長期休業者の職場復帰
精神疾患による長期休業
身体的な傷病により長期休業をして、その後に、回復して職場に復帰する場合は、普通は軽快の方向に向かいますので、主治医等の意見を正しく聴いていれば、病状が悪化するケースは比較的に少ないです。
しかし、うつ病などの精神疾患により長期休業をして、職場に復帰する場合は、会社が丁寧な対応をしないと、再び病状を悪化させる危険性があります。
職場への復帰は、まず、本人から復帰の意思が伝えられて、主治医の診断書等に基づいて、仕事ができる程度に回復したと会社が判断して認めることになります。そして、復帰後に、会社が場当たり的に対応していると、後手に回って早急な対応を迫られて、判断を誤ることに繋がります。
そうならないためには、想定されることを整理して、準備しておくことが大事です。完全に復帰するまでのそれぞれの段階で、会社は何を検討すればいいのか、どのような点に注意すればいいのかを解説いたします。
試し出勤(リハビリ出勤)
職場復帰の可否の判断をするために、試験的に出勤をさせて、様子を見る場合があります。試し出勤(リハビリ出勤)としては、次のような制度があります。
- 模擬出勤:勤務時間と同じ時間帯に、デイケア等で軽作業を行ったり、図書館等で過ごす。
- 通勤訓練:自宅から職場の近くまで通勤をして、職場付近で一定時間を過ごした後に帰宅する。
- 試し出勤:職場に試験的に出勤をする。
このような制度を利用する場合に、会社が業務(作業)をさせると、賃金の支払義務が生じたり、事故が発生したときは労災保険が適用されたりします。位置付けを曖昧にしていると、トラブルの原因になりますので、業務(作業)をさせるか禁止するか、あらかじめ定めて本人に伝えてください。
復帰後の勤務形態
精神疾患により長期休業していた従業員を職場に復帰させて、いきなり発症前と同じ仕事の量と質を求めることはできません。そのため、最初は負担を軽減した勤務形態で受け入れて、段階的に発症前の状態に戻していくという配慮が必要です。
例として、次のような勤務形態が考えられます。
- 短時間勤務
- 時間外勤務と深夜勤務の禁止
- フレックスタイム制の適用、など
また、次のような負担の大きい業務は担当させないで、定型業務などの軽易な業務を担当させるといった配慮も必要です。
- 危険作業
- 苦情処理
- 顧客との交渉
- 出張
- 自動車の運転、など
どのような形で受け入れるかは、職場の事情等も考慮しながら、それぞれのケースに応じて判断をします。判断をする際は、次のような事柄を参考にすると良いでしょう。
- 本人に十分な意欲があるか
- 通勤の時間帯に1人で安全に通勤できるか
- 所定労働時間の勤務ができるか
- 業務に必要な作業ができるか
- 作業による疲労が翌日までに十分回復するか
- 適切な睡眠覚醒リズムが整っているか
- 昼間に眠気がないか
- 業務遂行に必要な注意力と集中力があるか
復帰は元の職場に
新しい職場に慣れるまでには、ある程度の時間と心理的な負担を要します。その負担が、精神疾患の再発に結び付く可能性があることから、復帰は元の職場にするべきと考えられています。配置転換をした方が良いと考えられる場合でも、一旦は、業務の負担を軽減しながら元の職場に復帰させて、そこで仕事の勘が戻ってから、配置転換を検討した方が良いと考えられています。
ただし、配置転換が原因で精神疾患を発症した場合は、その職場は避けた方が良いケースもあります。本人や主治医、産業医、上司、同僚等から話を聴いて、総合的に検討をする必要があります。
関係者との連携
試し出勤をするか、どのような形で受け入れるか、復帰後のフォロー(面談等)をどうするか、といった大事なことは責任が大き過ぎますので、担当者が1人で決められることではありません。
本人、家族、主治医、産業医、上司、衛生推進者(衛生管理者)等と連携を図りながら、衛生委員会を開催して決定するべきです。
従業員数が50人未満の企業は産業医の選任義務がありませんので、各都道府県に設置されている地域産業保健センターを活用してください。
主治医との連携
精神疾患については、主治医が一番豊富な情報を持っていますので、会社は主治医との連携が欠かせません。しかし、主治医は日常生活ができる程度に回復したという判断はできますが、通常は本人の具体的な業務内容までは把握していません。
本人から説明していたとしても、本人の主観が入りますので、業務内容等については、改めて会社から説明をする必要があります。
一方、産業医は会社の状況は把握しているけれども、当初は本人の病状を把握していません。産業医と主治医の間で、できるだけ早い段階で連絡を取って、連携を図ってもらえると、職場でどのような配慮をすべきなのかといったことについて、会社として的確な判断がしやすくなります。
また、主治医に情報提供を依頼したりする場合の費用負担をどうするか、あらかじめ主治医に確認しておく必要があります。
プライバシーの保護
健康情報は、個人情報の中でも特にデリケートなものですので、慎重に取り扱わないといけません。従業員の健康情報を取り扱う者を特定して、それ以外の者には触れさせないよう注意してください。
また、主治医や家族等と健康情報のやりとりをする場合は、利用目的を明らかにして、事前に本人から同意を得ないといけません。不信感を持たれることもありますので、第三者から健康情報の提供を受ける場合は、本人を経由して受け取ったり、その場に本人にも同席してもらうことが望ましいです。
職場復帰後の経過
復帰をして最初の3ヶ月間は、通勤をして職場にいるだけで精一杯の段階と考えられます。この時期に再発する可能性が高いので、定期的に面談をしたりして、細心の注意が求められます。遅刻や欠勤が増えたり、上司が異変に気付いたときは、1人で抱え込まないよう直ぐに衛生推進者等に連絡するよう取り決めておきます。
3ヶ月が経過すると、周りの同僚は通常の勤務を期待し始めて、本人も遅れを取り戻そうとして焦りを感じ出します。しかし、復帰をして半年間は再発の可能性がまだ十分に残っています。そして、半年が経過した頃になると、完全復帰ができるかどうかという段階になります。
(2018/3作成)