未払賃金立替払制度とは

未払賃金立替払制度とは

未払賃金立替払制度とは、会社が倒産をしたために、賃金や退職金が未払になっている社員に対して、賃金の一部を立替払する制度です。

会社が倒産したときは、賃金や退職金は優先的に支払われるのですが、税金や社会保険料など賃金や退職金より優先されるものがあります。

また、抵当権を設定していたりして、会社に資産がほとんど残っていないこともあります。

そうなると、賃金が支払われず、社員の生活に支障が生じてしまいます。このように未払い賃金が残っている社員を救済するために、「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づいて、国が会社に代わって未払い賃金を立替払する制度があります。

立替払の実施機関

この「未払賃金立替払制度」は、労災保険法による社会復帰促進等事業の1つとして行われ、立替払の費用は、労災保険の保険料により拠出されています。

また、この制度は独立行政法人労働者健康福祉機構が実施し、手続は会社の所在地を管轄する労働基準監督署で行うことになっています。

立替払を受けられる要件

次の要件を全て満たしている場合に、未払い賃金の立替払を受けることができます。

1.労災保険の適用事業として1年以上事業活動を行っていたこと

創業して直ぐに倒産した場合は対象になりません。個人事業でも構いません。

2.会社が倒産したこと

ここで言う「倒産」には、「法律上の倒産」と「事実上の倒産」があります。

「法律上の倒産」には、@破産手続の開始決定、A特別清算の開始命令、B再生手続の開始決定、C更生手続の開始決定、があります。

また、「事実上の倒産」については、労働基準監督署の認定を受けないといけません。認定を受けるためには、事業活動が停止して、再開する見込みがなく、賃金の支払能力がないことが条件になります。

この「事実上の倒産」については、企業規模の制限があり、中小企業だけが対象になります。中小企業とは、次のいずれかに該当する企業を言います。なお、「法律上の倒産」については、企業規模の制限はありません。

業種資本金の額社員数
卸売業1億円以下100人以下
サービス業5千万円以下100人以下
小売業5千万円以下50人以下
その他の業種3億円以下300人以下

3.定められた期間内に退職していること

法律上の倒産の場合は破産手続の申立て日等、事実上の倒産の場合は労働基準監督署への倒産認定の申請日を基準日として、この6ヶ月前から2年の間に退職した人が対象になります。

例えば、基準日となる破産手続の申立て日又は倒産認定の申請日が2016年2月10日とすると、2015年8月10日(6ヶ月前の日)から2017年8月9日(2年)の期間内に退職した人が対象になります。

そのため、事実上の倒産の場合は、退職してから6ヶ月以内に、労働基準監督署に倒産認定の申請をしないといけません。なお、役員は原則的には対象外です。

4.定められた期間内に立替払の請求をしていること

法律上の倒産の場合は破産手続の開始決定日等、事実上の倒産の場合は労働基準監督署の倒産の認定日の翌日から2年以内に、立替払の請求を行わないといけません。この期間を過ぎると立替払を受けることができません。

立替払の対象となる賃金

立替払の対象となる賃金は、退職日の6ヶ月前から立替払を請求した日の前日までの間に支払日が到来している賃金と退職金で、未払になっているものです。これ以前の未払い賃金は対象になりません。

定期的に支払われる賃金と退職金が対象で、割増賃金も立替払の対象になりますが、臨時に支払われるものは対象になりません。したがって、賞与や解雇予告手当、慶弔見舞金、出張旅費、遅延利息等は対象になりません。

立替払される金額

立替払される金額は、未払賃金の総額の8割です。税金や社会保険料が控除される前の金額が基準になります。ただし、元々賃金から控除されることが予定されていた貸付金の返済や社宅の費用等については控除されます。

また、未払賃金の総額及び立替払される金額には、退職日の年齢に応じて次のように上限額が設定されています。なお、未払賃金の総額が2万円未満の場合は、立替払は受けられません。

退職日の年齢未払賃金の上限額立替払の上限額
45歳以上370万円296万円
45歳未満30歳以上220万円176万円
30歳未満110万円88万円

立替払の請求手続

立替払の請求手続の概要は次のとおりです。

  1. 社員が、次のいずれかの手続を行います。
    • 法律上の倒産の場合は、未払い賃金等について、管財人等に申請をして、管財人等から証明書の交付を受けます。管財人等から証明を受けられなかった事項については、労働基準監督署に確認の申請を行います。
    • 事実上の倒産の場合は、労働基準監督署に倒産認定の申請をして、その後に未払い賃金等の確認の申請を行います。
  2. 独立行政法人労働者健康福祉機構に立替払の請求を行います。
  3. 請求人に未払い賃金が振り込まれます。

立替払された賃金(退職金を含む)は、適正に手続をすれば退職所得と認められます。

立替払の求償

立替払をしたときは、独立行政法人労働者健康福祉機構が、その賃金債権を代位取得して、会社に求償します。つまり、立替払が行われたとしても、あくまでも立替払ですので、会社の賃金の支払義務は免除されません。

未払賃金立替払制度は、経営者にとってはメリットがない制度かもしれません。しかし、社員にとっては有意義な制度です。と言っても、本来支払われるべき賃金が支払われるだけなのですが...

(2016/4作成)