労働時間の適正把握ガイドライン

長時間労働の削減に向けた取り組み

長時間労働が社会的な問題になっています。長時間労働の削減に向けた取り組みとして、厚生労働大臣を本部長として「長時間労働削減推進本部」が設置され、「過労死等ゼロ緊急対策」が公表されました。

その一環として、「労働時間の適正な把握のために会社が講ずべき措置に関するガイドライン」が策定されました。

長時間労働を削減して過労死等を防止するためには、労働時間を適正に把握することが取り組みの第一歩になります。

特に、自己申告制で労働時間を把握している場合は曖昧になりやすいので詳細に定められています。

また、会社が労働基準監督署の調査を受ける際は、このガイドラインに基づいて指導や勧告が行われることになるでしょう。ガイドラインの概要をお伝えいたします。

労働時間の考え方

ガイドラインでは、最初に、労働基準法の規定により、会社には従業員の労働時間を適正に把握する責務があることが示されています。

また、労働時間とは、会社の指揮命令下に置かれている時間のことを言い、会社の明示又は黙示の指示により、従業員が業務に従事する時間は労働時間に当たるとされています。

そのため、次のような時間は労働時間に該当することが例示されています。

  1. 会社の指示により、業務に必要な準備(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の後始末(清掃等)を行った時間
  2. 会社の指示があった場合は直ぐに業務に戻ることを求められ、待機していた時間(いわゆる「手待時間」)
  3. 会社の指示により、研修を受講した時間や業務に必要な学習を行った時間

これら以外の時間についても、会社の指揮命令下に置かれていた時間については、労働時間として取り扱わないといけません。

業務に必要な研修や教育訓練等については、所定労働時間内に行うことが望ましいです。

会社の黙示の指示というのは、次のようなケースが考えられます。

  1. 残業していることを所属長が知りながら黙認している場合
  2. 指示をした業務量が、残業をしなければ処理できないことが明らかな場合
  3. 残業をしなければ納期に間に合わないことが明らかな場合

会社(所属長)が残業の指示をしていないとしても、このような場合は黙示の指示があったものとして、残業時間(労働時間)として取り扱われます。「従業員が勝手に残業をしたので残業手当は支払わない」という主張は認められません。

労働時間の適正把握措置

労働時間を適正に把握するために、会社が実施しなければならない措置として、以下の内容が定められています。

始業時刻と終業時刻の確認と記録

会社は、労働時間を適正に把握するために、従業員の労働日ごとの始業時刻と終業時刻を確認して、記録する必要があります。

確認と記録の原則的な方法

会社が始業時刻と終業時刻を確認して、記録する方法としては、原則として、次のどちらかの方法で行うこととされています。

  1. 会社(労働時間の管理を行う者)が直接、始業時刻と終業時刻を確認して、記録する
  2. タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録といった客観的な記録を基礎として確認し、記録する

また、2.を基本情報として、残業申請書や報告書など、従業員の労働時間を算出するための記録がある場合は、これらと突き合わせて確認し、記録することになります。

自己申告制により確認と記録を行う場合

自己申告制により、始業時刻と終業時刻の確認と記録を行う方法は、例外的な方法と位置付けられていて、この場合、会社は次の措置を実施することとされています。

また、タイムカード等の客観的な記録を基礎として、自己申告制も併用している場合は、同様に実施する必要があります。

  1. 自己申告制の対象となる従業員に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うこと等について十分な説明を行うこと
  2. 労働時間を管理する者に対して、自己申告制を適正に運用し、会社が実施する措置(以下の3.〜5.等)について十分な説明を行うこと
  3. 自己申告により把握した労働時間と会社にいた時間(タイムカードやパソコンの使用時間の記録など)が合致しているか確認をして、乖離が生じている場合は実態調査をして、必要に応じて労働時間を補正すること
  4. 自己申告した労働時間を超えて会社にいる時間について、その理由等を従業員に報告させる場合は、その報告が適正に行われているか確認すること(休憩や自主的な研修、学習等で労働時間ではないと報告されていても、実際に会社の指揮命令下に置かれていた時間については、労働時間として扱わないといけません。)
  5. 自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設けて、上限を超える申告を認めない等、従業員の労働時間の適正な申告を阻害しないこと。また、時間外労働の削減命令や時間外労働手当の定額払い等の措置が、労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないか確認すること。更に、36協定により延長できる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、これを守っているよう見せ掛けるために過少に記録されていないか確認すること

自己申告制は、従業員が適正に申告することを前提として成り立つものです。

会社が従業員の適正な申告を認めないことは論外ですが、会社の様々な要請に応じて従業員が自主的に労働時間(残業時間)を過少に申告するケースがあります。そのようなことが行われていないか確認をすることが求められています。

もし、この確認を怠っていると長時間労働を見逃して、過労死等の発症に繋がる危険があります。

賃金台帳の調製

労働基準法により、会社は従業員ごとに賃金台帳を調製して、次の事項を記入しないといけません。

  1. 氏名
  2. 性別
  3. 賃金計算期間
  4. 労働日数
  5. 労働時間数
  6. 時間外労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数
  7. 基本給及び各手当の額
  8. 賃金から控除した額

労働時間の記録に関する書類の保存

会社は、労働者名簿や賃金台帳だけではなく、出勤簿やタイムカード、残業申請書といった労働時間の記録に関する書類も、労働基準法に基づいて、3年間は保存しないといけません。

(2019/3作成)