ワークシェアリング

ワークシェアリングとは

失業対策の手段として、1980年代にヨーロッパ各国で導入されました。労働時間を短縮して、全体的な雇用者数を増やそうとする試みで、一定の成果が見られました。

日本においても、業績が悪化し、余剰人員が発生した企業で、雇用を維持する手段として、ワークシェアリングを導入するケースがあります。ワークシェアリングという言葉を使用しないで、部分的に休業するケースもあります。

企業のメリット

  1. 労働時間を短縮して、それに応じた賃金に減額できれば、人件費を削減できます。また、時間外労働や休日労働をする機会が減少しますので、割増賃金を削減できます。
  2. 従業員を温存できますので、業績が回復したときは、労働時間を元に戻して柔軟に対応できます。新規採用をする手間や費用が掛かりません。

企業のデメリット

  1. 賃金を設定し直したり、業務の配分を見直したり、手間が掛かります。
  2. 例えば、労働時間を2割短縮したとしても、通勤手当など減額しにくい手当がありますので、削減できる人件費の総額は2割以内に収まります。
  3. 賃金の減額を受け入れられない従業員が退職する恐れがあります。
  4. 同じ業務を複数の従業員で分担する場合は、責任の所在が曖昧になる恐れがあります。
  5. また、担当者間で引継ぎをする必要がありますので、生産性が低下する恐れがあります。

従業員のメリット

  1. 雇用が維持されます。会社が整理解雇をすると、残された従業員は「次は自分が解雇されるのではないか?」と不安になりますが、ワークシェアリングで対応すれば、従業員は安心できます。
  2. プライベートの時間が増えますので、ワークライフバランスを実現できます。
  3. 他社で兼業できます。会社の機密が漏洩したり、会社の信用が失墜したり、業務に支障が生じる恐れがなければ、会社は兼業を認めないといけません。

従業員のデメリット

  1. 労働時間の短縮に伴って、賃金が減額されます。
  2. ワークシェアリングの対象外になる部署があると、不満が生じる恐れがあります。

従業員の理解

ワークシェアリングを導入して、所定労働時間を短縮したり、賃金を減額したり、労働条件を変更する場合は、従業員から同意を得る必要があります。

そのためには、残業の禁止、外注の見直し、配置の調整、賞与の減額・停止、新規採用の停止、役員報酬の減額、管理職の賃下げ等、できることを事前に実施していないと理解は得られません。また、説明会を開催して、会社の現状、将来の見通しや打開策を明らかにすることも大事です。

一方、1日の所定労働時間や所定休日は変更しないで、休業で対応する方法もあります。この場合は、適正に休業手当(平均賃金の6割以上)を支払っていれば、従業員から同意を得る必要はありません。しかし、会社が一方的に休業させると、従業員は会社に対して不信感を持ったり、「会社は大丈夫なのか?」と不安を感じたりしますので、同意を得る場合と同様に、事前にできることを実施して、説明会を開催することが望ましいです。

労使協定の締結

ワークシェアリングを導入する際は、次の事項について、会社と従業員の代表者との間で十分に協議をして決定します。

合意に至った場合は、労使協定を締結して文書化しておくことが望ましいです。

社会保険の取扱い

雇用保険については、1週間の所定労働時間が20時間以上の者は加入義務があります。1週間の所定労働時間を20時間未満に変更する場合は、雇用保険の資格喪失の届出をする必要があります。

社会保険(厚生年金保険と健康保険)については、1週間の所定労働時間及び1ヶ月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上の者は加入義務があります。1週40時間で勤務する従業員が他にいて、1週間の所定労働時間を30時間未満に変更する場合は、社会保険の資格喪失の届出をする必要があります。

また、所定労働時間の短縮に伴い、基本給を減額して、3ヶ月を平均した標準報酬月額が2等級以上変動したときは、月額変更届を提出して、社会保険料が減額されます。ただし、3ヶ月とも賃金支払基礎日数が17日以上であることが条件になっています。

一方、部分的に休業をして、実際の労働時間が1週20時間未満や1週30時間未満になったとしても、所定労働時間を変更しない場合は、資格喪失の届出は不要です。しかし、その状態が長期間に及ぶ場合は、資格を喪失するよう指導されることがあります。

就業規則の変更

1日の所定労働時間(始業時刻・終業時刻)や所定休日を変更する場合は、就業規則を変更する必要があります。一方、1日の所定労働時間や所定休日は変更しないで、休業で対応する場合は、就業規則を変更する必要はありません。休業手当の支払いなど、休業に関する規定を適用することになります。

助成金

労働時間を短縮して受給できる助成金として、雇用調整助成金があります。雇用調整助成金は、会社が支払った休業手当を基準にして支給されます。所定労働時間を短縮して賃金を減額する場合は、会社は休業手当を支払いませんので、雇用調整助成金の支給対象外になります。

雇用調整助成金を受給する場合は、1日の所定労働時間や所定休日は変更しないで、休業する方法でないといけません。丸1日の休業も、1日数時間の休業も、休業手当を支払っていれば、どちらも雇用調整助成金の支給対象になります。

なお、助成金の内容は頻繁に変更されますので、その都度、担当する役所に確認するようにしてください。

(2023/4作成)