多能工と複数担当制
その人しかできない仕事
従業員が急に退職したり、病気等で急に長期間出勤できなくなったりして、困ったことがある会社は多いのではないでしょうか。
特定の業務や特定の顧客に1人の従業員というように、1対1で対応していると、その従業員が抜けたときに穴埋めが難しくなります。
特に、「その人しかできない仕事」があると、次のような弊害が生じます。
業務の繁閑の影響が直撃する
他の従業員の助けを受けられませんので、納期が迫ってきたときは、長時間労働で対応せざるを得ません。長時間労働の温床になります。
反対に、担当する業務が途切れたときは、手待ち時間が生まれて時間を持て余すことになります。その時間は余剰人員になり、非効率です。
心身が疲弊する
「休むと他の人に迷惑をかけてしまう」、「仕事が滞ってしまう」と考えて、簡単に休んだり、早退したりできません。また、「いつも仕事に追われている」というプレッシャーもあり、心身が疲弊していきます。
会社としては「頑張ってくれている」と思うかもしれませんが、ストレスが蓄積されていきますので、長期的な視点で見ると会社に対する貢献度も低下していきます。また、職場にゆとりがなくなり、ハラスメントを引き起こす原因にもなりかねません。
離職率が高くなる
中途半端に休んだり、早退したりすることが許されませんので、子育てや家族の介護等により、仕事と家庭の両立が難しくなって、退職を選択するケースが増えます。
業務が硬直化する
1人の従業員が同じ業務を長期間担当していると、新しい提案が生まれにくくなります。業務が硬直化し、改善の機会が失われます。
人事評価が難しい
個人個人で担当する業務(難易度)が異なりますので、従業員同士で比較することが難しく、本人しか分からないブラックボックスのような仕事があると更に、人事評価が難しくなります。
多能工とは
「多能工」とは、1人の従業員が複数の業務を担当できることを言います。「マルチタスク」や「ダブルタスク」と呼ばれることもあります。
多能工は、元々は製造業の生産現場において、1人の従業員が複数の機械を受け持つことによって、手待ち時間を減らし、効率化を実現する目的で生まれました。現在では、製造業の他にも様々な業種で、合理化の1つの手段として、積極的に取り入れられています。
複数担当制とは
営業部門においては、顧客ごとに1人の担当者を配置している会社が多いと思いますが、顧客ごとに2人の担当者を配置する「複数担当制」も注目されています。
主担当と副担当がペアを組んで、情報やデータを共有しながら仕事を進めます。「ダブルアサインメント」や「マルチ担当制」と呼ばれることもあります。
また、営業部門に限らず、通常は1人で担当する業務(代替が難しい業務)に、あえて複数の従業員を配置することもあります。
多能工と複数担当制のメリット
多能工と複数担当制を組み合わせることで、次のような大きなメリットが生まれます。
人員を効率的に活用できる
納期が迫ってきたときや特定の部門が忙しいときに、人員を追加することによって、1人当たりの業務量を軽減できます。長時間労働を抑制することができ、納期の遅延も防止できます。反対に、業務が途切れたときは、必要な場所に移すことによって、余剰人員となることを防げます。
臨機応変に配置することによって、全体的に業務量(負担)を平準化でき、人員を効率的に活用できるようになります。分業制が当たり前だったホテル、スーパーマーケット、レストラン等では、品質を維持したまま、人員を削減できる(利益の向上が見込める)方法として注目されています。
業務が改善される
新しい担当者が加わることによって、作業の無駄が見付かったり、新しい方法を取り入れたりして、業務が改善されることが期待できます。
新しい担当者を受け入れる際に、通常は作業手順を示したマニュアルを作成します。1つ1つの作業を可視化することによって、各作業の目的や問題点等を見直す良い機会になります。
チームワークが高まる
これまで1人で抱え込んでいた業務について、別の担当者が加わることによって、意見交換ができ、視野が広がります。
また、お互いの業務で主担当と副担当の関係にすれば、持ちつ持たれつで助け合い、チームワークが高まります。人材育成(OJT)の手段として、新入社員とペアを組むことも考えられます。
人材育成のノウハウが蓄積する
教える方は、経験上何となく分かっていることも整理して、言葉で説明しないといけません。教わる方も、メモを取りながら、ポイントを理解して、分からないことは質問しないといけません。このようなことが繰り返し様々な場所で行われることによって、人材育成のノウハウが蓄積します。
人材活用の幅が広がる
「自分がやらなければならない」というプレッシャーから開放され、休めるようになります。また、短時間勤務が可能になりますので、家庭の事情等により、短時間勤務でしか働けないという方も活用できるようになります。
今後、人手不足がより深刻になっていくことが予想されますので、女性や高齢者、障害者を積極的に活用できる体制を整備することが大事です。また、従業員は安心して働き続けられますので、離職率は低下します。
退職時の穴埋めが容易になる
2人の担当者を配置している場合に、片方の従業員が急病等で出勤できなくなったり、退職したりしても、残された担当者が穴埋めできますので、業務が滞ることはありません。
多能工導入の注意点
専門性が高く、代替が難しい業務となると、教育訓練や研修が必要ですので、そのための費用が掛かります。また、成果が見えるようになるまでには時間が掛かりますので、ある程度は辛抱が必要です。
多能工化を進めるとすると、覚えなければならないことが増えます。成長したいという意欲が強い従業員と弱い従業員では、習得量に差が生じます。
更に、仕事を手放したくないと思っている従業員からは不満の声が出るでしょう。会社のメリット、従業員のメリットについて、詳しく説明をして、理解してもらうことが欠かせません。
1人で行っていた業務を協力しながら処理することになります。また、他の従業員のためにマニュアルを作ったり、多能工にはボランティア的な側面があります。利他の組織風土がないと難しいかもしれません。最初は対象者を限定して、試験的に行ってはいかがでしょうか。
(2019/6作成)