病気を理由とする解雇

病気を理由とする解雇

従業員がうつ病等の精神疾患を発症して長期間欠勤することになって、対応に困っているという相談が増えています。

従業員にとっては、職場に復帰することが治療等の支えになることがありますので、できれば解雇は猶予することが望ましいです。また、私傷病を理由に解雇をすると、周りの従業員が「明日は我が身」と思って、離職率が高まる恐れがあります。

一方、従業員が私傷病で出勤できなくなったときに、短期間であれば他の従業員が協力してフォローできたとしても、長期間になると、過重労働を強いることはできませんので、特に零細企業では雇用し続けることが困難です。

法律的に問題がなければ、解雇もやむを得ないと思います。

労働基準法の解雇制限

うつ病に限らず、私傷病が原因で業務に耐えられないときは、正当な解雇理由と認められますが、業務上の傷病を理由とする解雇は認められません。

業務が原因でうつ病を発症したり、以前にうつ病を発症していた所に業務が原因で症状が悪化して、休業することになった場合は、業務上の傷病として、休業期間及び復帰後30日間は、労働基準法によって解雇が禁止されています。工場で重傷を負った従業員と同様に、保護の対象になります。

ただし、治療を開始して3年が経過しても治癒しないときに、会社が平均賃金の1200日分の打切補償を支払った場合、又は、本人が労災保険の傷病補償年金を受給している場合は、解雇の禁止が解除されます。

精神障害の労災認定

業務上の傷病については、会社に責任がありますので、会社が療養補償や休業補償等を行わないといけません。しかし、それらの補償については、労災保険から支給されますので、会社が直接補償(負担)をすることはありません。

うつ病等の精神疾患については、「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」が定められています。長時間労働、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、嫌がらせ、達成困難なノルマ、ペナルティ等があって、認定基準を満たしている場合は、業務災害として労災保険から給付を受けられます。

健康保険の傷病手当金

労災認定基準を満たさない場合は、私傷病として健康保険を利用することになります。

私傷病の療養のために、4日以上休業して、無給の場合は、健康保険から賃金の約3分の2の傷病手当金が支給されます。傷病手当金は、最長で通算して1年6ヶ月まで受給できます。

また、要件(①1年以上健康保険に加入していること、②傷病手当金の支給要件を満たしていて、退職日が支給対象になっていること)を満たしている場合は、退職後も継続して受給できます。

休職制度の適用

就業規則で休職制度を定めている場合は、就業規則に基づいて対応します。思い違いが生じないように、休職制度を適用する前に、休職期間の開始日及び満了日、休職期間の取扱い、復職の手続き等について、就業規則を示したり、書面等で確認をすることが重要です。

そして、休職期間が満了しても復職できなければ、自動的に退職の処理をすることになります。

なお、休職制度は私傷病が対象で、業務上の傷病は対象外です。仮に、業務上の傷病で自動的に退職が認められると、労働基準法の解雇制限の規定が無意味なものになってしまいます。

解雇の注意点

就業規則に休職制度を定めていない会社で、雇用の継続が困難な場合は、解雇又は退職勧奨が考えられます。解雇をする場合は不当解雇と主張される恐れがありますので、次の事項に注意をして、慎重に進めないといけません。

退職勧奨

万一、解雇をした2年後に、裁判所が解雇は無効と判断したとすると、会社は2年分の賃金をさかのぼって支払った上に、職場に復帰させる必要があります。

会社から退職勧奨をして、本人が退職届を提出すれば、会社から虚偽の説明をしたり、強要したりしない限り、退職が有効に成立しますので、解雇のリスクを回避できます。退職ですので、解雇予告の手続きも不要です。

ただし、本人にメリットがなければ、応じることは考えにくいので、通常は数ヶ月分の賃金を支払うことを条件にして、退職勧奨を行います。

会社から退職勧奨をすると、従業員は「見捨てられた」と受け取って、精神的なダメージを与えてしまうことがあります。

「職場に戻らなければならない」とプレッシャーになっているのであれば、治療に専念するために、退職することも選択肢の1つではないか?プレッシャーではなく、支えになっているのであれば、しばらくは退職しなくて良いと、気を付けながら説明をすることが望ましいです。

安全配慮義務・健康配慮義務

会社には、従業員の安全と健康に配慮する義務がありますので、従業員が遅刻や欠勤を繰り返したり、落ち込んだり、うつ病の兆候に気付いたときは、医療機関で受診するよう促すことが求められます。異状が明らかで業務に支障が生じている場合は、業務命令として受診を強制することも可能です。

ストレスチェックを実施している企業では、高ストレスと評価されて、面接指導を受ける必要があると判定された従業員に対して、医師による面接指導を申し出るよう促すことも考えられます。

また、うつ病は敏感な個人情報ですので、本人が罹患の事実を会社に申告しないことも想定して、会社は積極的に業務の軽減や配置転換等の配慮をすることが求められます。

もし、会社が従業員の体調不良を把握していたにもかかわらず、放置して症状が悪化すると、業務が原因で発症したと主張されます。そうなると、解雇や休職期間満了による退職が不可能になります。

(2025/10作成)