受動喫煙防止対策

受動喫煙とは

受動喫煙とは、労働安全衛生法では、「室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされること」と定義されています。

昭和の時代は喫煙率が高く、嗜好品として社会的に広く受け入れられていました。しかし、現代は、受動喫煙によって、肺がんの危険性が指摘されたり、頭痛、せき、目や鼻の異常を生じさせたり、非喫煙者の健康に害を及ぼすものとして関心が高まっています。

健康増進法と労働安全衛生法

健康増進法により、「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない」と定められています。

また、労働安全衛生法でも、会社は従業員の受動喫煙を防止するために、職場の実情に応じて、適切な措置を講じるよう努めることが定められています。

健康増進法は施設(対象者)が限定されていますが、労働安全衛生法は全ての企業が対象になります。以下では、労働安全衛生法に基づいて、「受動喫煙防止対策」を実施する場合の具体的な進め方を紹介します。

@衛生委員会の設置

受動喫煙防止対策を効果的なものとするためには、会社全体で組織的に取り組む必要があります。

経営者、管理者、従業員が参加する衛生委員会を設置して、受動喫煙防止対策を検討し、実施します。衛生委員会には、喫煙者と非喫煙者の両方を参加させることが望ましいです。

A実情の把握と分析

実情に合った対策を実施するために、次のような情報を収集します。

職場の空気環境を測定する際に必要となる、粉じん計や風速計は、厚生労働省から委託された【柴田科学株式会社】から、無料で借りられます。また、測定方法の説明も受けられます。

B受動喫煙防止対策の検討

現状を踏まえて、実施が可能で効果的な対策を検討します。対策としては、次のような方法が考えられます。【  %】は実施している企業の割合です(平成29年「労働安全衛生調査」)。

このような施設や設備といったハード面の対策に加えて、説明会や講習に参加するといったソフト面の対策を組み合わせると効果的です。

厚生労働省から委託された【一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会】では、無料で、受動喫煙防止対策に関する説明会を開催したり、講師を派遣したりしています。また、喫煙室の設置など技術的な内容について、専門家による相談も受けられます。

C受動喫煙防止対策の実施と点検

対策を実施した後は効果を確認して、必要に応じて見直します。建物内に喫煙室や喫煙コーナーを設けている場合は、定期的に空気環境を測定することが望ましいです。

なお、空気環境は、次の値が目安とされています。

  1. 浮遊粉じん濃度:0.15mg/m3以下
  2. 一酸化炭素濃度:10ppm以下
  3. 喫煙室内に向かう気流:0.2m/秒以上(煙の漏れ防止のために必要な気流)

受動喫煙防止対策助成金

次の受動喫煙防止対策を行う中小企業に対して、「受動喫煙防止対策助成金」が支給されます。

  1. 喫煙室の設置・改修
  2. 屋外喫煙所(閉鎖系)の設置・改修
  3. 換気装置の設置など(宿泊業・飲食店のみ)

支給額は、喫煙室の設置等に掛かった費用の1/2(上限100万円)です。他にも要件が定められていますし、工事を発注する前に交付申請書を都道府県労働局に提出する必要がありますので、事前に都道府県労働局(健康安全課又は健康課)に相談してください。

受動喫煙による損害賠償請求

会社には従業員の健康に配慮する義務があります。従業員の健康状態が悪化することを予見できて、それを回避する手段があったにもかかわらず、会社が放置して、更に健康状態が悪化したとすると、会社は健康配慮義務を怠ったと判断されます。

損害賠償を支払わされることになりますので、特に従業員が医師の診断書を提示して、受動喫煙による健康被害を訴えてきた場合は、会社は禁煙や分煙の措置を講じる必要があります。

全面禁煙

これまで自席で喫煙できていたものを、全面禁煙に切り替えることは可能でしょうか。

企業に対して受動喫煙防止対策を講じることが努力義務として課されていますので、全面禁煙に切り替えても、法律的に問題はありません。また、喫煙をする権利はあるのですが、いつでも、どこでも喫煙できるということではありません。一定の制約を受けることは仕方がないと考えられています。

したがって、喫煙室の設置費用が掛かる、会社として健康経営に取り組む、顧客に良く思われない、といった合理的な理由があれば、職場を全面禁煙にすることは可能です。

喫煙者の採用拒否

「喫煙者は採用しない」という方針を明らかにする企業が増えています。このような方針は問題ないのでしょうか。

採用するときに、年齢制限を設けたり、男女差別をすることは、法律で禁止されていますが、それ以外は基本的に採用の自由が認められています。もし、そのように方針を変更するのであれば、現在、喫煙している従業員には禁煙外来の費用を会社が負担するなどして、在籍している従業員の喫煙者をゼロにしてから行うのが望ましいです。

また、「喫煙者は採用しない」という条件で採用した場合、入社後に喫煙が発覚したときは解雇できるのでしょうか。

自宅で喫煙していたり、職場でたまたま1本だけ喫煙したというケースでは、正当な解雇理由とは認められにくいです。喫煙の頻度や時間帯、喫煙者を不採用とした理由、他の従業員の喫煙状況、会社の禁煙の取り組み、誓約書の有無と内容、業種や職種など、正当な解雇理由と認められるかどうかは、個々のケースによります。

(2020/10作成)