労災上乗せ保険(労働災害総合保険)

会社の補償責任

従業員が業務上でケガや病気をしたときは、会社が治療費を負担したり、災害補償を行うことが、労働基準法で義務付けられています。

ただし、業務上のケガや病気については、労災保険から災害補償が行われますので、通常は、会社が直接従業員に治療費を支払ったり、災害補償を行うことはありません。

しかし、近年は、会社に安全配慮義務違反があったとして、被災者や遺族が会社に損害賠償を請求してくるケースが増えていて、損害賠償額が数千万円に及ぶケースもあります。

なお、厚生労働省が取りまとめた「労働災害発生状況」によると、平成25年の労働災害による死亡者数は1,030人、死傷者数(死亡、休業4日以上)は118,157人に及んでいます。

安全配慮義務とは

会社は、従業員の生命や身体等の安全を確保して、必要な配慮をする義務があります。これを安全配慮義務と言い、平成20年に施行された労働契約法でも明文化されました。

そして、会社が安全配慮義務を怠って、従業員が被災した場合は、会社に損害賠償責任が生じます。

例えば、ビルの工事現場で、2階床の開口部から従業員が転落死したケースでは、開口部に手すりや囲い等の転落防止設備を設ける義務があったにもかかわらず、会社がこれを怠ったために事故が発生したものとして、会社に損害賠償の支払いを命じるという裁判例がありました。

労災上乗せ保険

労災保険では、死亡の場合でも1000万円程度の補償しかありません。このため、会社が安全配慮義務を怠っていたような場合は、会社の責任が問われて、遺族から損害賠償を請求されることが十分に考えられます。

会社が安全管理に努めることは当然ですが、万一の事故に備えて、労災保険とは別の保険(労災上乗せ保険)に加入することも検討するべきでしょう。

労災保険の上乗せとして利用されている保険を紹介します。

労働災害総合保険

労働災害総合保険は、労災保険が適用される場合にだけ給付が行われる保険で、文字どおり労災上乗せ保険です。この労働災害総合保険は、ほとんどの損害保険会社で取り扱っていています。

補償は、次の場合に行われます。

  1. 死亡した場合
  2. 後遺障害(1級〜14級)を負った場合
  3. 休業した場合(休業して4日目以降の賃金の支払いを受けない期間で、1,092日分が限度)

主な特徴は次のとおりです。

無記名方式

保険には記名方式と無記名方式がありますが、労働災害総合保険は無記名式で、人数を記入するだけです。正社員だけではなく、1日だけ勤務するアルバイトのような従業員にも適用されます。

保険料が割安

労働災害総合保険は、労災保険が適用される場合(業務上のケガや病気)に限って給付が行われるため、一般的な傷害保険と比べて、保険料が安い割に大きな補償を受けられます。

業種によって異なりますが、保険料は1人当たり1ヶ月1,000円が目安になります。高いと思われる場合は、通勤災害の部分をなくしたり、休業補償の部分をなくすこともできます。

通勤災害が起きたときは労災保険が適用されますが、通勤災害については、(会社は通勤災害を防ぐことができないため)会社に損害賠償責任が生じることはありません。

死亡時に約2000万円が支払われるよう設定して保険に加入すれば、労災保険の給付と併せて約3000万円を確保できるようになります。これぐらい用意できれば、損害賠償を請求されたとしても、(過労死等で100%会社に落ち度があるような場合を除いて)十分に対応できると思います。

なお、補償には「定額方式」と「定率方式」があります。定額方式は「死亡時に2000万円」、定率方式は「死亡時に平均賃金の2000日分」というものです。定額方式では、賃金の低いパートタイマー等が多くなると保険料が高くなりますので、パートタイマー等が多い場合は定率方式の方が良いでしょう。

その他の傷害保険や生命保険

万一の事故が起きたときのリスクマネジメントとして、労働災害総合保険以外に、傷害保険や生命保険があります。

業務外のケガや病気でも給付が受けられる保険は、どうしても保険料の割に補償が小さくなりますので、労災保険の上乗せ保険としては向いていないように思います。

普通の保険代理店は、保険料が高くて手数料を多く取れるこのような保険を勧めてくると思いますが、個人的には、会社の損害賠償責任を考えると、労働災害総合保険が最も優れていると思います。

労災認定と会社の責任

労働基準監督署が労災認定をすると、業務に起因して発生した災害であると認められたことになり、会社にも損害賠償責任が生じる可能性があります。

一方、労災認定がされなければ、業務に関係なく発生したものとして、会社に損害賠償責任が生じる可能性はありません。

福利厚生として、業務外でも補償が行われる傷害保険や生命保険に加入するのも良いかもしれませんが、それは、会社の損害賠償責任を確保した後に考えることと思います。

事故の未然防止

当然、労災上乗せ保険に加入しているから、安全管理を怠っても良いという訳にはいきません。過労死等で100%会社に落ち度があるような場合に、1億円を超える損害賠償を命じた裁判例もあります。

小さい事故が繰り返し起きたりして、事故が起きることが予測される場合は、必ず、なんらかの対処をして下さい。また、体調が悪そうな社員がいて、そのまま勤務すると悪化するであろうと予測される場合は、強制的に休ませて下さい。

そのような状態を放置していると、会社の責任がより重いと判断されてしまいます。

(2014/7作成)