早期退職優遇制度
早期退職優遇制度とは
早期退職優遇制度とは、定年年齢に達する前の従業員に対して、退職金の上乗せ等の優遇措置を提示して、早期の退職を奨励する制度です。導入しているのは大企業が多くて、2013年には早期退職募集制度として同様の制度が国家公務員にも適用されています。
優遇措置を設けて自主的な退職を促す制度として、希望退職制度があります。希望退職制度は、業績が悪化した企業が人件費を削減するために、整理解雇を実施する前に解雇を回避する措置として、募集期限や募集人数を定めて実施するケースが一般的です。
早期退職優遇制度は、組織の若返りを図ることを目的としたり、従業員の転職や起業を前向きに考えて、新しいキャリア形成を支援することを目的として導入されます。企業の業績は関係ありませんので、通年で(又は期間を区切って毎年)実施・募集しているケースが一般的です。
対象者の範囲
早期退職優遇制度を導入する場合は、検討しなければならない事項がいくつかあります。まずは、早期退職優遇制度を適用する対象者の範囲です。
- ○○部門の正社員
- 勤続年数が15年以上の者
- 年齢が50歳以上59歳未満の者
一般的な例を挙げましたが、決定するためには制度を導入する目的を明確にする必要があります。キャリア形成の支援を目的とするのであれば、これより範囲を拡げることになると思います。
退職金の上乗せ
退職する意思がなかった従業員が「退職しようかな?」と迷うぐらいの優遇措置を提示しないと、誰も応募しません。優遇措置として、退職金の上乗せが不可欠です。
定年年齢に近い者ほど退職金の割増率を低く設定する方法が一般的ですが、退職金の支給額の決定方法は様々で、元々退職金制度がない企業もありますので、退職金の割増率や割増額をどのように設定するかは難しい問題です。
退職金規程の計算方法とは切り離して、「基本給の1年分」としたり、「年齢、勤続年数、基本給」から割増額を設定したり、それぞれの企業において自由に決められます。思い切った退職金の上乗せが難しい場合は、他の優遇措置を手厚くすることも考えられます。
再就職の支援
上乗せされた退職金で当分の間は生活に支障が生じないとしても、再就職できるかどうか不安で、特に高年齢者は応募をためらうことが予想されます。
不安を緩和するために、再就職支援サービスを利用できるようにすれば、応募者数を増やせます。再就職支援企業と契約をすると、希望に沿った再就職先を紹介してもらえます。また、再就職を実現するために、カウンセリング、履歴書の添削、模擬面接等のサポートを受けられます。
特別休暇の付与
早期退職優遇制度に応募した従業員は、再就職先が決まるまで、再就職支援サービスを利用したり、採用面接を受けたりする必要があります。円滑に進められるように、一定期間の勤務を免除したり、年次有給休暇とは別に一定の日数を定めて有給の特別休暇を付与することがあります。
年次有給休暇の買取り
早期退職優遇制度に応募した従業員は、再就職先を探したり、業務の引継ぎをしたりして、年次有給休暇を使い切れないことがあります。
十分な退職金の上乗せが難しい場合は、退職時に未消化で残った年次有給休暇を買い取ることを定めた方が良いでしょう。買い取る場合の1日当たりの金額は、会社と従業員の合意によって自由に決められますが、退職日の間際になって合意に至らないと面倒ですので、前もって話し合って決めておくべきです。
なお、在籍中の年次有給休暇の買取りは、年次有給休暇の取得の抑制に繋がることから、労働基準法の趣旨に反すると考えられていますが、退職によって無効になる年次有給休暇の買取りは、そのような心配がありませんので、差し支えありません。
早期退職優遇制度の注意点
再就職先が決まらない、決まったとしても想定を超えて賃金が低下することがあります。従業員にとっては大きなリスクになります。
会社にとっては、退職に伴うリスクがあります。同時に多数の従業員が退職すると、業務に支障が生じます。また、経験や知識が豊富な従業員が退職すると、引継ぎを行ったとしても、生産性が低下する恐れがあります。
最初は対象者の範囲を狭くしたり、優遇措置を控え目にしたりして、様子を見ながら制度を改定していく方法が考えられます。また、毎年、閑散期の数ヶ月に限定して募集期間を設定する方法もあります。
急に早期退職優遇制度を実施すると、「経営状態が悪いのか?」「次は整理解雇か?」と従業員の不安を招く恐れがあります。制度を導入する際は、目的を明らかにして、説明会を開催することが望ましいです。
組織の若返りが実現できれば長期的には人件費を削減できますが、退職金の上乗せ等の優遇措置によって短期的には人件費が高騰します。
会社の承認
会社にとって欠かせない貴重な人材が退職する可能性があります。早期退職優遇制度の適用は会社の承認を条件として、制度を周知する際は、「応募しても承認しない場合があること」を明示することが重要です。また、実施する前に必要な人材と面談をして、応募しても会社は承認しないことを個別に説明しておいた方が良いでしょう。
会社の判断で早期退職優遇制度を適用しないことは可能ですが、退職の申出を拒否することはできません。その場合は、退職金の上乗せ等の優遇措置を放棄して退職することになります。
応募者との面談
制度の問い合わせや応募があった場合は、従業員と面談をして、対象者の条件を満たしているかどうか、早期退職優遇制度の適用を承認するかどうか、退職金の具体的な支給額や他の優遇措置について説明を行います。また、退職日をいつにするかは話合いによって決められます。予め具体的な退職日を設定したり、退職日の2ヶ月以上前に申し込むことを条件とする方法も可能です。
雇用保険の失業給付
退職した後に雇用保険の失業給付を受給する場合、恒常的に実施されている早期退職優遇制度を利用して退職した者は、「一般の離職者」(自己都合退職)として取り扱われますので、1ヶ月間の給付制限期間が設定されます。
人員整理の一環で実施された希望退職制度を利用して退職した者は、「特定理由離職者」として取り扱われますので、2ヶ月間の給付制限期間は設定されません。
(2025/5作成)