精神障害の労災認定

精神障害の労災認定の件数

厚生労働省から、平成27年度の「精神障害の労災補償状況」が公表されました。

これによると、精神障害に関して労災補償を請求した件数は、1,515件で年々増加しています。

また、労災認定をした認定率は、36.1%となりました。認定率は、毎年35%前後で推移しています。

精神障害の労災認定の基準

精神障害については、業務による強いストレス(心理的負荷)が原因で発病したのかどうかという判断が難しく、審査に長い時間を要していました。

このような状況を改善するために、平成23年に「心理的負荷による精神障害の認定基準」を定めて、迅速化や効率化を図って、6ヶ月以内の決定を目指すことになっています。この「認定基準」の概要をお伝えします。

精神障害の労災認定の要件

労災認定を受けるためには、次の3つの要件を全て満たしている必要があります。

  1. 対象となる精神障害を発病していること
  2. 発病前の6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  3. 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

特別な出来事がある場合

まず、次のような「特別な出来事」が認められる場合は、心理的負荷の総合評価を「強」として、認定要件の2.を満たします。

  1. 生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをした。
  2. 業務に関連し、他人を死亡させ、又は生死にかかわる重大なケガを負わせた。
  3. 強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた。
  4. 発病直前の1ヶ月に160時間を超えるような、又はこれに満たない期間にこれと同程度の時間外労働を行った。
  5. その他、上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められる。

特別な出来事がない場合

上のような「特別な出来事」がない場合は、業務による出来事が、認定基準で定められた「具体的出来事」のどれに当てはまるか判断します。

認定基準では、どのような場合に心理的負荷があるのか、「具体的出来事」と、それぞれの「心理的負荷の強度」が例示されています。そして、個々の事案ごとに、程度や困難性等を考慮して、心理的負荷の強度を「強」「中」「弱」で評価します。

また、複数の出来事が関連して生じた場合は、全体を1つの出来事として評価します。複数の出来事が関連しないで生じた場合は、次のように、出来事の数、それぞれの出来事の内容、時間的な近接の程度を考慮して全体の評価をします。

心理的負荷の強度が「強」と評価される場合は、認定要件の2.を満たします。

労災認定をした出来事

平成27年度の「精神障害の労災補償状況」によると、労災認定をした出来事は、次の順で多くなっています(「特別な出来事」は除きます)。

  1. 仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった「中」
  2. (ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた「強」
  3. 悲惨な事故や災害の体験、目撃をした「中」
  4. 1ヶ月に80時間以上の時間外労働を行った「中」
  5. (重度の)病気やケガをした「強」
  6. 2週間以上に渡って連続勤務を行った「中」
  7. セクシュアルハラスメントを受けた「中」
  8. 上司とのトラブルがあった「中」

長時間労働がある場合

長時間労働がある場合も、発病の原因となり得ることから、次のように例示されています。なお、ここで言う「時間外労働」とは、1週40時間を超える労働のことを言います。

  1. 発病直前の1ヶ月に、160時間以上の時間外労働を行った場合は「強」
  2. 発病直前の3週間に、120時間以上の時間外労働を行った場合は「強」
  3. 発病直前の2ヶ月に、連続して月120時間以上の時間外労働を行った場合は「強」
  4. 発病直前の3ヶ月に、連続して月100時間以上の時間外労働を行った場合は「強」
  5. 1ヶ月に80時間以上の時間外労働を行った場合は「中」

1.から4.までは「強」ですので、これだけで労災認定される可能性が高いです。5.の場合でも、他に「中」と評価される出来事があると、全体の評価としては「強」と判断され、労災認定される可能性が高まります。

例えば、「新規事業の担当になった」場合の心理的負荷の強度は「中」ですので、これに1ヶ月80時間以上の時間外労働を伴ったときは、全体の評価が「強」と判断される可能性が高いです。

業務以外の心理的負荷

次のような出来事があったときは、業務以外による心理的負荷が原因で発病したと判断されることがあります。認定要件の3.に影響します。

個体側要因

また、精神障害の既往歴があったり、アルコール依存症であったりする場合は、個体側の要因で発病したと判断されることがあります。これも、認定要件の3.に影響します。

会社の対応

労災認定されたということは、業務に起因して発病したということです。そして、会社に落ち度がある場合は、安全配慮義務違反として、社員や遺族から損害賠償を請求される恐れがあります。また、労働基準法による解雇制限がありますので、休業している期間は解雇ができません。

そのため、労災の申請に協力しなかったり、妨害したりする経営者も中にはいるようです。しかし、そのときに、会社がどのように対応するのか、他の社員が注目しています。もし、会社が社員を見捨てるような対応をすると、信用の低下、モチベーションの低下は避けられません。会社が労災の申請に協力することは、やむを得ないと思います。

長時間労働を抑制したり、パワハラやセクハラが起きないよう教育したりして、精神障害を発病する社員を出さないことが一番の対策です。認定基準では、「具体的出来事」ごとに、心理的負荷の強度が「強」「中」「弱」で示されていますので、これを確認しながら業務量や業務内容を調整してはいかがでしょうか。

(2016/9作成)