社会保険の適用拡大(2022年、2024年)
現行の社会保険の加入要件
原則的には、週30時間以上勤務をする者については、社会保険(厚生年金保険と健康保険)に加入することが義務付けられています。
また、2016年10月以降は、この基準を満たしていなくても、従業員数が500人を超える大企業で勤務している者に限り、次の要件を全て満たしている場合は、社会保険の加入が義務付けられることになりました。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上である
- 1年以上の雇用が見込まれる
- 賃金の月額が88,000円以上である
- 学生でない
社会保険の適用拡大
後者の加入要件は、これまでは従業員数が500人を超えている大企業が対象でしたが、厚生年金保険法及び健康保険法が改正されて、
- 2022年10月以降は、従業員数が100人を超えている企業
- 2024年10月以降は、従業員数が 50人を超えている企業
に適用範囲が段階的に拡大されます。ここで言う“従業員数”とは、適用範囲を拡大する前の厚生年金保険の被保険者数を指します。
従業員数が100人(又は50人)前後で変動する企業は、直近の1年間のうち6ヶ月以上、100人(又は50人)を超えた場合は適用対象になります。一旦、適用されると、その後に従業員数が基準の人数を下回ったとしても、引き続き適用されます。ただし、(下回って)被保険者の3/4の同意があれば、適用対象外に戻ることができます。
現行では、「2.1年以上の雇用が見込まれる」が要件の1つになっていますが、法律の改正に伴って、この要件が撤廃されます。なお、2ヶ月以内の期間を定めて雇用する者については、従来から社会保険の適用が除外されています。これは今後も有効です。また、他の1.3.4.の要件は変わりません。
適用拡大による社会保険料の負担
従業員数が100人(又は50人)以上で、雇用保険のみ加入しているパートタイマー等がいる企業は、法改正の影響を受けます。新たに社会保険に加入することになるパートタイマー等を把握して、社会保険料の負担がどの程度増えるのか試算をしておく必要があります。
保険料率 | |
---|---|
厚生年金保険 | 18.30% |
健康保険 | 9.81%(東京都 令和4年度) |
介護保険 | 1.64% |
合計 | 約28%〜30% |
仮に、賃金の月額が11万円のパートタイマーが社会保険に新規加入したとすると、社会保険料は労使折半で負担しますので、企業側は1人1ヶ月当たり約16,000円の負担増になります。
社会保険料の負担は、パートタイマー本人にも大きな影響が及びます。現在、配偶者の扶養に入っているパートタイマー等は、新たに社会保険料の負担義務が生じます。
一方、国民年金や国民健康保険の保険料を支払っているパートタイマー等は、労使折半になって社会保険料の負担が軽減されるケースがあります。事前に説明をして、どのような働き方を希望するのか個別に話し合うことが望ましいです。
在職老齢年金の見直し
働きながら(厚生年金保険に加入しながら)受け取る年金のことを「在職老齢年金」と言います。
60歳から64歳までの在職老齢年金は、年金(基本月額)と賃金(標準報酬月額+標準賞与額の月額)の合計額が28万円を超えると、本来受給できるはずだった年金が減額される仕組みになっています。合計額が28万円以下の場合は、年金は全額支給されます。
65歳以上の在職老齢年金は、年金と賃金の合計額が47万円を超えると、本来受給できるはずだった年金から、47万円を超えた差額の2分の1が減額される仕組みになっています。合計額が47万円以下の場合は、年金は全額支給されます。
この仕組みが原因で、基準額を超えない働き方にするなど、高齢者の就労意欲を失わせているという指摘がありました。
そのため、60歳から64歳までの在職老齢年金の制度が見直されて、2022年4月以降は基準額が28万円から47万円に引き上げられました。65歳以上の在職老齢年金の制度は据置きですので、60歳以降は同じ仕組みになりました。
なお、この“47万円”は今年度の金額で、賃金の変動率に応じて自動的に改定されます。
在職定時改定の導入
65歳以降も厚生年金保険に加入していると、厚生年金保険の保険料を負担しないといけませんが、この保険料が年金額に反映されるのは、現行では退職(厚生年金保険の資格を喪失)した後になります。
この仕組みが見直されて、2022年4月以降は、65歳以上で厚生年金保険に加入していても、毎年1回10月に年金額が改定されるようになりました。仮に、標準報酬月額が20万円で1年間保険料を納付したとすると、年金の支給額は約13,000円(月額で約1,100円)増額されます。
受給開始時期の選択肢の拡大
老齢厚生年金及び老齢基礎年金は、通常は65歳から支給されますが、本人が希望する場合は、受給開始時期を60歳から64歳の範囲内で繰り上げたり、66歳から70歳の範囲内で繰り下げたりすることが可能です。なお、60歳台前半に支給される特別支給の老齢厚生年金は別です。
この範囲を拡大して、2022年4月以降は、年金の受給開始時期を75歳まで繰り下げることが可能になりました。
65歳から受給した場合を基準として、1ヶ月繰り下げるごとに0.7%年金額が増額されます。70歳から受給すると増額率は42%(81歳でトータルの受給額が逆転して上回ります)、75歳から受給すると増額率は84%(86歳でトータルの受給額が逆転して上回ります)になります。
確定拠出年金の加入可能年齢の引上げ等
国民年金や厚生年金保険に上乗せする私的な年金制度として、確定拠出年金があります。確定拠出年金には、加入できる年齢に上限があって、企業型は65歳未満の者(60歳前から継続勤務している場合)、個人型(iDeCo)は60歳未満の者、とされています。
加入可能年齢が引き上げられて、2022年5月から、企業型(厚生年金保険の被保険者)は70歳未満の者、個人型(iDeCo)は65歳未満の者になりました。
また、確定拠出年金の老齢給付金は、本人の希望により、60歳から70歳の間で受給開始時期を選択できました。この範囲を拡大して、2022年4月から、上限年齢が75歳に引き上げられました。
年金手帳の廃止
従来は従業員の基礎年金番号を把握するために、採用時に年金手帳の提出を求めていましたが、現在は個人番号(マイナンバー)を記載して届け出る場合は、基礎年金番号の記載が不要になりました。
手帳という形式で交付をする必要性がなくなってきたことから、2022年4月から、年金手帳の交付が廃止されて、基礎年金番号通知書の送付に切り替えられました。
(2022/9作成)