近距離手当とは

近距離手当とは

従業員に会社の近くに住むよう促すために、近距離手当(名称は、近隣手当、近距離通勤手当、近距離住宅手当などとしている会社もあります)を支給する会社が増えています。

近距離手当の支給要件や支給額の決定方法は様々で、次のような例があります。

近距離手当を支給する場合、月額1万円から3万円の範囲内で支給している会社が多いです。また、距離、役職、勤続年数に応じて、支給額に差を設けている会社もあります。

従業員のメリット

(1)会社と自宅が近くなると、通勤時間を短縮できますので、プライベートや自己研鑽に充てられる時間が増えます。また、過重労働による過労死(脳・心臓疾患)等は、睡眠時間の不足から生じると考えられています。睡眠時間に充てれば、過労死等の健康障害を防止できます。

(2)満員電車に長時間乗っていると、ストレスが溜まり、体力を消耗します。会社と自宅が近くなると、ストレスがなく、体力を温存できます。

(3)徒歩や自転車で通勤できる場所に住むと、電車の遅延、交通事故や渋滞など、交通トラブルに巻き込まれることがありません。同時に、遅刻をする要因を減らせます。また、災害が発生したりして、交通機関が運休したとしても、帰宅困難者にならずに済みます。

(4)例えば、通勤手当として月額2万円が支給されたとしても、定期券代やガソリン代に消費しますが、近距離手当として月額2万円が支給されると、手元に残ります。

(5)昼ご飯を食べるために、休憩時間に自宅に帰ることができれば、外食費用を抑えられたり、弁当を作る手間を省けたりします。

会社のメリット

(1)会社と自宅が近くなると、会社は通勤手当の支給額を減らせます。ただし、通勤手当として月額2万円を支給している従業員が徒歩圏内に引っ越して、会社が月額2万円の近距離手当を支払ったとすると、会社の経費としては差引きゼロになります。

(2)満員電車に長時間乗ると、出勤するだけで疲弊します。会社と自宅が近くなると、通勤に伴う疲労を軽減できますので、従業員は能力を発揮しやすくなり、会社の生産性の向上や競争力の強化に繋がります。

(3)同じ地域に住む従業員がいると、一緒に飲食をする機会が増えます。従業員同士の一体感が生まれやすくなって、定着率の向上に繋がります。

(4)会社において緊急事態が生じたときに、近くに住んでいる従業員に対応の依頼をしやすくなります。

従業員のデメリット

(1)会社の近くの賃貸物件は、家賃が高額になるケースが多いです。差額を近距離手当で補填できれば、他のメリットを享受できますので、引っ越しをする可能性はあります。

(2)単身の従業員は引っ越しに障害が少ないですが、子がいる世帯や持ち家の従業員は引っ越しが困難なケースが多くなります。不公平感を持たれる恐れがあります。

(3)緊急事態が生じたときに、会社から呼び出される可能性があります。

(4)断れない性格の人は、他の従業員から鍵の開け閉めを頼まれたり、終電を逃した従業員から泊めて欲しいと頼まれたり、仕事とプライベートが入り交じった生活になる恐れがあります。

会社のデメリット

(1)近距離手当を導入すると、会社の移転が難しくなります。

(2)削減できた通勤手当を近距離手当に充当できれば、差引きゼロになりますが、近距離手当の決定方法によっては、経費が増加します。近距離手当の支給は2年間に限るなど、支給期間を設定することも考えられます。しかし、支給期間が満了して減額されると、(前もって分かっていたとしても)従業員のモチベーションが低下しますので、支給期間を設定するのであれば、一時金で支給する方が良いと思います。

(3)自宅が近いから直ぐに帰れると思って、遅くまで残業をする従業員が現れるかもしれません。無暗に残業をさせないよう、所属長が注意をする必要があります。

引っ越し費用の負担

近距離手当が支給される地域に従業員が引っ越したときは、引っ越し費用や入居費用を補助するために、一時金として20万円を支給している会社もあります。一時金だけ支給して、毎月の近距離手当は支給していない会社もあります。引っ越し費用や入居費用は高額ですので、会社の補助があると引っ越しを決断しやすくなります。

なお、何度も利用されると困りますので、支給する場合は、1人につき1回に限定するべきでしょう。

自転車通勤手当

自宅の場所は限定しないけれども、近距離手当と同じ趣旨で、自転車通勤をする従業員に対して、自転車通勤手当を支給している会社もあります。更に、自転車保険や駐輪場の費用を会社が負担することもあります。自転車通勤をすると、健康増進やダイエットにも効果的です。

通勤手当

通勤手当は、労働基準法で支給が義務付けられているものではありませんが、就業規則で支給することを定めたり、採用時に支給すると約束したりしたときは、支給が義務付けられます。

通常、通勤手当の支給額は、定期券代の実費や通勤距離を基準にして決定しています。そのため、会社への貢献度とは関係なく、遠くに住む従業員には高額の通勤手当を支払うことになります。どこに住むかは従業員本人が決定することですので、会社が強制することはできません。

会社の近くに住むよう促すために、通勤手当を廃止することも考えられますが、その場合は個別に従業員から同意を得るか、就業規則の不利益変更の要件をクリアして進める必要があります。特に遠距離通勤をしている従業員にとっては死活問題ですので、通勤手当の廃止は困難です。

割増賃金の基礎となる賃金

通勤に要する費用や通勤距離に応じて支給額を決定している“通勤手当”は、割増賃金(残業手当)の基礎となる賃金から除外できます。

しかし、近距離手当はそのような手当ではありませんので、割増賃金の基礎に含めて計算する必要があります。1時間当たりの単価が上がりますので、同じ時間の残業をしていると、割増賃金の総支給額が増えます。

ただし、家賃の3割を支給するなど、住宅に要する費用に応じて近距離手当の支給額を決定している場合は、“住宅手当”として、割増賃金の基礎となる賃金から除外できます。

(2021/10作成)