高年齢者活用のポイント

高年齢者の割合

2018年現在、日本の総人口の内、65歳以上が占める割合は約28%、60歳以上に広げるとその割合は約33%に及びます。また、就業者の内、65歳以上が占める割合は約13%、60歳以上に広げるとその割合は約21%に及びます。つまり、働いている人の5人に1人は60歳以上で、この割合は今後も増えていきます。

現在、高年齢者雇用安定法によって、本人が希望すれば65歳まで雇用を継続することが義務付けられています。政府は社会保障の担い手を拡大するために、本人が希望すれば70歳まで働けるようにすることを努力義務として定めた法改正を検討しています。

2018年現在、65歳以上の就業者数は862万人、60〜64歳の就業者数は525万人となっていて、65歳以上の就業者数の方が上回っています。既に高年齢者は無視できない大きな存在になっていますので、どのように活用するか、どのように戦力化していくかを考えないといけません。

人手不足の解消

高年齢者を雇用している会社でも、定年退職後に継続して再雇用しているケースが多く、高年齢者を外部から新規で雇用しているケースは一般的ではありません。人手不足が深刻化していますが、積極的に高年齢者を採用したいという会社は、今はまだ少数派です。

中小企業が若年層の採用にこだわっても、良い人材を獲得することは困難です。「60歳以降も仕事をしたい」「65歳以降も仕事をしたい」という人が増えています。高年齢者の獲得競争が始まる前に、受け入れ体制を整えた会社は、人手不足の問題を解消できる可能性があります。

高年齢者の働き方

高年齢者になると、勤務意欲、能力、経験、健康状態、家族の介護、生活環境などの個人差が大きくなりますので、一律の働き方しか認めていないと受け入れられない人が出てきます。個々の高年齢者の実情に合わせて、臨機応変に対応できる中小企業の方が、高年齢者を活用しやすいです。

会社から定年退職する予定の従業員に、年金制度等について説明をした上で、継続雇用を希望するか、どのような働き方を希望するか、意向を確認すると、「これまでどおり働きたい」という人、「補助的な仕事で短時間勤務に変更したい」という人、に分かれると思います。

「これまでどおり働きたい」という場合は、従来と同じ業務を引き続き担当してもらうことになります。60歳代前半はこのパターンが多いです。

役職者として勤務していた者については、そのまま引き継ぐこともありますが、役職を外して一担当者として勤務してもらったり、配属を変えたり、会社の状況等に応じて検討することになります。

また、高い技能や専門知識等を持っている者については、OJTで若手を指導したり、マニュアルの整備や手直しをしたりする役割を与えることも考えられます。

プライベートの事情等によっては、担当業務は同じままで、出勤日数や勤務時間を減らしたいという希望が出ることもあります。

一方、フルタイムでバリバリ働くのは難しいけれども、「補助的な仕事で短時間勤務に変更したい」という人は、65歳以降になると増えてきます。働くことが健康に繋がったり、生きがいになったりするという高年齢者が増えてくると思われます。

賃金の決定方法

高年齢雇用継続給付と在職老齢年金の仕組みに合わせて、定年退職後に再雇用をするタイミングで、賃金を引き下げるケースが一般的です。

補助的な仕事に変えてそれに応じた賃金を支払うのであれば、従業員から納得を得られます。しかし、同じような仕事を継続する場合は、職責や役割を軽減したとしても、それ以上に賃金を減額すると、モチベーションの低下を招く恐れがあります。一部の高年齢者のモチベーションの低下は問題にならないかもしれませんが、従業員の2割を占めるようになると見過ごせません。

本来は仕事内容や能力、貢献度等に応じて賃金が決定されるべきですが、年功賃金で積み上がった水準を維持することは困難という会社が多いです。定年前の割高な賃金を見直したり、賃金の決定方法をどうするかが今後の課題になってくると思います。

働きやすい職場環境の整備

家族の介護が必要だったり、プライベートを重視する働き方を望む高年齢者は多いです。また、年齢を重ねると体力、視力、聴力等の身体機能が低下します。高年齢者を活用、戦力化するためには、高年齢者が働きやすい職場環境を整備することが大事です。

短時間勤務制度

家庭の事情や体力的な問題から、フルタイムで勤務をすることは難しいけれども、短時間勤務なら可能というケースがあります。高年齢者を外部から採用しようとする際は、フルタイムより短時間勤務で募集した方が集まりやすいと思います。フレックスタイム制も、そのような高年齢者の要望に応えられる制度の1つです。

多能工の推進

多能工や複数担当制を導入すると、誰かが休んだときでも、業務が滞ることはありません。例えば、3人がそれぞれの担当を決めて仕事をするより、短時間勤務の5人が3種類の仕事を処理できるよう訓練をすれば、より強い組織になります。

労災事故の予防

休業4日以上の労災事故の発生率は、60歳以上の高年齢者は、20歳〜39歳の者と比較して、2倍以上になっています。また、高年齢者が被災したときは、重傷化する傾向があります。高年齢者の労災事故を予防するために、次のような対策が考えられます。

高年齢者に優しい職場

短時間勤務等の様々な働き方を認めたり、事故予防の対策を考えたり、高年齢者に優しい職場は、女性、障害者、外国人にも優しい職場で、全ての従業員にとって働きやすい職場です。

上で列挙したのは一例で、それぞれの職場で求められる対策は異なります。高年齢者に優しい職場環境にするにはどうすれば良いか、改善した方が良い所はないか、直接、繰り返し、高年齢者に話を聴くことが大事です。

(2021/8作成)