年金事務所の調査対応
年金事務所の調査とは
年金事務所では、適正に社会保険(厚生年金保険と健康保険)に加入しているか、適正に社会保険料を納付しているか、を定期的に調査しています。
年金事務所から「調査を実施する」という通知が初めて届いたときは驚くかもしれませんが、社会保険に加入している企業は、約4年に1回のペースで調査の対象になります。また、新規に社会保険に加入した企業については、通常は加入をして1年以内に調査の対象になります。
違反行為の密告等があって選ばれた訳ではありません。そして、指定された日時に、必要な書類を持って、年金事務所まで来るよう求められます。
年金事務所の調査を拒否
健康保険法によって、「厚生労働大臣は、被保険者の資格、標準報酬、保険料又は保険給付に関して必要があると認めるときは、事業主に対し、文書その他の物件の提出若しくは提示を命じ、又は当該職員をして事業所に立ち入って関係者に質問し、若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる。」と規定されています。
また、調査(検査)を拒否したり、妨害したり、虚偽の答弁をした企業に対して、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されることも規定されています。同様の規定が、厚生年金保険法にも設けられています。
法律を根拠にして行われる調査(検査)ですので、通知が来たときは応じるしかありません。ただし、指定された日時に行けない場合は、あらかじめ年金事務所に電話をすれば、日時を変更してもらえます。
持参する書類
調査の当日は、次の書類を持参するよう求められるケースが一般的です。通知書の記載内容と異なる場合がありますので、実際の通知書に従って準備してください。
- 出勤簿(タイムカード)
- 賃金台帳(給与明細書)
- 労働者名簿
- 雇用契約書(労働条件通知書)
- 就業規則、賃金規程
- 所得税徴収高計算書(納付書)
調査される事項
算定基礎届や資格取得届など、会社が年金事務所に届け出た内容と持参した書類を照合して、不明な部分があれば、年金事務所の職員から質問されます。調査される事項は、次のとおりです。なお、調査に要する時間は、問題がなければ、通常は30分弱で終了します。
社会保険の加入漏れ
次の2点は、必ずチェックされます。
- 社会保険の加入要件を満たしているのに、未加入の者がいないか?
- 社会保険の加入要件を満たしていないのに、加入している者がいないか?
パートタイマーやアルバイト等であっても、原則として、1週間の所定労働時間、及び、1ヶ月の所定労働日数が、正社員の4分の3以上の者は、社会保険(厚生年金保険と健康保険)の加入義務があります。本人の意思や年収は関係ありません。
例えば、正社員の1週間の所定労働時間が40時間とすると、30時間が基準になります。その場合、週30時間未満の者は、社会保険に加入できません。
また、一時的に、週30時間以上、週30時間未満になる場合は、客観的に見て“どちらが常態なのか”で判断されます。判断が難しいケースがありますので、行ったり来たりしないようにしてください。
なお、従業員数が101人以上の会社(2024年10月以降は51人以上の会社)については、加入要件が緩和(適用範囲が拡大)されています。
社会保険の加入日
社会保険の加入要件を満たしている者については、入社日(所定労働時間を変更して加入要件を満たすことになった場合は、その日)から加入する必要があります。試用期間が終了してから加入するのは間違いです。
算定基礎届
算定基礎届の報酬月額には通勤手当や割増賃金など全ての手当を含めているか、食事や住宅(社宅)などの現物給与を提供している場合は換算して報酬月額に合算しているか、など適正に処理しているかチェックされます。
賞与支払届・月額変更届
賞与支払届や月額変更届の提出漏れがないかチェックされます。
賞与という名称でなくても、一時金(算定基礎届の報酬月額に含めていない手当)を支払っている場合は、賞与支払届を提出するよう求められます。また、賃金(手当)を見直して、標準報酬月額が2等級以上変動した者がいる場合は、月額変更届を提出しないといけません。
社会保険料の控除額
毎年、3月分(4月末日納付分)から健康保険の保険料率(保険料)が改定されて、更に、9月分(10月末日納付分)から算定基礎届に基づいて各従業員の標準報酬月額(厚生年金保険と健康保険の保険料)が改定されます。賃金からそれぞれの保険料を適正に控除しているかチェックされます。
違反の指摘
調査を受けて、提出書類の記載ミスや提出の漏れを指摘された場合は、必要に応じて是正します。アドバイスに従っていれば、ミスを責められたり、罰則を科されたりすることはありません。
そして、社会保険の加入漏れがあった場合は、資格取得届を提出して、法律上は、最長で2年前までさかのぼって社会保険料を納付するよう求められる可能性があります。
例えば、標準報酬月額が15万円とすると、社会保険料の月額は約4.5万円(介護保険料を含むと約30%)で、2年間で約108万円に及びます。これを労使折半で負担します。同様の従業員が複数いた場合は、社会保険料は更に膨れ上がります。
在籍している者については本人負担分を分割で控除するとしても、既に退職している従業員に請求することは難しいです。入社時に本人が「社会保険には加入したくない」と言っていたとしても、社会保険料の納付義務は会社にありますので、会社が全額を負担するケースが少なくありません。
また、年金を受給していた者については、社会保険料の納付を求められた上に、これまで受給した年金の返還を求められることがあります。返還が困難で、より深刻な問題になります。
最悪のケースを考えると、最初から社会保険に加入するか、加入要件を下回る労働時間にするべきです。結局は、日頃から適正な処理をすることが賢明ということです。
会計検査院の調査
年金事務所の調査に会計検査院が加わる場合があります。会計検査院とは、行政機関を対象として会計に関する検査をする機関で、年金事務所(社会保険料を適正に徴収しているか)が検査の対象になります。
年金事務所単独の調査では手加減されることがあっても、会計検査院が加わると、法律に照らして厳格な処理が求められます。
(2003/3作成)
(2023/7更新)