産業保健機能等の強化

産業保健機能等の強化

働き方改革関連法により、2019年4月1日から、「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されました。労働安全衛生法等に追加された内容をご案内いたします。

産業医とは

従業員の健康管理について、専門的な立場から指導や助言を行う医師のことを言います。労働安全衛生法によって、従業員数が50人以上の企業は、産業医を選任することが義務付けられています。

従業員数が50人未満の企業は産業医の選任義務がありませんので、以降に記載している産業医に関連する項目は義務付けられません。しかし、努力義務として定められている項目がありますし、従業員の健康管理は大事なことですので、医師を選任して実行することが望ましいです。

衛生委員会とは

従業員の健康管理について、労使が協力して効果的な対策を実施するために設置する委員会のことを言います。労働安全衛生法によって、従業員数が50人以上の企業は、衛生委員会を設置することが義務付けられています。衛生委員会は、総括安全衛生管理者、産業医、衛生管理者、衛生に関する経験がある従業員で構成されます。

産業医の権限の具体化

産業医が適切に職務を遂行するために、会社は産業医に対して、次の権限を与えることとされています。

  1. 会社又は総括安全衛生管理者に意見を述べること
  2. 従業員の健康管理を実施するために、必要な情報を従業員から収集すること
  3. 労働災害が発生する危険がある場合に、従業員に必要な措置をとるよう指示すること

産業医の辞任・解任の報告

会社は、産業医が辞任したとき又は産業医を解任したときは、遅滞なく、その旨及びその理由を衛生委員会に報告しないといけません。

産業医への情報提供

産業医が従業員の健康を確保するための活動を効果的にできるように、会社は産業医に対して、次の情報を提供しないといけません。

  1. 健康診断、面接指導、ストレスチェックを実施した後に講じた措置又は講じようとする措置の内容(措置を講じない場合はその旨及びその理由)
  2. 時間外労働と休日労働の合計時間が月80時間を超えた従業員の氏名及びその時間
  3. 産業医が従業員の健康管理を適切に行うために必要と認めるもの

2.に該当する従業員がいない場合は、該当者がいないという情報を産業医に提供する必要があります。

3.は、作業環境、労働時間、作業態様、作業負荷の状況、深夜業の回数や時間数など、従業員の業務に関する情報で、産業医が必要と認めるものです。あらかじめ産業医と相談して、確認することが望ましいです。

また、会社から産業医に提供する情報は記録・保存することが望ましいので、書面や電子メールで提供する方法が想定されています。事前に産業医と決めておく必要があります。

産業医による勧告

産業医が会社に勧告しようとするときは、その趣旨を理解し、有効に機能するように、勧告の内容について、事前に会社の意見を求めることになっています。会社が勧告を受けたときは、勧告の内容、実施した措置の内容(実施しなかった場合はその旨及びその理由)を記録し、3年間保存しないといけません。

また、産業医から勧告を受けたときは、会社は勧告の内容、実施した措置、実施しようとする措置の内容(実施しない場合はその旨及びその理由)を衛生委員会に報告しないといけません。

健康相談の体制の整備

会社は、産業医が従業員の健康相談に応じられる体制や環境を整備するよう努めることとされています。また、会社が産業医を選任したときは、次の事項を従業員に周知する必要があります。周知の方法は就業規則を周知する方法と同じで構いません。

心身の状態に関する情報の取扱い

従業員が不利益な取扱いを受けずに、安心して健康診断を受けられるようにするため、会社が従業員の心身の状態に関する情報を収集、保管、使用する場合は、従業員の健康確保に必要な範囲内で行わないといけません。

面接指導の対象者

長時間労働を行っていて健康リスクが高い状況にある従業員を対象にして、医師による面接指導を実施することが定められています。

面接指導の対象となる従業員は、時間外労働と休日労働の合計時間が月80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者で、本人の申出によって実施します。これ以降の項目は、産業医の選任義務がない会社にも適用されます。

労働時間の通知

時間外労働と休日労働の合計時間を算定し、月80時間を超えた従業員がいるときは、速やかに、書面や電子メール等によって、本人に通知しないといけません。なお、給与明細に時間外労働と休日労働の時間数を記載している場合は、これを通知としても差し支えありません。

なお、ここでいう「時間外労働」とは、所定労働時間を超えた時間ではなく、法定労働時間(1週40時間)を超えた時間です。また、「休日労働」とは、法定休日に労働した時間を指します。

この通知は、管理監督者、みなし労働時間制、裁量労働制の適用者も含めた全ての従業員が対象になります。ただし、新設された高度プロフェッショナル制度の適用者は除きます。

また、この通知は、面接指導の申出を促すためのものですので、面接指導の実施方法等の案内を併せて行うことが望ましいです。

労働時間の状況の把握

会社は、タイムカード、パソコンの使用時間の記録、管理者の現認などの客観的な方法により、従業員の出退勤の時刻や入退室の時刻を記録して、従業員の労働時間の状況を把握しないといけません。

労働時間の状況を客観的に把握する手段がない場合は、従業員の自己申告による方法も認められていますが、その場合は実際の労働時間を正しく記録するために、適切な措置を講じている必要があります。労働時間の記録は3年間保存する必要があります。

また、この把握は、労働時間を通知するための前段階として行うものですので、管理監督者、みなし労働時間制、裁量労働制の適用者も含めた全ての従業員が対象になります。ただし、高度プロフェッショナル制度の適用者は除きます。

(2021/3作成)