1年単位の変形労働時間制

1年単位の変形労働時間制とは

労働基準法では原則として、1日8時間又は1週40時間を超えたときは、超えた時間に対して残業手当を支払うことが義務付けられています。

1日8時間勤務で、1週間に6日勤務したとすると、1週48時間になります。

この場合は、残業しなかったとしても、40時間を超えた8時間分の残業手当を支払わないといけません。

そこで、1年単位の変形労働時間制を採用して、1年を平均して1週40時間以内に抑えることができれば、8時間を超える日や40時間を超える週があったとしても、残業手当の支払が合法的に免除されます。

1年単位の変形労働時間制がうまく合う会社

1年単位の変形労働時間制で最も大事なことは、忙しくない時期の所定労働時間をどれだけ減らせるかということです。減らした所定労働時間を忙しい時期に回すことによって、忙しい時期の残業手当の支払を抑えることができます。

したがって、忙しくない時期の所定労働時間を1週40時間未満に減らすことができなければ、1年単位の変形労働時間制を導入しても余り効果的とは言えません。

ただし、1月、5月、8月といった祝祭日の多い月の出勤日数(所定労働時間)を減らせる場合は、1年単位の変形労働時間制を導入することで、ある程度の効果は期待できます。

1年間の所定労働時間の設定

1年を平均して1週40時間以内になるよう所定労働時間を設定します。これを1年間の総労働時間に換算すると、2,085.7時間(=40時間÷7日×365日)になります。この範囲内で、1年間の出勤日数と所定労働時間を設定します。

したがって、1日の所定労働時間が8時間とすると、1年間の出勤日数は260日以内(=8時間×260日=2,080時間)であれば、2,085.7時間の範囲内に収まります。

そして、出勤日数である260日(又は休日の105日)をどの日に配分するか、年間カレンダーを見ながら検討します。

出勤日数をどうしても減らせない(休日を増やせない)場合は、1日の所定労働時間を短くするか、260日を超えた出勤日については残業手当を支払うことにするか、検討しないといけません。

また、例えば、特定の土曜日の出勤を交代制にすれば、出勤日数は抑えたままで、会社の営業日を増やすことができます。

なお、1日の所定労働時間を7時間45分とすると1年間の出勤日数は269日以内(休日96日以上)、1日の所定労働時間を7時間30分とすると1年間の出勤日数は278日以内(休日87日以上)となります。

また、閑散期の1日の所定労働時間を7時間30分、繁忙期の1日の所定労働時間を8時間とするといった方法もあります。1年間の総労働時間(2,085.7時間)の範囲内であれば問題ありません。

1年単位の変形労働時間制の導入要件

1年単位の変形労働時間制を導入する場合は、1年を平均して1週40時間以内になるよう所定労働時間を設定すること以外にも、いくつか条件が定められています。

出勤日数は280日以内とすること

1年単位の変形労働時間制を採用する場合は、1年間の出勤日数の上限が280日(休日が85日以上)と定められています。

例えば、1日の所定労働時間が7時間15分とすると、出勤日数が287日以内(休日が78日以上)であれば2,085.7時間以内になりますが、280日を超えていますので、この場合は出勤日数を280日(休日は85日)にしないといけません。

1日10時間、1週52時間以内とすること

1年単位の変形労働時間制を採用する場合は、1日の所定労働時間を10時間以内、1週の所定労働時間を52時間以内とすることが定められています。

したがって、所定労働時間が1日10時間又は1週52時間を超える場合は、1年を平均して1週40時間以内であっても残業手当を支払う必要があります。

1ヶ月単位の変形労働時間制はこのような制約がないので、その場合は1ヶ月単位の変形労働時間制の方が適しています。

週1日は休日を確保すること

連続して出勤させることのできる日数の上限が6日と定められています。

また、特定期間(所定労働時間が1週48時間を超える期間を「特定期間」と言います)として設定している期間については、週1日は休日を確保することが定められています。

1週48時間を超える週がある場合

所定労働時間が1週48時間を超える週がある場合は、48時間を超える週は連続3週以内とすることが定められています。

また、1年を3ヶ月ごとに区切ったそれぞれ期間で、48時間を超える週は3週以内とすることが定められています。このとき、週の数は週の初日の数でカウントされます。

1週48時間丁度(1日8時間×1週6日出勤)であれば、これらの条件は関係ありません。所定労働時間は全ての週で48時間以内にしておくのが無難です。

就業規則の規定例

1年単位の変形労働時間制を採用する場合は、就業規則にその旨を記載する必要があります。規定例は次のとおりです。

  1. 第○条(※労働時間を定めた規定)及び第○条(※休日を定めた規定)の規定にかかわらず、業務の都合により、労使協定を締結の上、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年単位の変形労働時間制を採用することがある。
  2. 所定労働時間は、1年を平均して1週40時間以内とする。
  3. 所定労働日及び始業・終業の時刻は、原則として毎年2月末日までに年間カレンダーにて明示する。

1年間の区切りは特に決まりはありませんので、会社が自由に決められます。年度が切り替わる時期やカレンダーを作成する時期、決算期、どれでも構いません。

労使協定の作成と労働基準監督署への届出

1年単位の変形労働時間制を採用する場合は、労使協定を締結する必要があります。労使協定には、次の内容を記載します。

  1. 対象労働者の範囲
  2. 対象期間及び起算日
  3. 特定期間
  4. 労働日及び労働日ごとの労働時間
  5. 労使協定の有効期間

そして、1年単位の変形労働時間制の「労使協定」と「届出書」を労働基準監督署に届け出ないといけません。

1年単位の変形労働時間制の残業手当の計算方法

1年単位の変形労働時間制を採用している場合の残業手当の計算は、労働基準法に基づいて計算すると、とても複雑になります。

実務上は1年を平均して1週40時間ギリギリになるよう所定労働時間を設定して、所定労働時間を超えた時間に対して残業手当を支払っているケースが多いです。

なお、1年単位の変形労働時間制を採用していても、午後10時から午前5時までの深夜の時間帯に勤務したときは、深夜勤務手当を支払わないといけません。

1年単位の変形労働時間制の36協定の限度時間

36協定で定める「延長することができる時間」の限度時間は、通常は1ヶ月45時間、1年360時間と定められていますが、1年単位の変形労働時間制を採用する場合は、それぞれ1ヶ月42時間、1年320時間と定められています。

1年単位の変形労働時間制を採用している場合は、1年を通して労働時間を調整できますので、他の制度とは異なる限度時間が設定されています。このため、36協定では別の記入欄が設けられています。

(2011/6作成)
(2014/5更新)