関係

深夜(22時から5時まで)の時間帯に勤務をしたときは、その時間に対して、25%の深夜勤務手当を支払うことが義務付けられています。

深夜労働の時間と時間外労働の時間が重なったときは、両方をカウントしますので、125%又は150%の時間外勤務手当に、25%の深夜勤務手当を加算して支払うことになります。

就業規則の規定例

割増賃金率の変更に合わせて、就業規則(賃金規程)を変更する必要があります。規定例は、次のとおりです。

  1. 毎月〇日を起算日として、1ヶ月の時間外勤務時間数が60時間以下
    時間外勤務手当=割増賃金の算定基礎額×1.25×時間外勤務時間数
  2. 毎月〇日を起算日として、1ヶ月の時間外勤務時間数が60時間超
    時間外勤務手当=割増賃金の算定基礎額×1.50×時間外勤務時間数
  3. 休日勤務手当=割増賃金の算定基礎額×1.35×休日勤務時間数
  4. 深夜勤務手当=割増賃金の算定基礎額×0.25×深夜勤務時間数

代替休暇

割増賃金率の引上げと同時に、労使協定を締結した場合は、法改正により、引き上げられた割増賃金率(25%分)に対する割増賃金の支払いに代えて、代替休暇を与えて相殺する方法が認められています。

例えば、1ヶ月に80時間の時間外労働をして、半日分(4時間分)の代替休暇を取得したとすると、16時間分の割増賃金に相当します(25%×16時間=4時間)。引上げ分の16時間は相殺して、「76時間×125%」+「4時間×150%」の時間外勤務手当を支払うことになります。

なお、代替休暇の制度を設けることは義務ではありません。代替休暇の制度を設ける場合の条件となっている労使協定は、会社と従業員の過半数代表者の合意によって成立・締結するものですので、双方が合意しなければ、代替休暇の制度は設けなくても構いません(設けることはできません)。

また、代替休暇の制度を設ける場合は、就業規則に制度の内容を規定する必要があります。

労働時間(残業時間)の把握

通常の賃金の1.5倍の時間外勤務手当を支払って、利益を確保することは難しいと思います。過去の時間外労働の時間を調べて、1ヶ月に60時間を超えるケースがあったかどうか確認してください。

特定の従業員の時間外労働の時間が繰り返し60時間を超えている場合は、その原因を調べて、業務の配分や人員の配置を見直すといった対応が必要です。

1ヶ月の時間外労働の時間を集計して初めて、60時間を超えていた事実を知るようではいけません。60時間を超えないように、随時(最低でも各週ごとに)、把握することが望ましいです。

残業時間の削減

残業時間を削減することも重要です。部門内や部門間で、「無駄な作業がないか?」「効率化できる方法がないか?」と定期的に話し合って、残業時間を減らす努力が必要です。

また、残業(時間外労働)をするかどうかを従業員に委ねていると、60時間を超える恐れがありますので、残業(時間外労働)をするときは、上司による事前の承認制とすることをお勧めしています。

特別条項付きの36協定

通常の36協定を締結して労働基準監督署に届け出ている場合、時間外労働の時間は1ヶ月に45時間が上限ですので、この範囲内でしか時間外労働をさせることはできません。

1ヶ月に45時間(割増賃金率が150%となる60時間)を超えて時間外労働をさせる場合は、事前に特別条項付きの36協定を締結して、労働基準監督署に届け出ている必要があります。

また、1ヶ月の時間外労働の時間が60時間を超えたときの割増賃金率が150%に引き上げられましたが、45時間を超えて60時間以下の部分については、130%とするなど、割増賃金率を引き上げるよう努めることとされています。

こちらは以前から中小企業にも適用されていますが、あくまでも“努めること”を義務付けるものですので、引き上げなかったとしても直ちに違法とはなりません。

(2025/2作成)