臨時の健康診断
長時間労働によるリスク
長時間労働は、過労死などの脳・心臓疾患を発症させる原因の1つと考えられています。
具体的には、時間外労働が月45時間を超えると健康に悪影響が出始めて、時間外労働が1ヶ月で100時間を超えるか、2〜6ヶ月の平均で月80時間を超えると、健康障害のリスクが高まると考えられています。
「2〜6ヶ月の平均」というのは、過去2ヶ月、過去3ヶ月、過去4ヶ月、過去5ヶ月、過去6ヶ月のいずれかの平均が、月80時間を超えるという意味です。
労災認定においても、時間外労働が1ヶ月100時間、2〜6ヶ月の平均で月80時間が基準とされていて、これを超える場合は、業務と脳・心臓疾患(過労死など)の発症との関連性が強いと判断されます。
そして、業務が原因で脳・心臓疾患を発症したということは、会社に責任があるということで、会社は損害賠償を請求されることになります。
また、長時間労働が続くと、睡眠時間の確保が難しくなります。睡眠時間とメンタルヘルスは密接な関係があり、長時間労働は、うつ病等のメンタルヘルスの不調を引き起こす原因にもなります。
労働安全衛生法
労働安全衛生法により、脳・心臓疾患の発症を予防するために、長時間労働により疲労が蓄積した社員に対して、会社は医師による面接指導を実施することが義務付けられています。
面接指導の対象となる社員
医師による面接指導は、時間外労働が1ヶ月で100時間を超えていて、疲労の蓄積が認められる社員が対象になります。
疲労の蓄積が認められるかどうかは、本人の申出によります。したがって、社員から申出があったときは、会社は医師による面接指導を実施しないといけません。
なお、この申出は、時間外労働の時間の算定が行われてから、概ね1ヶ月以内に行うこととされています。
また、時間外労働が1ヶ月で80時間を超えていて、疲労の蓄積が認められる社員、又は、健康上の不安を有している社員については、面接指導や面接指導に準ずる措置を講じるよう努めることとされています。こちらも、本人の申出によります。
更に、会社で一定の基準(時間外労働が1ヶ月で80時間など)を定めることができ、この基準に該当した者には、本人の申出がなくても、面接指導や面接指導に準ずる措置を講じることができるようになります。
なお、面接指導に準ずる措置として、
- 社員に対して保健師等による保健指導を行うこと
- チェックリストを用いて疲労蓄積度を把握し、必要な者に対して面接指導を行うこと
- 会社の健康管理について、会社が産業医等から助言指導を受けること
が例示されています。
時間外労働の時間の算定方法
時間外労働は週40時間(法定労働時間)を基準として、これを超えた時間をカウントします。時間外労働の時間の計算方法は、次のとおりです。
- 「時間外労働の時間」=1ヶ月の総労働時間−(1ヶ月の暦日数/7)×40
- 「1ヶ月の総労働時間」=所定労働時間+時間外労働時間+休日労働時間
- 「1ヶ月の暦日数」=賃金計算期間の1ヶ月の暦日数
所定労働時間が週40時間未満の会社もありますので、一般的に言われている残業時間(所定外労働の時間)とは少し異なります。
面接指導の流れ
長時間労働者に対する面接指導は、次の手順で行います。
- 時間外労働の時間の算定
- 社員の申出
- 医師による面接指導の実施
- 医師からの意見聴取
- 面接指導の結果の記録
- 事後措置の実施
医師による面接指導の実施
社員から申出があったときは、会社は概ね1ヶ月以内に、医師による面接指導を実施しないといけません。
産業医の選任義務がある会社は、産業医が会社の作業環境等を把握していると思いますので、産業医に依頼してください。会社が指定する医師とは別に、本人が希望する医師(主治医など)がいる場合は、その医師でも構いません。
そして、面接指導を依頼する際は、定期健康診断の結果や時間外労働の時間、深夜労働の回数と時間、作業環境、勤務状況等の情報を併せて提供すると良いでしょう。より的確な指導が期待できます。
医師は問診等をして社員の心身の状況を把握し、面接により必要な指導が行われます。
地域産業保健センター
社員数が50人未満の会社は産業医を選任する義務がありませんので、十分な健康管理体制を整えることは困難です。
このため、各都道府県に「地域産業保健センター」が設置され、無料で保健サービスを受けることができます。医師による面接指導も行っています(医師を紹介してもらえます)ので、ぜひ活用してください。
医師からの意見聴取
会社は、面接指導を実施した社員の健康を保持するための必要な措置について、医師から意見を聴かないといけません。この意見聴取は、面接指導の結果報告を受ける際に一緒に行うと良いでしょう。
面接指導の結果の記録
面接指導を行った医師から受けた結果報告は、5年間保存しないといけません。
また、社員が希望する医師(主治医など)の面接指導を受けた場合は、面接指導の結果を証明する書類を提出してもらう必要があります。
事後措置の実施
会社は医師の意見に基づいて、適切な事後措置を実施しないといけません。例えば、労働時間の短縮や深夜労働の回数の減少、就業場所の変更、配置転換等があります。
(2016/3作成)