雇用保険法等の改正(令和2年)

雇用保険法等の改正

雇用保険法、高年齢者雇用安定法、労災保険法等の法律が改正されました。

70歳までの雇用確保措置

現在、定年年齢は60歳以上とすることが定められていて、その上で、65歳まで雇用を確保することが義務付けられています。

その上で、高年齢者雇用安定法が改正されて、次のいずれかの措置を講じて、70歳まで雇用を確保するよう努めなければならないことが定められました。

  1. 定年年齢の引上げ
  2. 継続雇用制度の導入
  3. 定年制の廃止

「2.継続雇用制度」とは、高年齢者が希望するときは、定年後も引き続いて雇用する制度を言います。定年後に嘱託従業員として再雇用する場合が、これに該当します。

また、会社が従業員の過半数代表者(又は過半数労働組合)の同意を得た場合は、次の措置も許容されます。雇用以外の措置で、65歳までの雇用確保措置にはなかったものです。

  1. 業務委託契約をする制度
  2. 社会貢献事業に従事する制度

令和3年4月1日から施行されています。

現在、義務付けられている65歳までの雇用確保措置は、最初は努力義務として定められました。70歳までの雇用確保措置が、今回、努力義務として定められました。将来は義務化が予想されます。

高年齢雇用継続給付の縮小

60歳以上65歳未満の従業員について、賃金が低下した場合は雇用保険から高年齢雇用継続給付が支給されます。

現在の高年齢雇用継続給付の支給額は、60歳時点の賃金と比べて61%以下に低下した場合が最大で、各月の賃金の15%に相当する額となっています。61%を超える場合は支給率が15%から徐々に低下し、75%でゼロになります。

65歳までの雇用確保措置が進展していることから、雇用保険法が改正されて、支給率の上限が15%から10%に縮小されます。

また、上限の支給率(10%)が適用されるのは60歳時点の賃金と比べて64%以下に低下した場合で、64%を超える場合は支給率が10%から徐々に低下します。

令和7年4月1日から施行されます。

兼業従業員への労災保険給付

複数の会社(A社とB社)で勤務している従業員が、A社で仕事中に怪我をして休業したときは、A社の賃金のみを基準にして、労災保険から休業補償給付が支給されていました。休業せざるを得ない場合はB社からの収入も途絶えるため、生活に支障が生じるケースがあり、問題になっていました。

政府としても兼業や副業を促進していることから、労災保険法が改正されて、A社の賃金とB社の賃金を合算した額を基準にして、労災保険給付が行われるようになります。対象となるのは、休業補償給付、遺族補償給付、障害補償給付などです。

通勤災害の場合も同様に、合算した額を基準にして、労災保険給付を受けられます。

また、脳・心臓疾患や精神疾患等の労災認定を申請すると、従来はそれぞれの会社で業務の負荷(長時間労働やストレス等)を評価して、労災認定の判断が行われていました。

労災保険法が改正されて、両社の業務の負荷を総合的に評価して、労災認定の判断が行われるようになります。したがって、A社の業務の負荷(長時間労働やストレス等)のみで判断すると不十分で、労災認定を受けられない場合であっても、B社の業務の負荷を加味すると、労災認定を受けられるケースが出てくるようになります。

令和2年9月1日から施行されています。

高年齢被保険者の特例

雇用保険の加入基準は、@1週間の所定労働時間が20時間以上で、A31日以上雇用する見込みがあること、となっています。

平成29年以降は、65歳以上の従業員についても、加入基準を満たしている場合は、高年齢被保険者として加入が義務付けられています。

雇用保険法が改正されて、次の3つの要件を全て満たしている者が申し出た場合は、加入義務がなくても、雇用保険の高年齢被保険者になることができます。

  1. 65歳以上で、複数の会社に雇用されている
  2. 1週間の所定労働時間が、それぞれ20時間未満である
  3. 1週間の所定労働時間が、合計20時間以上である

高年齢被保険者になることによって、雇用保険の保険料を納付しないといけませんが、退職したときに要件を満たしていれば、高年齢求職者給付金を受けられるというメリットがあります。

また、65歳以上の従業員がこの申出をしたことを理由として、会社は解雇等の不利益な取扱いをしてはならないことが定められます。

令和4年1月1日から施行されています。

被保険者期間の計算方法

退職者が雇用保険の失業給付を受給する場合は、退職前の2年間に11日以上出勤した月が12ヶ月以上(特定理由離職者及び特定受給資格者については6ヶ月以上)あることが条件となっていました。

1週間の所定労働時間が20時間以上という雇用保険の加入基準を満たしているにもかかわらず、出勤日数が足りなくて、失業給付を受給できないケースがありました。

雇用保険法が改正されて、出勤日数(賃金支払基礎日数)が11日に満たなくても、80時間以上勤務した月は1ヶ月としてカウントすることになります。出勤日数が少ない者も、雇用保険の失業給付を受給できる可能性があります。

令和2年8月1日から施行されています。

給付制限期間の短縮

自己都合で退職した者が雇用保険の失業給付を受給する場合は、ハローワークに離職票を提出してから7日間の待期期間があって、3ヶ月の給付制限期間がありました。そして、4週間ごとに失業給付が支給されます。

この取扱い(業務取扱要領)が変更されて、給付制限期間が3ヶ月から2ヶ月に短縮されます。ただし、2ヶ月に短縮されるのは、5年間で2回までとされています。また、自己の責めに帰すべき重大な理由により解雇された場合は、これまでどおり3ヶ月のままです。

令和2年10月1日から施行されています。

中途採用比率の公表

労働施策総合推進法が改正されて、従業員数が300人を超える大企業に対して、中途採用の割合を定期的に公表することが義務付けられます。職場の情報を明らかにして、中途採用を希望する者と企業のマッチングを促進することを目的としたものです。

令和3年4月1日から施行されています。

(2022/8作成)