在宅勤務と労災認定

在宅勤務と労災保険法

新型コロナウイルスの感染防止対策として、在宅勤務(テレワーク)を導入する企業が増加しています。

自宅でケガをした場合は健康保険を適用するものと思い込んでいる人が多いですが、在宅勤務(テレワーク)をしている場合は、出張や外回り営業など事業場外で勤務している場合と同様に、労災保険法(労働者災害補償保険法)が適用されます。

ケガをしたり、病気になったりして、それが労働災害と認められれば、従業員は無料で治療を受けられたり、休業したときは休業補償が支給されたり、労災保険の給付を受けることができます。

労働災害の認定(労災認定)

労働災害には、業務災害と通勤災害があります。業務災害と認められるためには、@「業務遂行性」とA「業務起因性」という2つの要件を満たしている必要があります。在宅勤務中のケガや病気についても同じです。最終的には、労働基準監督署が労災認定の可否を判定します。

@「業務遂行性」とは、労働契約に基づいて、会社の指揮命令下にあることを言います。会社の指示を受けて仕事をしている時間は、上司の目が届かない場所にいたとしても、会社の指揮命令下にあると認めらます。しかし、テレビを見たり、家事をしたり、仕事から離れている時間は、会社の指揮命令下にありませんので、業務遂行性は否定されます。

A「業務起因性」とは、業務と傷病に因果関係があることを言います。仕事が原因でケガをした(病気になった)ことが明らかな場合は、因果関係が認められます。しかし、勤務時間中であったとしても、個人的な恨みで暴行を受けたり、故意に事故を起こしたり、仕事を逸脱したりして、ケガをした場合は、業務とケガに因果関係がありませんので、業務起因性は否定されます。

労災認定のパターン

労働災害(業務災害)の判定をする際は、ケガをした(病気になった)場所と時間の組合せで、次の3つのパターンに分類されます。なお、業務遂行性と業務起因性を考慮することは変わりません。

  1. 会社内で、勤務時間中の事故
    個人的な恨みで暴行を受ける等、特別な事情がない限り、業務災害と認められます。
  2. 会社内で、勤務時間外の事故
    休憩時間中、始業時刻前、終業時刻後は、会社の指揮命令下にありませんが、会社内を移動中に滑ったり、つまずいたりしてケガをした場合は、会社に管理責任がある施設に不備があったと考えられますので、業務災害と認められます。しかし、例えば、休憩時間中にキャッチボールをしていてケガをした場合は、施設の不備が原因とは考えにくいので、業務災害とは認められません。
  3. 会社外で、勤務時間中の事故
    私的な行為を原因とするケガや病気については、業務災害とは認められません。在宅勤務をしていてケガをした場合は、これに該当します。

なお、会社外で、勤務時間外の事故については、業務災害が認められるケースは考えにくいです。例えば、休憩時間に昼ご飯を食べに外出して、その往復でケガをした場合です。会社の管理責任が問われることはありませんので、業務災害とは認められません。

在宅勤務の労災認定

在宅勤務をしている場合の事故については、例えば、次のようなケースが考えられます。

労災認定の注意点

会社内での事故と比べて、自宅での事故は勤務時間と私的な時間の区別が曖昧になりやすい上に、その事故を客観的に見ていた者がいないケースが多いので、具体的に何をしていたのか等、労働基準監督署から詳細な説明を求められることがあります。

例えば、深夜にケガをした場合は、会社の指揮命令下にあったのか(本当に仕事をしていたのか、飲酒をしていなかったか)と疑われるかもしれません。毎日の始業時刻と終業時刻、休憩時間を決めて、勤務時間と私的な時間を明確に区別できれば、勤務時間としていた時間帯は仕事をしていたと説明しやすくなります。

また、自宅で勤務することを前提としていた場合に、カフェ等の外出先でケガをしたときは、会社の指揮命令下にあったのかと疑われる恐れがあります。原則は自宅で勤務することとして、仕事で外出するときは、事前に上司に場所や時間を報告することを義務付けておいて、そのルールに従っていれば、外出先でも指揮命令下にあったと説明しやすくなります。

精神疾患

在宅勤務をしていて、うつ病等の精神疾患を発症するケースがあります。この場合も、業務遂行性と業務起因性を考慮して、個別のケースごとに労働基準監督署が労災認定の可否を判定します。

1人で仕事をしていると労働時間の管理が疎かになりやすいです。定期的な報告を求めて、長時間労働にならないよう注意してください。また、休日労働と深夜労働は原則禁止として、上司が許可した場合に限って可能とするべきです。

作業環境の整備

在宅勤務をする場合は、パソコンのディスプレイを見ながら仕事をするケースが大半です。病院等で治療を受ける程度まで悪化しなくても、目の疲れ、肩コリ、腰痛などの疲労を感じやすいので、連続して1時間作業をしたときは10分の休憩をする等、作業環境の指導をすることが望ましいです。

具体的には、厚生労働省から「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」が公表されていますので、参考にすると良いでしょう。

労災隠し

在宅勤務をしている場合でも、私的な行為が原因でケガをしたのであれば、健康保険が適用されます。しかし、業務災害に該当するケースであるにもかかわらず、健康保険で治療を受けると、“労災隠し”に該当してしまいます。“労災隠し”は法律違反で、労働基準監督署では司法処分を含めて厳しく対処することになっています。

健康保険と労災保険の違いを前もって説明したり、ケガをしたときは会社に報告を義務付けたり、間違って受診しないよう注意をする必要があります。

(2023/2作成)