裁量労働制の概要
裁量労働制の概要
労働基準法は、元々は昔の工場労働者を保護するためにできた法律です。
このような人達は、労働時間が長ければそれに比例して成果も上がるという考えから、労働時間がベースになっています。
しかし、今は、成果が労働時間の長さに比例しない仕事が増えてきて、従来の労働基準法を適用することが適切でない場合があります。
このような背景から、「裁量労働制」という制度が、労働基準法で定められています。
裁量労働制とは
裁量労働制とは、仕事の具体的な進め方や時間配分を社員の裁量に委ねる制度で、労使協定等によって、みなし労働時間を定めます。
そして、みなし労働時間を例えば1日8時間としたときは、その日に10時間勤務したとしても、逆に4時間しか勤務しなかったとしても、8時間勤務したものとみなして処理します。
みなし労働時間を1日9時間とすると、毎日1時間分の残業手当の支払が必要ですが、みなし労働時間を1日8時間以内にすると、残業手当の支払が不要になります。
この裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」と、「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。
専門業務型裁量労働制を導入するための条件
専門業務型裁量労働制を導入できる業務
専門業務型裁量労働制を導入することができるのは、いわゆるクリエイティブな仕事で、厚生労働省令で定められた次の19業務に限定されています。
これらに該当しなければ、専門業務型裁量労働制は導入できません。
- 新製品、新技術の研究開発等の業務
- 情報処理システムの分析又は設計の業務
- 記事の取材又は編集の業務
- デザイナーの業務
- プロデューサー又はディレクターの業務
- コピーライターの業務
- システムコンサルタントの業務
- インテリアコーディネーターの業務
- ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
- 証券アナリストの業務
- 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
- 大学における教授研究の業務
- 公認会計士の業務
- 弁護士の業務
- 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
- 不動産鑑定士の業務
- 弁理士の業務
- 税理士の業務
- 中小企業診断士の業務
労使協定の締結と届出
専門業務型裁量労働制を導入するためには、次の事項について労使協定を締結することになっています。
- 裁量労働制の対象となる業務
- その業務を行うのに必要とされる時間(みなし労働時間)
- 業務の進め方及び時間配分の決定等に関し、具体的な指示をしない旨の記載
- 社員の健康と福祉を確保するための措置の具体的内容
- 社員からの苦情の処理に関する措置の具体的内容
- 協定の有効期間
- 4.と5.の記録は協定の有効期間及びその期間満了後5年間保存すること
また、この労使協定は労働基準監督署へ届け出ることが義務付けられていて、手続きに不備があった場合は実際の労働時間に基づいた残業手当の支払が求められます。
企画業務型裁量労働制を導入するための条件
企画業務型裁量労働制を導入できる業務
企画業務型裁量労働制を適用できるのは、企画・立案・調査及び分析の業務を行う社員員で、個々の社員の知識や経験によって適用できるかどうか判断されます。
対象となり得る業務の例として、厚生労働省の指針により、次の6業務が示されています。
- 経営企画担当部署
- 人事・労務担当部署
- 財務・経理担当部署
- 広報担当部署
- 営業企画担当部署
- 生産企画担当部署
ホワイトカラーであれば該当するというものではありません。結構限られています。
時間を掛けて準備をして認められないことも考えられますので、早い段階で、最寄の労働基準監督署に、具体的に業務内容等を説明して、確認するのが良いと思います。
労使委員会の決議
企画業務型裁量労働制を導入するためには、労使委員会を設置して次の事項について決議しないといけません。このとき、労使委員会の5分の4以上の賛成が必要とされます。
- 企画業務型裁量労働制の対象となる業務
- 企画業務型裁量労働制の対象となる社員の範囲
- その業務を行うのに必要とされる時間(みなし労働時間)
- 社員の健康と福祉を確保するための措置の具体的内容
- 対象となる社員からの苦情の処理に関する措置の具体的内容
- 裁量労働制を適用する際に本人の同意を得ること、同意しないとしても不利益な取扱いをしないこと
- 決議の有効期間(5年以内とすることが望ましいとされています)
- 4.5.6.の記録は決議の有効期間、その期間満了後5年間保存すること
また、この決議は労働基準監督署へ届け出ることが義務付けられていて、手続きに不備があった場合は実際の労働時間に基づいた残業手当の支払が求められます。
社員の同意
企画業務型裁量労働制を適用するためには、個々の社員の同意が必要とされます。
健康と福祉の確保措置
裁量労働制は過重労働の危険があることから、『労働者の健康と福祉を確保するための措置』を講じることが義務付けられています。
具体的な措置の内容としては、「上司や産業医による健康状態のヒアリング」、「健康診断の実施」、「代償休日又は特別休暇の付与」、「年次有給休暇の取得促進」等、があります。
苦情の処理措置
協定事項(決議事項)として定められている『苦情の処理に関する措置』としては、「人事部や労働組合への苦情処理窓口の設置」等、があります。
裁量労働制を採用するときの注意点
裁量労働制を採用するときの注意点は次のとおりです。
裁量労働制を採用しても、「深夜労働」「休日労働」「休憩」に関する規定の適用は除外されませんので、「深夜労働」「休日労働」を行ったときは、それぞれ割増賃金を支払わないといけません。したがって、深夜労働や休日労働を制限したいときは、上司の命令や承認を必要とする旨を労使協定等で定めておく必要があります。
時間配分を社員にゆだねる制度ですので、遅刻や早退があっても、賃金をカットすることはできません。業務に支障がある場合は、裁量労働制の適用を外すことになります。
裁量労働制は、仕事の具体的な進め方を社員にゆだねる制度ですので、上司は具体的な指示命令ができません。
社員に自律性がないと裁量労働制はうまく機能しません。下準備的にフレックスタイム制を導入して、どのような働き方になるのか見てみるのも1つの方法です。
仕事の具体的な進め方や時間配分について裁量があるだけですので、出勤日に休むことまで認める必要はありません。就業規則に基づいて、通常は欠勤扱いになります。
(2007/11作成)
(2014/5更新)