採用内定の取消し
採用の内定
社員が入社してくると、労働者として、労働基準法が適用されたり、会社には様々な制約が課されます。
しかし、入社する前の採用内定の段階でも、いくつかの制約があります。
ただし、採用内定の段階では勤務はしていませんので、入社後の場合とは多少異なります。
採用の内定について、お伝えします。
採用の内定とは
会社が採用の内定を出すと、会社と内定者との間に、「始期付 解約権留保付 労働契約」が成立するものとされています。
要するに、実際に勤務を開始するのが数ヶ月や数日先の「始期付」で、それまでに不都合な理由があったときは労働契約を解約できる「解約権留保付」の労働契約とされています。
この「解約権留保付」の労働契約を解約することを、一般的に、「採用内定の取消し」と言います。
採用内定の取消し
上のとおり、採用内定を出すことによって、労働契約が成立しますので、内定の取消しは解雇と同じ扱いになります。つまり、その解雇(内定の取消し)に正当な理由がなければ、無効になります。
無効と判断されると、入社させないといけません。
たとえ、入社を求めてこなかったとしても、採用内定を取り消したときは、(特に新規学卒者には)損害賠償の支払は避けられないでしょう。 通常は、採用内定が出されると、他社への就職活動を停止しますので、他社への就職の機会を失わせたことになります。
採用内定の取消し事由
通常は、採用(内定)通知書や誓約書に内定の取消し事由として記載しています。具体的には次のような事由です。
- 学校を卒業できなかったとき
- 健康を著しく害したとき
- 逮捕、起訴されたとき
- 履歴書や面接内容に重大な虚偽があったとき
- 重要な採用手続を怠ったとき
- 整理解雇が避けられないとき(補償などが必要)
- これらに準ずる事実のあったとき
採用内定の取消しは、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できない事実であって、正当な理由がある場合に限られます。
採用内定を出した当時に知っていたこと(知ることができたこと)を理由にして、内定を取り消すことはできません。
解雇予告
採用内定を取り消すときは、通達によると、解雇予告の手続き(30日以上前の解雇の予告、又は、30日分以上の平均賃金の支払)が必要とされています。
しかし、労働基準法では、入社して14日以内の試用期間中の者については、解雇予告の手続きは不要とされていて整然としません(採用内定段階は解雇予告が必要で、入社して14日間は不要になって、その後また必要になる)。
また、30日以上前の解雇の予告であれば、賃金を支払う必要がなく、無意味に内定者を拘束することになってしまいます。
そもそも、労働基準法が適用される「労働者」とは、会社に使用されて賃金の支払を受ける者とされています。採用内定の期間中は会社に使用されていないし、賃金の支払も受けていないことから、労働基準法は適用されないと考えられます。
したがって、解雇予告は不要と考えられるのですが(見解が分かれていてこちらは少数です)、内定の取消しを円満に行うためには、解雇予告手当として賃金の1ヶ月分以上の解決金を支払うのが無難です。なお、その際は、内定を受け入れるという本人の押印をもらって下さい。
自宅待機
事情があって採用内定者の入社日を遅らせるために、内定者に自宅待機を命じることがあるかもしれません。
会社の都合で休業(自宅待機)させたときは、労働基準法により、休業手当として、平均賃金の60%を支払うことが義務付けられています。したがって、自宅待機をさせている期間中は、会社は休業手当を支払わないといけません。
内定辞退
会社が行う内定の取消しには制約がありますが、社員から行う内定辞退にはほとんど制約がありません。入社したときと同様に、退職をする2週間前に通知をすれば内定辞退が認められます。
内定辞退により会社が損害を被ったときは、社員に対して損害賠償を請求することも考えられますが、余程の事情がない限り不可能に近いです。
なお、求人などの採用経費については、経営上の問題(どこに求人を出すか等は会社の判断で決めること)ですので、それを社員に求めることはできません。
(2008/9更新)
(2014/5更新)